第32話 どういうつもりかって聞かれたらこういう事に決まってんだろ!

駿府に向けての進軍二日目。


 蒲原城は魚兵衛兄と数百の志願兵に任せ、俺達は海賊たちの乗る関船で興津湊に向かう。


 蒲原を排除した今、海路で駿府に向かうのに敵対する勢力は恐らくほぼゼロだ。

 今川にはお抱えの興津水軍というのがいるのだが、そこは魚兵衛兄が取り成しでこちら側に協力してもらえることになった。海賊ネットワーク、すげぇな。


 船での移動に自信の無い者には無理を言わず蒲原城に残ってもらったのもあるが、一昨日昨日とあれだけ馬鹿騒ぎしてガツガツ飯食ってたのに酷い船酔いをしている者はほとんど居なかった。


 現代もこの時代もパリピのバイタリティは凄い。


 身体は18歳でも心は疲れ切ったおっさんには飲んで騒いで次の日もヒャッハーとか言ってらんないわ。


 興津港を出て少し進めばもう、駿府の町中に入る。


 武装して船から次々と降りる海賊&山賊ルックな集団を見て、路上で物売りをしている者たちはその場を捨てて逃げ出し替わって揃いの具足を付けた集団が取り囲んだ。

俺の前にはマグロが庇うようにして構える。


「貴様らここは今川の中心、駿府なるぞ!!

 こんな所に海賊風情が乗り込んでどういうつもりじゃ!! 」


 いかにも私が部隊長です、って顔をした中年のおっさんが威嚇の意味を込めてこちらに怒鳴る。


 いや、どういうつもりって言われても、ねぇ?


「こういうつもりに決まってんだろオラァーーーーー!!! 」


 こちら側のいかにもヒャッハーなお頭ですって顔をした精悍な男が叫びながら、扉でも蹴破るような勢いでおっさんを蹴りつける!

現代の技で言うところのヤ〇ザキックだ!!


 部隊長のおっさんが漫画みたいに後方に吹っ飛ぶのを合図にヒャッハーな方々が銛を構えて突撃する。明らかにこうした事態に対応し慣れてないと思われる兵たちは槍や弓を構えてはいるものの、バタバタと薙ぎ倒されていく。


「お前ら、弱い兵は出来る限り殺しはナシで頼むぞ!!

 それから略奪は絶対禁止だからな!!! 」


 今日の船の中でも、昨日の蒲原城でも再三口にした注意を俺は叫ぶ。


 小原を排除して氏真を連れ出すことに成功したとしてもそれまでの段階で、俺らが殺戮・破壊・略奪の限りを尽くしていたとしたらその後、駿河の国衆からの反発は免れない。

 あくまで穏便に、争いの被害は最低限に。


 なーんて言ってもこの連中が分かってくれるのかどうか……

 マグロは一応、峰打ちというやつで敵兵を倒してくれてるが顔はすでに血に飢えた狼のごとくイッちゃってる。


不安だ、めちゃくちゃ不安だ。


____________________



一方その頃。



「クソッ!! どいつもこいつも!!

 一体どういうつもりだ!! 」


 使いの者から受け取った紙の束を小原は乱暴に畳に叩きつけた。


 駿府の中心にある今川家の本拠地・今川館。

 大広間には当主の今川氏真と居並ぶ今川家重臣達……


 ではなく、小原鎮実とその一味が広間に跋扈していた。


 小原が投げつけたのは今川重臣、瀬名・関口・三浦・斎藤といった、駿河国内で今川義元の時代から力を持つ有力諸将への手紙の返答。


 東駿河、浜家に不穏な動きありと聞いた段階で小原は駿河国中に直ちに駿府へ参集するようにと早馬で文を出していた。だが返ってきた答えはノーばかり。


 理由は「甲斐武田の軍団が迫ってきているため、自分の領地の防衛を優先したい」というものだったが本当かどうかは分からない。

 今更各将に「参陣しないなら人質を処刑する」と手紙で脅そうにも、それを聞いて参陣した頃にはもうこの館はもたないだろう。


「殿、ここは我らが城下にて逆賊らを討ち取ってみせましょう」


 困り果てていた小原にそう名乗り出たのは黒塗りの具足に身を固めた一団

『大原衆』

 小原がまだ三河で大原姓を名乗っていた頃からの古参衆で、情けも容赦もない戦い方は敵からも味方からも忌避されていた。その汚名を隠蔽するべく、駿河国内で仕えるようになってから彼は大原資良という名をこの大原衆の頭目に譲渡し、小原鎮実と名を変えたのだ。


「そなたらか。失敗は許されんぞ」

「ご心配なく。敵はしょせん戦など経験も無い海賊崩れ。我らが負ける事などありますまい」

「よかろう、貴様らの恐ろしさをとくと味合わせてやるが良い」


 大原衆の首領はニヤリと笑みを浮かべると一同を引き連れて大広間から屋敷の正門へと向かっていった。

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