第23話 曳馬城奪還作戦

曳馬城の戦い 

駿河今川軍 9千 大将:朝比奈信置

    VS

三河松平軍 6千 大将:????

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永禄6年(1563年)6月。


 俺達は命じられるままに曳馬城を奪還すべく、遠江(現在の静岡県西部)に出兵していた。


 天竜川を挟んで3里(12キロ)ほどの所に目的とする曳馬城は見えるが、その周辺にもこちらの進軍に気付いて敵が陣取っているのが分かる。


 旗印からして、松平方に寝返った天野景泰・元景親子か。物見(偵察)の情報によると敵は城内城外合わせて6千。


 それに対しこちらは飯尾・新野・孕石・ウチで合わせて6千に本陣の朝比奈信置隊が3千で合わせて9千。


 数の上では有利だけど、川を渡ってる間に攻撃されるかもしれない不利と籠城戦になった時の攻める側の不利も含めると心許ない。一般的には籠城戦において攻撃側は3倍の兵力が必要と言われているらしいし。


 中でもウチの軍は自前で雇った兵が200に今川本軍からが1000で総勢1200と各隊の中で一番兵数が少ない。


 本当に大丈夫か?


「なぁに不安な顔してやがる、戦は兵の数より将の質よ! この三国一の男、青井左馬之助さまが居るからには楽勝よ!! 」


 ウチのワントップ、サバが自慢気にそう言う

 前回、越後での戦いでは3馬鹿……もといスリートップだったがマグロは留守役、魚兵衛兄は信玄・氏康・輝虎の三者会談に寿司を振る舞いに行ってしまっているので今回はサバだけだ。


「そうですぞ!! 今回は拙者も側に付いておりまする!! この多羅尾、命に代えても殿をお守りしてみせまする」


 ウチの軍師・軍監も三者会談を見届けに向かったのでそのポジションには今回は多羅尾だ。てかタラちゃん、戦闘開始前にそういう事言うなよ! 完全に死亡フラグに聞こえるじゃねえか!?


 後は本陣の後ろに島次郎率いる弓隊が控え、左翼と右翼には越後で一緒に戦った海老名・穴山・能登・桓武が居る。あの戦いの後、信玄から『お前の所は兵も将も少なすぎだ、死なれたら困る』と言われてそのまま付いてくることになった。


 今でいうレンタル移籍か出向的なナニかだ、多分。


 しかし彼らは元上杉軍と北条・武田軍という敵対関係だったためか仲が悪く、ここまで向かってくる間も喧嘩が絶えなかった。今も海老名・穴山が右翼、能登・桓武は左翼とわざわざ分かれたのに何処から攻めるかで散々揉めている。困った連中だ。


 そうこうしている間に先行する飯尾・新野・孕石隊が渡河を開始したので慌てて後に続く。


 流れは割と早いが時期が良いのか、深さはそこまで無い。前方では渡河中の兵士に弓が射掛けられているが、こちらは大丈夫そうだ。


 俺達の後に続いて今回の大将隊である朝比奈信置本隊も続くのかと思ったが、彼らは川の反対に待機したままだ。


 川岸で馬にまたがってこちらを見るノブは目が合いそうになって斜め下を向いた。

なんだか後ろめたそうな表情に感じるのは気のせいだろうか。


 それが気になりながらも川を渡り終えて前方を見ると、早くも先鋒は中央・右翼・左翼ともにすでに戦端が開かれていた。刀や具足がぶつかり合い、怒号が飛び交っている。


「殿! 敵左翼と中央の間に隊列の綻びが見てとれます!! 我らはそこに斬り込んで突破します! はあッ!!」


 エビとアナゴは馬を走らせ右方向に突っ込んでいく。


「殿! 右翼こそあらゆる陣形の要なればソコを切り崩す事こそ王道! われらは、敵の要とぶつかり合って突破してきまする!!」


 寒ブリはノドグロを引き連れ、左方向の先鋒舞台に合流していく。



 つーか、お前ら自由人すぎだろ!! 本陣の判断は聞かんのかい!!


 今ので1200しかいない兵力が右翼・左翼が離れていって半分の600になってしまった。これでどうしろと!?


 判断に迷っている間に俺達の隊の前方、中央の隊が押され始めてる。だが様子がなにかおかしい!


 前方にいる兵は必死で敵と斬り結んでいるが後方の半分はその救援にも向かわず、その場で待機している。業を煮やしたサバがそいつらの前へ出ようと試みるが味方が邪魔になって身動きが取れない!!


「あぁくっそ!! 混戦の中なら敵のトコに突っ込んでけるんだが、こいつら壁みてぇに突っ立ってて邪魔なんだよ!! オイてめぇ等! なんでこんな事してやがる!!」


 サバは叫ぶが待機している兵は全く返答しない。と思った次の瞬間、連中はあり得ない行動に出た!!


 なんと斬り合いの真っ最中の前方を無視して、集団で一斉に後方へと踵を返したのだ!


 入れ替わりに俺たちの部隊が前方に押し出され、斬り合いの目の前に押し出される。それもなんと島次郎の率いている弓兵部隊までだ!


「おいお前ら!! これはどういう事だ!!」


 さすがの俺も後ろ側に向かって怒鳴ったが、さっきまで俺の部隊に付けられていた今川本軍の足軽頭らしき男はニタニタと不気味な笑みを浮かべ、こう言った。


「さあ。早く松平と戦い今川家への忠義を証明するのだ! 我らはそれを見届けるのが役目よ! 」


そう言って弓兵の背中を槍の反対側で前へと押し出す。


「さあさあさあ!!戦わなかったり逃亡を企てる者は氏真様への叛意有りと見なし全員打ち首じゃ!! どうせ貴様らには生き残る道は残っておらんのじゃ!! 潔く今川の為に戦って死んで来い!! 」


 前線で戦っていた敵兵たちも、接近戦では弱い弓兵がこの辺りに固まってるのに気付いて詰めかけている!


「殿! ここは何とかお逃げに……ぐわっ!!」


 懸命に矢を射ながら振り返った島次郎の背中に槍の穂先が貫通する。目を見開いたままで馬から転げ落ちていく島次郎。ウチの歩兵たちも弓兵を守るように展開しているがそれでも弓兵が次々に倒れている!!


「貴様ら、誰の差し金でこのような事を!」

「知っておろう、真の今川家の継承者で我が主、小原鎮実さまよ!」



 そうか、最初からそういう魂胆だったんだな。


 逆らったりしくじった者は戦で挽回しろと言われてこうして前線に連れて来られる。そして一緒に戦うと思っていた駿河兵(小原の手の者)に退路を塞がれ半ば見殺しにされるような形で討ち死にする。


 でも処刑したわけでもなく戦死だから他の者に怪しまれない。そうやって今まで自分たちが住んできた土地を守ろうという想いのある者たちを、どれだけ手にかけてきたのか。


「殿、ここは拙者が命に代えて突破口を作ってみせまする!! 左馬之助に続いて殿はお逃げくだされ!!」


 多羅尾がそう言って強引に前方へ切り込んでいく! 確かに、ここは逃げるしかないよな。


 ギリギリと歯を噛みしめる音を自分でも聞きながら、俺とサバは多羅尾に続く事にした。

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