第28話 俺の心配より寿司の心配かよ

前回までのあら寿司

 曳馬城の戦いでの謀略により、右腕を負傷し多くの家臣と正室・小春を失った寿四郎。失意の中で半年を過ごすが家族や家臣たちのおかげで立ち直る。氏真を傀儡化し自分を貶めた小原鎮実への復讐の準備のため、軍監の提言でまずは北条家の治める小田原へと足を運ぶのだった。

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 永禄7年(1564年)1月。


 はま城から東へ北条領に入り、伊豆山中を抜けて小田原へ向かう。

 もう何度も通ったルートなのでさほど迷う事も無いが一つだけ、気になる事がある。


 それは俺は顔が割れないために荷駄を引く人夫に化けているが、その荷駄の上に軍監がどっかりと座ってるって事だ。

 いや、主君に荷駄引かせて悠々とその上に居るとか、あり得んだろ。しかもそれを抗議してみたら


「今、この荷駄に揺られながら次なる策を練っていた所です。邪魔はしないでいただきたい」


とか怒られるから反射的に「お、おう。すまんかった」ってうっかり謝っちまったよ。なんかおかしいな、立場的なアレが。

 まあ用心棒兼荷駄引きでマグロも同行してたから負担はそこまで大きくないんだけど。


 そんなこんなで小田原の城下に2年ぶりに辿り着くと、正月だからか前回とはまた違った賑わいを見せていた。大きな通り沿いにはそばやうどんの屋台が並び、なかにはほうとうの屋台なんてものもある。

 へえぇー、この時代でも年越し蕎麦とかあるんだな。


 早速、相模屋に向かい駿河と甲斐からの運んできた物を降ろす。


「おおーい、戻ったぞ!!」


 俺が腐ってる間も含めここ2年で何度も来ているのか、軍監は勝手知ったるという顔で屋敷の者たちにあれこれ指示していた。

いやキミもうすっかりこの家の子なのね……程無くして相模屋が目の前に出てくる。


「これはこれは赤井さま。いつもありがとうございます」

「おう、例の件は上手くいっているか?」

「はい。蕎麦・うどん共に細く長いものは縁起がいいとして、この正月に馬鹿売れしております」


 さっきの屋台、お前が仕掛け人なんかい! マジでうちの軍師の才覚には驚かされるわ。


 そして相模屋の口添えで遅い時間に関わらず、城に通される。小田原城は新年祝賀の儀という事で連日、関東の諸将が挨拶に来て謁見の予約2日待ちという状況が続いているらしい。

 ウチみたいな弱小勢力の謁見をねじ込んでもらってなんか恐縮する。


「おぉおおおお寿四郎殿!!! 無事であったとは何よりじゃ! 」


 通された部屋に入るなり、氏政が両手を握ってブンブンと振り回して熱烈に歓迎してくれる。北条家の4代目当主に当たる人物にここまで生存を喜んでもらえるのは素直に嬉しい。


「そなたが居なくなってもう寿司が食べられんのかと思うと……夜も眠れなくなりそうだったわ」


 俺の心配じゃなくて寿司の心配かいっ!!


 しかも「なりそうだった」って結果寝れてますやん。なんなのこの人もうー。


「寿四郎殿……無事であったか」


 後に続いて氏康が現れる。来るが早いか、ガシっと両肩を掴まれ、抱きすくめられる。


「そなたと信玄殿がおらなければ我が北条家は向こう10年、関東管領などという過去の威光に未だに囚われし者達と、あの化け物じみた強さの御仁と戦い続けねばならなかった。まさに当家を救ってくれた英雄じゃ。良く戻ってきてくれた」


 氏康の背中はデカく、血の繋がりはないはずなのにダディと呼びたくなるような懐かしさを覚える。

 嗚呼、帰ってきたぜ、ダディ。


「そなた、今川では冷遇されていると聞く。氏真殿はあれでも我が娘婿ゆえ北条が手出しするつもりはないが、そなたさえ良ければ我が末娘と城の一つ二つはくれてやるゆえ当家に仕えてはどうか」


 わお、リアルダディになってやる宣言ですか!

 とても嬉しい申し出だとは思うけれど、俺にはまだやる事がある。そう、叶うなら虎の威を借る狐ではなく、自分の手でリベンジしたい。

 


 氏康・氏政の二人には今川氏真が小原の傀儡とされている事、個人的なリベンジもかねて小原を駿府から排除し、氏真を救うつもりがある事を説明する。氏真は北条家にとっては氏康の娘、早川御前の旦那に当たるので血縁関係がある。だから北条家を敵に回さないためにも氏真と早川御前は何としても助けたい。


「ふむ、なるほど。じゃが今の状況を何とかしたところで氏真殿が当主では第二第三の奸臣が出てくることじゃろう。それに婿殿は義元公と違い、乱世の将たる器には程遠い。ワシとしては娘と仲睦まじく居てくれさえすればよいのだが……」


 さすがに北条の大社長、良く見てるな。

 アイツは多分だけど庭で蹴鞠でもやってマイホームパパしてる方が似合う男なんだ。戦で陣頭に立って家臣を統べる、って柄じゃない。

 でもそうしたら誰が代わりに……


「それならば寿四郎殿が駿河守護になればよいではありませんか! 」


 4代目オスシスキー(氏政)がここでまさかの発言!!

 また突拍子もない事言って「短絡的だ!ちゃんと考えよ! 」とかダディに怒られるパターンのやつじゃ……


「ワシもそれが最善策だと考えておった」


ファッ!? いやまさか北条親子二代で俺を推してくれるんですか!?


「このまま放っておけば統率の乱れた駿河遠江を平定すべく、武田が名乗りを上げてくるじゃろう。信玄殿は海にとても強い憧れを持っておったからな。

 じゃが元々の国衆たちが力を合わせ国をまとめる事に北条の後押しもあるとなれば、かの御仁も手出しはできまい。

 寿四郎殿が駿河守護に成り代わってのち、また武田・北条と三国で同盟を結べばすべて丸く収まる。まさに名案じゃ」


 さすがにそこまでの事は考えていなかったので狼狽える。


「私もそれをおいて他にはないと考えておりました。この話、謹んでお受けいたしまする」


 そう勝手に即答する軍監。

 ちょいちょいちょーい、俺の気持ち関係なしかよ!?


「その様子ですと『俺なんかで大丈夫?』とかまた思ってらっしゃるのでしょう?

 ですが我ら家臣も東駿河に住む者たちも、北条様も信玄公も皆、殿が必ずや駿河を泰平に導いてくれると信じておるのです。もっとご自分のお力に自信を持ちなされ」


 俺の方に向き直って軍監が告げる。

 氏康と氏政もうんうんと頷いて笑顔を見せる。


「そうと決まれば前祝いじゃ!受け取れい!! 」


 そう言って氏康が一振りの刀を渡す。左手で受け取るが右手は使えないため鞘から抜くことは出来ない。


「そなた……よもや右腕が」

「はい。松平元康めの鉄砲にてやられまして……」

「なれば明日、使いの者に案内させるゆえ治してまいれ! 次に会う時は駿河を平らげた祝いぞ! 大いに期待しておるからな! 」


 氏康が高笑いと共にそう告げるとその場はお開きになった。


 えええっ!? こんなん治るのかよ!?

 しかも展開が急転直下過ぎて当の本人としては困惑するばかりだ。隣でドヤ顔を決める軍監は「思い通りに事が運んで何より」って顔をしているが……本当に大丈夫か?

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