第四章 駿河遠江奪還編 そして雪辱へ

第31話 弓はダメって言ったけどモリがダメとは言ってない

いよいよ第4章・駿河遠江奪還戦編、開始!

今回も戦記物として邪道系シリアスギャグバトルを目指します(どれ!?)

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永禄7年(1564)3月。


 春の麗らかな日差しが心地良い頃、

いよいよ戦の下準備が整ったここ、はま城には大勢の人が詰め掛けていた。


「おおぉーーーマジか!?米たらふく食って良いの!? 」

「構わんぞ!ただし明日ちゃんと戦場で動ける程度にな! 」

「そこ!! もうお替わり4杯目だろうが! いざ戦になって動けなくて弓の的でもいいのか!?」



『戦に参加すればたらふく飯が食べられる』

『さらに大将首を上げれば金一封と寿司が食べられる』


という触れ込みを訓練に来た農民漁民の者に喧伝し続けた結果、数百の東駿河国衆が集まり、その日は城の外で米の大炊き出しとなった。


 夕方にはそこにマグロが甲斐で集めて訓練をしてきた、戦働きで稼ぎたいと思っている者を含め、千人以上になる。更には関船に乗って腕っぷし自慢の伊豆、駿河の海賊衆もどんどん集まってくるため、最終的に2千人を超える勢いだ。


「殿、ついにこの日がやってきましたな」

「ああ、もうここまで来ちまったからにはやるしかないな」



 駿府に巣食っている諸悪の根源、小原鎮実を排除して傀儡にされている氏真を救い出す。俺がそう決めてから2か月、軍監は北条家のある伊豆相模方面で、マグロは甲斐で戦働きで武功を上げたい者を集めていた。


 甲斐では同盟が結ばれたことで戦が減り、その分収入が減って燻っている武士たちが、伊豆では自分の腕っぷし一つで成り上がる事を夢見る海の男たちが、東駿河では今の領地経営に反発したいと考える農民の息子たちが、さらには「大名や武将がこぞって絶賛する寿司という物を自分も一度は食べてみたい」というマニアックな、いや食通の武士たちもそれに呼応して集まってきた。


 だがそのまま集まれば『東駿河・はま家に謀叛の疑いあり』と誰かに告げ口される可能性がある。だからこの日を決めて、各方面から一気に集まる方法を考えたのだ。でもさすがにここまで大きな集まりになるとは考えてなかった。

 大人数で騒ぎすぎたためか何事かと偵察を含め、警告の為に蒲原城から兵が数人送られてきたのだが海賊衆の皆様が銛を投げつけて彼らを追い返した。


 現代で言ったら騒音を聞きつけて押し入った警察官をヤンキーが「うっせー黙れ!」で返り討ちにしちゃったような格好だ。


まあ、やるとは思ってたけど。


 ちなみにもう一方の東駿河の城、富士城にはタコ坊主を通じて今回の作戦は伝えてある。富士城主の富士信忠さまは氏真が傀儡にされている現状を憂いていて、俺達の側に付き鎮圧には乗り出さずに黙認しといてくれるらしい。


 となると東駿河で倒すべき障害はただ一人、蒲原城の城主、蒲原徳兼だ。

 アイツは俺が磯野家を倒して東駿河で力を付けた時からずっと俺らを目の敵にしていて、邪魔に思っている。


 曳馬城の虐殺(と俺は呼んでいる)に強制参加させられたのも奴が勝手な詮索で寝返ろうとしているって告げ口したせいだ。

 ちなみに俺があの戦いで戦死と伝えられたその夜には蒲原城では飲めや騒げの大宴会でパーリナイだったらしい。

 今川的には大敗北にもかかわらず、だ。

 それってある意味ヤバいと思うんだが。


 そんな蒲原の率いる軍は城に籠ってこちらに向かってくる様子はないらしい。城内に潜り込んだ雪菜(女中の姿)からの情報によると兵の数は800人位で駿府への応援も要請しておらず

「まあ来たら出ていけば簡単に追い返せるだろ?」

程度に考えているらしい。完全に舐め腐ってやがる。

 明日になって後悔したところで許す気はゼロだ。


「ところでコレ、もう少し何とかならなかったの?

 『風林火山』とか『毘』とかさぁ……」

「この軍は漁師や農民が多く、漢字など読めるものがロクに居りませんので。平仮名なら何とかわかるかと」


 軍監が大量に用意した旗印には青と白でデカデカと『は』と書いてある。


 確かにねー、漢字の旗並んでても分かんないと言われたらコレならわかるけど、ね。某寿司チェーンと間違われて後で発掘でもされた日には歴史覆っちゃうじゃん。



 翌日の朝、俺達一行は西に向けて進軍を開始した。目指す蒲原城ははま城から4里(約16キロ)富士川を渡ってすぐの高台に位置している。

 海賊衆は関船に乗り込んで川を渡ったあたりに接岸し、徒歩の足軽は富士川の浅い所を選んで渡り終えたところで蒲原の軍団と対峙する形になった。


「海賊衆の残党どもが、農民まで集めて俺に歯向かうつもりか?」


 鎧武者どもの先頭に立って、蒲原徳兼が笑いながら言う。

 コイツ、高台の城に籠るか渡河中を狙い撃ちにすればいいのに。

 その上、矢が飛んできそうな陣頭に立って、よほど馬鹿なのか?

 それともそれだけ俺達を舐め切っているという事なのだろうか?

 と思ったが黙って口上を聞いてやる事にした。


「今なら見逃してやる! 下らん事は止めてさっさと引き返して自分の田畑にでも帰れ!

 俺に弓を引くという事はつまりッ!! 我らが今川家に!! この駿河・遠江に弓を引く反逆者という事になるぞ! 」


 完全にこちらを農民漁民と侮ったような口ぶりだ。

さあてどう言い返してやるのが正解か考えていると


「うるっせーよこのクソガキ!!おめぇが帰れ!!! 」


 海賊衆の叫びと共に一本の銛が投げ入れられた。それを合図に何本もの銛が蒲原に向かって投げつけられ、その一本は奴の足元を掠め、何本かが咄嗟に庇いに入った蒲原の兵の具足を貫く。

蒲原の軍勢が騒然となる中で奴は叫んだ。


「くっ!! 我らに弓引くとは愚か者どもめっ」


いやいや、ここまで見事な舐めプかましといてそれかよ。



「弓はダメっつったけど銛がダメとは言ってないだろ! みんなーどんどん投げろ!!」


 俺の掛け声と共に先程よりも更に多い数の銛が蒲原軍を襲う!

それらは当主を後退させるべく混乱している蒲原兵の具足にドスドスと突き刺さっていた。


 ここが好機と見るや海賊たちは今度は銛を持って突撃に懸かる! 全軍混乱していて応戦どころではない蒲原軍は面白いように討ち取られていく。鎧袖一触、ってこういう事か。

 しっかし投げて良し、突いて良し、そんで壊れたら敵に刺さったのを抜いてまた手持ち武器として戦えるとか……どんだけ最強なん銛っって。

俺も魚兵衛兄に一本作ってもらおうかな。


 そうして蒲原城に差し掛かる登り坂まで来ると今度は甲斐からの部隊が蒲原軍に嬉々として襲い掛かる!

 何しろ山で猪やら鹿を狩って生業にしている連中だ。足場の悪い斜面では戦い慣れてない具足の武士とは明らかに動きが違う。蒲原の軍勢はロクに反撃も繰り出せずに斜面を転がり落ちていく。


「急げ!!寿司があそこにおるぞ!! 」

「うおおーアイツの首を上げれば寿司だぁー!! 」


大将首を狙う連中が逃げる蒲原めがけて押し寄せる!


 いやあの、首獲ったら寿司って言ったよ!? 言ったけど……


「寿司が居たぞー」って叫ばれたら俺の事かと思っちゃうじゃん。



そんなこんなで数十分後。


「敵の大将、蒲原徳兼!! この大潮 勘八郎が討ち取った!! 」


 蒲原の小僧は城まで逃げ切れる事無く、あっさりと討ち取られた。

 討ち取った奴の名前は初耳だが子孫が乱でも起こしそうな名前だな。蒲原の軍団はそれ以上抵抗するほどの気合も恩義も無いからか早々に駿府方向へと逃げていく。


 そのまま俺達は蒲原城へと入城したが戦える者は城内には誰も残っていなかったのであっさり城内に蓄えられた兵糧をゲットできた。


 その夜は城の備蓄から大量に米を炊き、昨日と同じように海賊山賊入り乱れてのパーリナイである。戦の最中なので酒は振る舞われないのだが、今日が余裕の勝利だったのも手伝ってか皆ナチュラルハイで酒盛りみたいな空気感だ。本当にお祭り好きな方々で。


 今日は相手が舐め切っていた事もあってほとんど被害が出ずに制圧できたが、駿府での戦いでもこれが続くとは限らない。

浮かれてる奴らはともかく、俺は気を引き締めていかないとな。

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ご観覧ありがとうございます。

是非とも面白い作品に仕上げていきたいと

思っておりますので応援コメントなどで

感想戴けると嬉しいです♪

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