第29話 拳四郎に夜露死苦!

 この物語はフィクションです。

どっかで出てきたような人物が登場しますが

実在する人物・団体とは関係ありません。

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 その日は小田原城下で用意してもらった宿に泊まり翌朝、何匹もの犬の鳴き声で表に出る。

 氏政から案内役として付けられた男は太田資正おおたすけまさといい、犬を10匹も連れていて「案内に来た」というより「散歩のついでに寄った」ぐらいのノリだ。


 もっとマシな奴、居なかったんだろうか。


「いやぁ、人が多いと物騒な奴も紛れてるもんでね。市中警護の為にコイツら使ってるんですわ」


とはいうものの、構図としては完全にお散歩である。


 犬たちが進む方へどんどん路地裏へと入っていき、胡散臭い奴としかすれ違わないような裏通りを行く。すると一軒のボロ屋の前で犬たちは止まってお座りをした。


「ここですわー、じゃああっしはこれで」


 それだけ言うと太田は犬たちを連れて遠ざかっていった。ココだと言われた小屋は明らかに怪しい匂いと煙が立ち込めていて、どうしてこれで犬たちが突撃かまさなかったのか不思議になる。


 木の板に乱雑な字で書き殴られた看板には『北都流按摩神拳道場』と書かれている。


いや、マジで大丈夫か??

だがここで合ってるって言うんだから入ってみるしかないよな。



 恐る恐る建付けの悪い引き戸を開けて中に入ると薄暗い中、上半身裸の男がこちらを振り返り、ギロリと睨んだ。その横には囲炉裏に炭が積まれ、その上に黒い石がグラグラと熱され、更にその上にはすりつぶした草の様な物が燻されている。凄い匂いと煙の正体はコレか。ますます怪しさ全開だな。


「よく来たな。話は北条の手の者から聞いている。おまえが浜 寿四郎だな」

「は、はい。浜 寿四郎と申します」

「四男とは俺と同じだな……ふっ。俺の名前は北都拳四郎ほくとけんしろうだ!! 夜露死苦よろしく!! 」


 近付いて話し掛けてきた男はケンシロウと名乗ったが、別に胸に七つの傷があるわけでも鬼のような顔面でもない、普通の中肉中背の男だ。だが筋肉は確かに凄い。



「よし、とりあえず脱げ」


……は?


 何を仰るんですかもしかしてソッチの方ですか!?



 判ったぞ! あんのオスシスキーめ俺をハメやがったんだな!!



 俺がそそくさと帰ろうとすると


「ああすまん下は脱がんでいい。そういう趣味は無い」


 誤解されてると気付いたのかケンシロウが訂正する。そりゃ誤解しちゃうよ、ボキャブラリー少なすぎwこっちだってそういう趣味ねーわ。



 さっそく上半身を脱いで右肩の傷を見せる。ケンシロウは肩にキスでもしてくるんじゃないかってぐらい顔を近づけて傷口をまじまじ見ると


「コイツは鉄砲傷か?弾は貫通してるな。腱は切れてない。これならイケそうだ!! 」


そう言うと石の上で燻していた謎の草をワシャッと掴み


按摩神拳奥義あんましんけんおうぎ!! 柔擦振動法じゅうさつしんどうほう!! アータタタタタタタタタッ! 」


 ソイツを俺の右肩に当てると超高速で掌でさすりだした!!

 ただでさえ熱くなった草に摩擦が加わって高温で煙まで出てくる。こりゃアタタタじゃなくてアチチチチチって返したくなるやつだよ! 肩焦げる焦げる!!


 しかし不思議な事に見た目と違って熱さは感じず、逆に肩から腕の方に血が巡ってくるような感覚を覚えた。なんだこれ!!?


「あとはそうだな、経絡の通りか。ココとココで間違いないな!  北都徒手秘奥義!! 掌妙勁しょうみょうけい!! 」


 そう言って今度は肩と肘を引っ張りながらゴキャン!ゴキャン!! と音を鳴らして関節を極めていく。むしろ肩の骨とか折られそうで怖いんですけど!! いやマジでなんだこれ!


「北都経絡秘孔のうち、肩天梁けんてんりょうを突いた。お前はもう……治っている」


 なんかどっかで聞いたことがあるようなセリフだなーと思いながら右肩を動かしてみる。するとなんと!!! 動いた!!!!

 もう二度と刀も槍も持てないのかと諦めていたというのに。


「それからお前! ずっと寝てただろ!?

 巻き型で猫背になってていかにもだらしなそうに見えるぞ! 一軍の将がそれでは部下も報われんわ。治してやる!! 」


 そう言うと今度は俺の両肩を掴んで後ろから膝蹴りのようなのを数発加える。バキャバキャとさっきより強い音が鳴り、誇張抜きに身長が10センチぐらい高くなったような感じがする。


「よーしコレでマシになったな。振ってみろ」


 そう言って俺が持ってきて壁に立てかけていた氏康に貰った刀を渡してくる。

 刀を振るうのはもちろん、抜く事さえあの戦いから半年ぶりでマトモに使えるのかと不安だったが、鞘から抜くと刀は軽く感じられ、振るのも容易に感じた。


心なしか前よりもスイングスピードが上がっている気さえする。いや、間違いなく上がってる!


 ってかもう鞘から引き抜いて打ち込む抜刀スタイル習得したら飛天〇剣流とか名乗れちゃうんじゃないかってぐらい、軽い!


「先生! ありがとうございました!! 」


俺は感謝のあまり怪しんでいたこともすっかり忘れ、自然と先生と呼びながら深々と頭を下げた。


「お……お前、なんて刀持っちゃってんの?」


一方のケンシロウは鞘に戻し終えた刀を指差して唖然としている。


「この刀ですか?北条氏康様に昨日譲り受けたのですが」

「譲り受けたって、えええっ!! いやお前……だってそれ村正だよ!? めっちゃくちゃ名刀だよ!?

 売ったら城一軒建っちゃうぐらいの価値だよ!? それをおま……貰ったって……えぇええええ!!? 」


 まさかの聞きしに名高い徳川スレイヤー、村正かよ!?

 たしか家康の祖父ちゃん、父親共にこの村正で討たれてるのがその由来だったよな。それ以外にも普通に切れ味は凄いらしいけど。でもそれにしたってそこまで価値のある名刀だとは思わなかったぞ。


「お前! いや貴様!! そんな名刀振ったら赤ん坊だってその辺の武将以上に立ち回れるわ! そんなん貰える立場とかなんだよもうー勝ち組じゃねえか! その刀の性能を活かしきれるようちゃんと自分の腕を磨いておけよ!!」


 嫉妬からか、さっきより明らかに態度と言い方がきつくなってる。でも言う事はもっともだ。


「分かりました先生!! また困る事があれば助けてください!! 」


俺が再び深々と頭を下げると


「かえれ!二度とくんな!! 俺はお前みたいな勝ち組リア充とは仲良くなれんわ! 」


と言われて外に追い出され、引き戸をピシャリと閉められてしまった。


 そこまで言われちゃうとちょっと引っかかるが……こうして俺はもう一度、刀を振れるようになったのだった!

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ご観覧ありがとうございます。

是非とも面白い作品に仕上げていきたいと

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ケンシロウの使った技は良い子はマネしちゃだめだぞ!

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