第43話 肉か、肉以外か。って魚もちゃんと食えよ!

 これからの方針を決める重要な話し合いが終わるとようやく俺のターン、寿四の振る舞いタイムとなる。


 信玄、氏康、輝虎の三大大名とほぼ側近の朝倉義景は元将軍の義輝様と一緒に食べると言っていたが、俺と信置はそれは遠慮しておいた。まだせいぜい一国だけ、それも国主になって年も浅い俺らが彼らと肩を並べられるほどではないと思ったからだ。俺に至っては寿四の為に呼ばれたんじゃねえかってくらいだし。


 だが信玄と輝虎には後で別室に来るようにと退室する時に言われてしまった。何だろう、無茶ぶりじゃなきゃ良いけど。


 そして気を遣う将軍様ランチの代わりに、義輝将軍には謁見出来なかったものの共に連れてこられた彼らの息子たちとの食事に同席できることになった。上杉・朝倉・ノブと俺は子供がまだ小さいか、居ないからという理由で来ているのは武田・北条だけだが。


「おお! 寿四郎殿!! 久しぶりじゃの。お会いできるのを楽しみにしておったぞ」


 そう歓迎するのは根っからの寿司好きで2カ月1ぐらいのペースで寿司を食べに来てる北条氏政。俺に会えるのが楽しみとか嘘つけ、お前いっつも俺じゃなくて俺の寿司にしか興味ないクセに。


「お初にお目にかかる。私が甲斐武田家嫡男・武田信玄の息子、義信よしのぶだ。隣が弟の勝頼だ」


 初めて見る爽やかイケメンがスマートにそう挨拶する。信玄の息子って言ったらもう顔面鬼瓦のイメージしかないのだが、目の前の男は母親が公家の出だからか全くその雰囲気はなく、完全に優男って感じしかしない。聞いた話じゃこれで居て戦では滅法強い、知略も使えて頭脳明晰らしい。その上でイケメンとか、パーフェクト御曹司じゃねえか。


 対してその隣で口をへの字に曲げたまま、自分からは全く挨拶もしない弟の勝頼の方が信玄に近いイメージがある。息子と言ってもハタチ過ぎの奴をこう呼ぶのも悪いが『ミニ鬼瓦』って感じだ。

 確か史実ではこの勝頼が信玄の後を継ぐって歴史で習った気がするんだけど 、嫡男で兄貴がいるのになんでそうなるんだろうな?


 というのはさておき、今日の寿四のお品書き。

 本日は将軍様に献上するというので気合いの入った内容。

 太平洋で獲れるマグロの大トロと中トロ、小田原の石鯛に平目を駿河から雪〆めで持参。そこに日本海特産の高級魚ノドグロに寒ブリ、越前ガニ、南蛮エビと各地の名物を集めた豪華仕様である。

 米はもちろん現代もこの時代でも『米どころ』として味に定評のある越後の米。さらにこれまでは使っていなかった、駿河平定後に新たな特産物にしようと栽培を始めた山葵(ワサビ)と、この時代では最高品質だと思われる掛川産の緑茶もまだメニューには組み込んでなかったが試験的に導入。寿司と言ったらやっぱこの名脇役も大事よね!


「うむ! 美味い! 美味すぎる!! 」


 いつもながら良い食いっぷりを見せる氏政。この時代にTVはないがCMにするんだったら是非起用したくなるような食いっぷりだ。


「このワサビというのがまた絶妙じゃの! マグロや寒ブリの脂の強さをピリッと引き締めてくれるわ。そこに加えてこの、ほのかな甘みと苦みのある茶が口の中を満たしてくれる。これはまさに無限に食えるぞ! 」


 そんな食レポを並べて名残惜しそうに空いた皿を見つめている。おだててもそんな風にエサ待ってる子犬みたいな上目遣いしてもおかわりは出ねーから!!


 その一方で武田勝頼は皿の端の一点を見つめ、箸にも手を付けずに止まっている。


「どうしたのじゃ勝頼殿?腹が減っておらぬのならワシが貰おうか?」


 そう氏政が声を掛けると


「生の魚を食らうなど……」


 と言ってワナワナと震えている。『生の魚を食らうなど野蛮人の極み』とかいうのだろうか?俺に戦国4連コンボ決めてきた御方みたいに。でもあの人ももう今では寿司のトリコですが。


「大丈夫じゃ、ワシも義信どのも平らげたが腹を下したりなどせん。安心して食すがよい」


 笑顔でそう言った氏政を前に畳をドン! と拳で叩いて立ち上がると


「そういう事ではない!! 将として上に立つべき我らがこのような軟弱なモノを有難がって食べるべきではないと申しておるのだ!!

 強き獣を倒し、その血肉を食らってこそ強くなれるというもの! 俺にとって食べ物とは2種類だけ! 肉か、肉以外かだ!! それをこんな狩りもせず釣ればいくらでも楽に獲れる軟弱な魚など並べおって!! 」


 と大声で叫んだ!!


「んだとテメェ!! 俺の寿四が食えねえってのか!! 表出ろやぁ!! 」


 魚捌くのは慣れてねぇ奴にゃ任せられねえ! と職人気質な事を言って一緒に来ていた魚兵衛兄がその言葉にブチ切れ、勝頼の胸倉に掴み掛かる。


「漁師風情がこの俺様に楯突くなんぞ上等だゴルァ!! 」


 勝頼も全く引く気はない。結局、俺と信置で左右から魚兵衛兄を取り押さえ、義信が勝頼を後ろから羽交い絞めにして氏政が間に入ってやっと二人を止める事が出来たが、一触即発だ。


「四郎!! 貴様何をしておるかッ!? 」


 騒ぎを聞きつけた信玄がそこに現れると、何かを言いたそうな悔しそうな表情を残して勝頼はドタドタと部屋を後にする。


「寿四郎殿、せっかくの設えを本当に申し訳ない」


 膳を半分くらい残して本当に申し訳なさそうに平謝りしながら義信がその後を追う。そんな姿に溜息を吐きながら


「寿四郎、ちょっと来れるか?」


 と俺だけを呼び出す信玄。あんな息子を持つと苦労が絶えなそうだな。



「場を仕切り直して一献、と思ったが仕方あるまい。余った寿四はワシがいただくとするか♪」


 部屋がシーンと静まり返る中、ナチュラルになのかそう振る舞ってるのかは分からないが、さも当然のように自分の空いた膳と手つかずの勝頼の膳を入れ替えて笑顔で寿四を頬張り始める氏政。


 初めてそのブレない姿勢に助けられたわ。


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