第40話 10年契約で報酬が国まるごと一国って

前回のあら寿司

 三国志マニアな竹中半兵衛が何故か偵察に来ていたので成り行きで城に泊める事になりました。

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 翌日の朝、城仕えの者に二人の居場所を聞いてそこに向かう。


 城を設計した時に大広間の隣に作った少人数用の作戦会議室的なスペース

『参謀の間』


 俺が入ると二人は何かの図面を前に向かい合っていた。半兵衛は涼しい顔して扇子のようなもので自分を仰ぎながら優雅な雰囲気を醸し出しているが、軍監は対照的に図面を睨みつけて難しい顔をして唸っている。なんだろ、ボードゲーム的なものかな?


「おお、これはこれは寿四郎さま! 私のような者めに貴重な寿四と宿を施していただいて感謝申し上げます」


 半兵衛はこちらに気付くが座ったままで『ザ・優雅』って感じを崩さずにそう礼を述べた。うん、完全に飯にも宿にも困っていたような人の態度とは思えないよね。そういうの遜らず平静を装えるのも軍師に必要な才覚なのだろうか?


「と、殿!! 良かったら替わってください!! 私では歯が立たぬゆえ……」


 と助け船を求めてくるウチの軍監。こちらは平静を装うどころじゃないレベルで狼狽えている。コイツのそんな姿を見るのは初めてなんじゃないかな。


「ちょうど今、戦場の図面に碁石を軍隊に見立て、どう兵を動かすかを議論していたところなのです。どうです?一戦ほど? 」


と挑発的な笑みを浮かべて対戦相手チェンジを求めてくる半兵衛。やったろやないかい!!



だがそれから小一時間。


「それではこちらは山中より伏兵を仕掛けまする」

「だあぁー!! なんで見落としたんだソレ!? また負けかよぉ!! 」


 一戦だけのつもりがついつい4戦ぐらい繰り返すが全く勝てない。駿河・遠江での戦いを経て『大将としての戦況判断能力』を持っていない事に気付き、それから色んな戦経験の豊富な奴から兵の動かし方を聞きまくって自分なりに色々と考えて少しは成長したつもりだったんだけどな。


「いやいや、ですが悪くない筋でした。並の大将でしたら今の攻撃で押し切られ、首を獲られていたかもしれませぬ」


 扇子を仰ぎながら半兵衛が言う。でも負けは負けだし伏兵を見落としてたのは事実だ。めちゃくちゃ悔しい。


「おっと。もうこんな時間ですな。そろそろ駿府へ向かう商人に合流させていただく予定ですので、これにて失礼いたしまする」


 そう言って半兵衛が立ち上がる。結果俺と軍監合わせて0勝14敗。せめて一度は勝ちたかったな。


「寿四郎殿、軍監殿。今回の訪問、実に有意義なものとなりました。この半兵衛、御恩は必ずお返し致します」


 昨日と同じ、拳を手で包み頭だけを下げる中華式お辞儀をして孔明ならぬ半兵衛は参謀の間を出ようとする。キャラのブレない男だ。


「わ、私も城下まで半兵衛殿をお見送りいたしますゆえ」


 そう言って慌てた様子で半兵衛に続く軍監。なんかあるのか? と振り向くと


「起きたと思ったら、むさ苦しい所で男三人集まって、こんなむさ苦しい事やってたのね」


 といきなり不機嫌そうな声が飛んでくる。一昨年正室として嫁いできた(というか半ば無理やり押しかけて来た)北条氏康の娘、光姫だ。一応寝床を出る時に「先に起きるね」って声を掛けたんだけどな俺は。


「そんな事より、出来たわよ! 」


 いきなり何の事かもわからずにできた、と言われてもワケが分からない。


「ん?朝飯のことか? 」


 もう昼近い時間に差し掛かってるけど、一応聞いてみる。


「違うわよ!! 決まってんでしょうが三人目よ! 上の子の時と同じだから間違いないと思うわ」


 そっちかよ! 唐突にするような話じゃないだろと思うけど、大体いつもこんな感じだ。


 一昨年押しかけて来たこの女、光姫は嫁いでくるなり去年とさらに今年の初めに立て続けに子を産んだ。二人とも玉のような可愛らしい姫だ。だがどうしても早く男子が欲しいらしく、産後そんなに日が経ってないうちから子作りをと言い出していた。


 なんでも父親、北条氏康から男児が生まれて立派に育ったら駿河の隣、伊豆の国主にするつもりだから早く男児を産めとせっつかれているらしく、本人もいざという時に備えて嫁いで10年で10人産んでみせると豪語したらしい。あの親にしてこの娘有り、って感じだが10年契約で報酬が国まるごと一国とかスケールがデカすぎてついていけない。メ〇ャーリーガーかよ。


「今度こそ跡継ぎを産んでみせるわ! 」


 そういきり立つ光姫を誰も見ていないのを確認してふわりと抱き寄せる。


「生まれたのが男かとか女かとかどっちだって良い。あんまり身体に無理を掛けないで、ちゃんと母子ともに無事で産んで欲しいって俺は思ってる」


 現代と違って医療の整わないこの時代、早産や死産、逆に子供は助かっても母体の方が……なんて話は珍しくないのだ。もうさすがに嫁を亡くすなんて経験は、したくない。


「……わかったわよ。大丈夫、寿四郎」


 こういう時には普段の威勢の良さが鳴りを潜めて大人しい小動物のようになる。関東の覇王・北条の娘と言ってもまだ18歳の少女、それは不安なんかもあるだろう。



「うむうむ、仲睦まじきことは良い事じゃの」


 誰じゃオイ! こんな所後ろから声掛けられたら飛び上がるくらいビックリするわ。


 誰かと思えば俺が(転生してから)前に住んでいた、はま城近くに社を構える富士妙法寺の住職タコ坊主……じゃなく田子長命。戦勝祈願や安産祈願などウチの神事の一切をお願いしている勝手知ったる者ではあるが、いつもながら全く気配を感じない。坊主というより忍者の方が似合ってそうだ。


「和尚どの、今回はどのような御用で?」

「この手紙を信玄公より預かりましてな」


 和尚はそう言って懐から一通の手紙を差し出す。その動作といい、やっぱりザ・忍者って感じしかしない。

 早速受け取った手紙をこの場で広げて読んでみると、簡潔な文で至急、越後の春日山城まで寿司十人前持参して来い、天地がひっくり返っても必ず来い、と書いてあった……すっげえきったない字で。


「書状の文字から察するにかなり慌てての事のようじゃの。信玄公も二人の息子を連れて急ぎ春日山へ向かったと使いの者が申しておった」


 信玄ほどの戦国大名が慌てるほどの事って何なんだろう?しかも天地がひっくり返っても来い、とか?


 詳細は分からないものの急いだ方がよさそうだったので、延期できる予定は全て延期として俺も数日後に僅かな手勢を連れて越後・春日山へと向かう事にした。


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ご観覧ありがとうございます。

是非とも面白い作品に仕上げていきたいと思っておりますので応援・作品フォロー・レビューなど戴けると嬉しいです♪

 明日はこちらの更新はお休みしまして今書いている短編「2代目の相棒は最強の竜でした。」最終話をお届けします。シリアス作品ですがそちらもよろしくお願いします。

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