第33話 『ちぇすとー』って叫んだら切れ味増すってホントですか?

前回までのあら寿司

駿府と氏真奪還に向けて争い慣れした海賊集団を主力に駿府の町を進軍する寿四郎たち。だが敵も戦に慣れた戦闘集団『大原衆』を配備して待ち受けるのだった。どうなる!?寿四郎!!


2023年内最後の更新になります。

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

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 距離にして200メートルほど大通りを進み、四つ角に差し掛かっては押し寄せてくる敵兵達を押し返す。港に降り立ってからかれこれもう数時間、そんな戦いを繰り返していた。

 氏真と小原の居る今川館まではおそらくあと数キロのはずだがあと何度、こうした攻防を続ければ辿り着くか分からない。


 しかも最初は明らかに戦い慣れしていない兵ばかりが相手だったので、こちらの数に算を乱して逃げ出したりあっという間にやられるような弱い敵ばかりだったが、段々と敵も実戦経験のありそうな手強い敵ばかりになってきて、実戦経験の乏しい訓練しただけの農民では歯が立たなくなってきていた。


 我先にとヒャッハーしていた連中も若干の疲れが見える。一旦全軍を止めて、立て直しを図った方が良いだろうか?でも海賊さん達は止まってくれなそうだからな……どうしたもんか。

 そんな事を考えながら、駿府の町でもだいぶ今川館の近くまで来てとある四つ角を過ぎた時


「殿、お下がりください。なんだかこの先は今までとは違う違和感を感じまする」


 マグロがそう言って進む速度を緩める。


 ずっと先陣を切っていたヒャッハーさん達も釣られてスピードダウンするが「そんなら俺が先だ!!」と元気が有り余る若手が先行して駆けだしていく。


その時だった!!


 四つ角に突撃していった若手ヒャッハー集団に対して無数の矢が射掛けられ、先行した十数人がバタバタと倒れる。

 その後ろに居た者たちは立ち止まり、矢の飛んできた方めがけて銛を投げるが、戸板ほどもある木の楯を構えた集団にそれらは弾き返された。


 楯の集団がしゃがみ込むとその後ろには、矢をつがえて黒塗りの具足を着込んだ敵兵が並んでいる。その中央には他の者より華美な具足を付けた男が立ち塞がる。


「ほう、誰かと思えば東駿河の海賊崩れか。

 てっきりその親族か何かかとは思っていたが……生きていたとは悪運の強いやつよ」


 そう言った男の声には聴き覚えがある。曳馬城の戦いで俺達を斬り合いの最中に押し出し退路を塞いで「潔く死んでこい」と言い放ったあの男だ。


  今すぐにでも奴の目の前に飛び出し、斬り刻んでやりたい衝動に駆られながらも、冷静になってこちらも弓を持った部隊に攻撃の合図を出す。


 すぐさま撃ち合いになるかと思ったが、敵側は楯部隊が出てこちらの矢を全て防ぎ、その後から敵の矢が飛んできた。楯も無ければロクな具足も装備している者の少ないこちらは矢を防ぎようも無く、バタバタと人が倒れていく。


「フハハハ、所詮は装備もろくに整わん統率も取れん烏合の衆。我らのような実戦部隊には足元にも及ばぬという事よ! 」


 敵の大将はそう言って挑発してくるが実際、こちらに突破できる方法は持ち合わせていない。

 銛や槍を構えて強行突破を試みた味方も、敵の楯が下ろされた瞬間を狙い撃ちしようとした弓兵も、ほとんど相手に損害を与えられることなくやられていった。

 俺の所まで飛んでくる矢はマグロが打ち払ってくれているがきっとそれにも限界がある。


 このままでは打つ手なしだ。どうすればいい?どうすればこの状況を変えられる!? 



「殿!!お待たせしました!! 鈴木隊!! 撃ち方、始めッ!!」


 軍監が荷駄に乗ってやってくると続いて、鉄砲を構えた一団が銃口を前方に向ける。


「撃て!!!」


 号令と共に数十丁の鉄砲が火を噴き、敵兵が構えた楯を貫通する。


「次!! 一斉射!! 放てぇ!! 」


 間髪を入れずに同じくらいの数の鉄砲が火を噴く!


 織田信長が鉄砲隊をどんどん入れ替えての三段撃ちを考案したと歴史で習った覚えがあるが、それは史実ではもっと先の出来事だったはずだ。それもあってか、敵方は相当な混乱状態になっている。


「殿! 覚えておいででしたかな? 堺に向かった時に鈴木国定ら、国友村の鍛冶衆を連れ帰っておったのを。この者らに小田原にて鉄砲を作らせ、撃ち方の修行もさせておったのです」


 軍監がそう言うと横に並んだ鉄砲隊の中央に居る男が振り返り、ニヤリと笑う。確かにこの男の顔には見覚えがあった、かなりウロ覚えだけど。その間にも銃声が断続的に続き、敵はだいぶ数を減らしていた。


「殿、突撃します!! 拙者に続いて下され! 」


 マグロは俺に伝えると刀を鞘に半分戻し、姿勢をかなり低く構える。抜刀術というヤツだろうか?何となくその構えには見覚えがあるぞ。


「大潮 勘八郎、推参!! 真黒殿、突破するなら助太刀いたす! 」


 後方から走ってきた大柄の武者がマグロと反対に刀を構える。この男は確か、蒲原城で大将首を獲って寿司を食わせてやった男だったよな。


「殿、我らが左右に飛び、将の周りの射手を払います! 殿は敵将を!」

「刀を振り下ろす時『ちぇすと』とお叫びください。切れ味が増しまする」


何処かで聞いたような覚えはあるが……なんだその謎原理??まあ、言われたからやってみるか。


 次の銃声が響いて敵がバタバタと楯を取り落として倒れ、指揮官である敵将を守るように慌ただしく陣形が組み直されようとするその瞬間!!


「撃ち方止め!! 斬り込むぞ!!」


 マグロが叫び、地面を蹴って敵の方へと走り出す。ほぼ同じタイミングで俺も大潮も地を蹴ったが、二人のスピードが速すぎてワンテンポ遅れで追いつくのが精一杯だ。二人の刀は敵兵に楯を構える隙を与えず敵を斬り裂いていくが、俺の正面にはどっかりと楯が構えられている。


「ちぇ、チェストおおおおおッ!!! 」


 こうなりゃ勢いだ! と叫びながら思い切り振り下ろした刀は……分厚い木で出来た楯ごと敵の胴体に食い込んで切り裂いていた。叫んだ効果はよく分からないけど村正の切れ味、ヤバ過ぎんだろコレ!?


 目の前で崩れ落ちる楯持ちの兵を見て、敵将が慌てながら後方へと逃げようとする。ココで逃がしたらまたコイツを中心に陣形を組まれて厄介な事になる! そう思った俺は咄嗟に腕を伸ばし、まっすぐに刀を突き出した。片手一本突き、いわゆる見様見真似!牙〇四式!!ってやつだ。

 俺の繰り出した刀は奴の背中に刺さり、振り返りながら敵は驚愕の表情を浮かべた。


「まさか海賊風情に……我ら大原衆が討たれるなど……」


 コイツら、小原の部下なのに大原衆って名前だったのか。ややこしいな。


 大将が討たれたことで統率を失った敵兵はマグロと勘八郎を中心に斬り込んできた味方に討たれ、壊滅していった。こちらもかなりの損害を出したがようやく、今川館へ進むことができそうだ。


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【戦国設定小咄】(たまにはこんなのも)

「チェストー!」と叫ぶので有名なのは薩摩示現流ですが、

その始祖の更に師である丸目長恵氏は若い頃に上洛して新陰流の上泉信綱に師事し、その後、薩摩示現流の大元であるタイ捨流を開流しています(Wikipediaより)


 という事実に基づき、作中の真黒は「京で若き日の丸目と対峙したことがあり、その時に示現流・壱の太刀プロトタイプを目にしたことがあって『ちぇすと』と叫ばせている」という辻褄合わせ設定を思いつきました。


ちょっと無茶設定過ぎましたかねw

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