第34話 大原・小原と居るんなら中原だって居ても良いよね?
2024年最初の更新です。
今年もよろしくお願いします。
vs小原鎮実戦、ついにラスト!
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大原衆を壊滅させた辺りから一里(約4キロ)ほど進んで、ようやく氏真の居る今川館へ。
先程の戦いが小原の率いる手勢では主力だった為か、それ以降は多くの敵に待ち伏せされることも無く辿り着いた。ようやく今川館の正門が見えてくる。と、その時
ドォォォォォォォォン!!!
という爆発音がして先陣を切っていた数人が吹っ飛ぶ。
これは……穴山衆も使っていた焙烙玉か? 足を止めて警戒してみると塀の上に数十人の忍び装束の一団が見える。
「我らは小原様が配下、中原衆!! ここは通さん!! 」
言うが早いか、また数発の焙烙玉が投げ込まれた。
味方は後方に後ずさりながら銛や矢を射かけるが、相手が高い塀の上なのと忍び特有の素早い動きで躱されて全く当たらない。脳筋作戦で銛を持って突撃していった若い海賊衆も、正門に立つ弓兵に射抜かれて近付く前に討ち取られる。
大原衆の次は中原衆ときたか、厄介なのが次々と出てくるな。さてどう攻略するのが正解か。
「国定殿、出番ですぞ!! 」
軍監がそう言うと俺の後方に火縄銃を構えた十人くらいの男が並ぶ。だが先程見た銃とは少し形が違う気がする……銃の上になんかついてるんだが。
次の瞬間、十丁の銃から弾が放たれ忍び達はバタバタと倒れる。決して動きを止めていたわけではなく、こちらに攻撃を加え矢を躱すために塀の上を動き回っていた忍びが、だ。
何を使ったのかと見てみると火縄銃の上側に長細い筒のようなものが付いている。あれ……スナイパーライフルの原理じゃないか?
「南蛮渡来の品の中に望遠鏡というものありましてな。それを付けてみたのです。お値段が高くなりますゆえ、量産できぬのが玉にキズですが」
「コレならば3町(約300メートル)先の鳥まで撃ち抜けますぞ」
スズキはニヤリと笑いながら次の弾と火薬を銃に込める。
いやこの時代にそんなモン、チート性能すぎだろっ!?
結果、3発目(×10人ぐらい)の銃撃で中原衆は全滅し、今川館の正門は破られた。そのままの勢いでヒャッハーな海賊衆の皆様とご一緒に館へ雪崩れ込む。
前庭を抜け、屋敷内に侵入すると屋敷のいたる所から忍びの者たちが湧いてきて斬りかかってくる! マグロと勘八郎が俺の前後を守り、ある程度の敵は倒してくれるが天井からも廊下の床板からも襲って来られるので全く油断はできない。あれココって忍者屋敷だったっけ?2年も住んでたけど全然知らなかったぞ。
「真黒殿、さすがは新当流免許皆伝の実力ですな」
「何を仰る。大潮殿の剣技こそ素晴らしい! その太刀筋、上泉新陰流か?」
「ほう、わが師の剣を御存じとは」
マグロと勘八郎の二人は戦いの最中だというのにそんな会話を繰り広げて笑い合う。当然ながら全く息も上がっていない。俺も敗戦からこっち、結構鍛錬頑張ったつもりなんだけど全然まだまだ及ばないな。
警戒して敵を倒しながら進むと何度か見覚えのある広いスペースに辿り着く。そう、バカ殿に怒られ蹴鞠王子にもここで2回怒られた覚えのある、今川館の大広間だ。
「小原!! やっとたどり着いたぞ! 氏真はどこだ!? 」
「ほっほっほ。海賊崩れがまさか生きていようとは」
そこで待っていたのは氏真ではなく小原鎮実。疑心暗鬼の氏真を利用して自分に反論する者を遠ざけ、俺や謀叛の疑いなどない人々を死地に追いやってきた張本人だ。それがあろうことか、今川の太守が座るべき席に君臨している。
「そこをどけ!貴様のような奴が座っていい場所ではないッ」
「ほう。ではあの愚鈍な氏真でここまで傾いた今川を立て直せるとでも?」
「別にそうは思わない。だがな、あんな奴でも『無事で生きて居て欲しい』って願う奴が沢山いるんだよ! お前みたいな下衆野郎とは違ってな!! 」
「貴様!! 余を愚弄するか!! 」
小原が叫んで立ち上がると脇に控えた連中も弓を引き絞る。俺も背中から弓を取り、矢をつがえた。マグロと勘八郎は俺を守るように目の前に立ちはだかる。彼らの技ならば矢は弾き返せるだろう。
奴までの距離は大体100メートルぐらい。全速力で駆けても刀は届かないが矢なら届く距離だ。狙いを小原に定めて弓を引き絞る。
「ほう、そうか。余を射殺すというのだな? だがこれでもか!? 」
そう言うと小原は足付きの燈明を手に高座の横に積まれた箱に手を伸ばす。
「ここに有るのは全て火薬よ。コイツが燃えればどうなるか頭の悪い海賊風情でも分かるであろう? 爆・発・大・炎・上! 余を射殺したところで貴様らも氏真も全員死ぬことになるが、それでも弓を放てるかな?」
恐るべき集中力で飛んでくる矢を全て弾いたマグロと勘八郎がこちらを見る。その間にも小原の配下は次の矢を弓につがえているのが見える。小原は下卑た表情を浮かべて火薬箱に火を近づけながら廊下の方へ近づいていく。このままだと取り逃がしちまう! どうすりゃいいんだちっくしょう!!
「撃ってください。 寿四郎さま。大丈夫です」
どこからか小春の声が聞こえた、気がした。
その声を信じて、俺は引き絞った弦を離して矢を放つ。放たれた矢はまっすぐに小原に向かい、その肩を射抜いていた。
「ぐっ……まさか……」
小原はよろけながら手に持った灯明を取り落とす。次の瞬間、
ドガァァァァァァァァァァァァン!!!
とんでもない轟音が轟き、一瞬後に身体が宙に浮きあがるのが分かる。その直後に庭に投げ出され、俺は砂利の上を転がった。
少しして目を開けるとマグロと勘八郎が起き上がってこちらを見ている。俺も起き上がって軽く身体を動かしてみるが痛みは何処にもない。どうやら風圧で吹っ飛ばされただけで済んだようだ。
砂利を払って周りに目をやると血だらけで倒れている小原鎮実が見える。爆風の中心地に居たコイツはさすがに無事では済まなかったらしい。俺の姿を視界にとらえて怯えに満ちた表情を浮かべるが、身体はノソノソと虫のような動きで後ずさるのが精一杯のようだ。
「なッ! なんと無念な……」
「お前に殺されてきた者達も同じように思いながら死んでっただろうよ。同じ痛みを味わうがいい! 」
俺はそれだけ告げると村正を思い切り振り下ろし、小原の首を胴体から切り離した。
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