第24話 逃亡と代償

前話までのあらすじ

 蹴鞠王子・氏真の側近、小原鎮実の計略により曳馬城攻略戦に向かわされた寿四郎たち。だがそれは戦とは名ばかりの虐殺行為だった。前に松平軍、後ろに逃亡を防ぐ小原の手下ども!

死地から寿四郎は無事生還できるのか!?

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「若!!続くぞ!! 離れない様に付いて来いよ!! 」


 大声を上げるサバに離れないよう、俺も駆けだす。進行方向の敵兵は多羅尾とサバが切り崩してくれているが、それでも敵の横槍はどんどん入ってくる!


「逃げたぞー!!きっと大将首の一団に違いない!! 」

「囲め囲め!!! 首を挙げた者は褒美が待っとるぞ!! 」


 そんな大声に釣られて敵兵は倒されても倒されてもどんどんと湧いてくる。褒美という言葉に口元をニヤつかせ目を血走らせながら。俺にはそれがゾンビのように見えて恐ろしくなった。


「あァあもう!! うぜってぇな!!! 」


 振り返って槍を振るい、横槍を入れてくる敵を突き殺しながらサバが叫ぶ。それは群がる敵兵に発した言葉なのだろうけど俺には、俺自身に向けて放った言葉のように聞こえた。

 守られてばっかで、ロクに自分の身も守れないで、どころか仲間を危険な目に遭わせるだけしか出来なくて……罠だったことも見抜けず何の判断も出来なくて。クッソうぜぇな俺!! 自分で自分をぶん殴ってやりたいわ。


 いったいどこで選択肢を間違っただろう?逆にどこで判断してればよかった?


前線に戦わせながら待機して壁になってる連中を見た時か? 移籍組がバラバラに本隊を離れて行こうとした段階か? それとも、ノブの本体だけ川を渡ろうとしなかった時??

 敵兵の攻撃を避ける事に集中しながらぐるぐると考えていたその時!!

突然大きな音が鳴り響き、時間が止まったような感覚を受けた。


 視界の隅で、敵も味方も関係なく人がバタバタと倒れる。右肩の付け根辺りに灼けつくような感覚を覚え、遅れて鋭い激痛がやってくる。近くで大量の爆竹を一斉に鳴らしたかのような轟音。これは……


「なるほど! これが鉄砲というものか。試し撃ちだけとはいえ、かなりの威力だな。これは信長様が喜んでお使いになるわけだ」


 城の方を見ると塀の上から銃口を構えた数十人の兵とその中央に金ピカの鎧兜を纏った人物が口角を上げて笑うのが見えた。

 聞いていた特徴からするとあれが松平元康(後の徳川家康)か。どんな奴かと気になっていたが敵味方が混戦となっているところに味方の犠牲も承知の上で鉄砲を撃ち込むあたり、マトモとは思えない。


「まだ撃ち終わってない鉄砲が何十丁かあるだろう? 次の試し撃ちも用意しろ!!……そうだな、肩の辺りから血を流してるアイツ、アレを的にしろ!! 」


 怒りを込めて睨みつけているのを察したのか、奴と目が合ってしまい鉄砲の的にと俺に向けて刀の先で示す。途端、鉄砲の銃口が揃って俺の方に向けられた。


「若!! やべぇ!! 全速力だ!! 」


 サバが無事な方の左腕を掴んで走り出す。必死でそれに続いていこうとするが具足が重いのと右肩の痛みに意識が取られて上手く走れない。出血のせいもあってか足に力も入りにくく感じる。

 敵からの横槍は入らないが鉄砲の弾を恐れてかこちらに近づいてこようとしない。そうなると遮蔽物になるものが何一つ無い!!


ここで死ぬのか、俺は!? 



そして、再び爆竹を一斉に鳴らしたような轟音が鳴り響き、俺の身体にはあの灼けつくような痛みが無数に……



……走ってはいなかった。


 代わりに温かい重みと嗅いだことのある、ひどく安堵感を覚える香りに閉じた目を開ける。


「寿四郎……さま。

 ご無事で……良かった」


そこには、小春の顔が目の前にあった。

どうして、こんな所に!?

俺を……守るためか?


 鉄の灼けたような匂いと血の匂いに現実に引き戻されると、忍び装束を着た小春の身体には何発もの銃弾がめり込んでいた。ドクドクと流れ出る出血の量からどう手を尽くしても助からないであろう事はわかる。


なんでだよ!! 小春!!

俺の事なんて庇って……

お前よりも役立たずの俺の方が……

息子は……寿壱はどうするんだよ!?



「寿四郎さま……私は……」



____あなたと過ごせて幸せでした。




それが、小春の最後の言葉だった。



「忍びを雇って盾にしたか! 運のいいヤツだ!! だが逃がさん!! あの者を生け捕りにせよ!! 目の前で首を獲ってやる! 」


 城の方から家康の声がする。

まるでゲームでも楽しむかのような、愉快そうな声だ。


……今、なんて言った?

自分が生き残るために「忍びを盾にした」だと!?

生き残れて「運のいいヤツ」だと!?

ウチの嫁を殺しておいて使い捨ての駒のような言葉を!!

俺は言葉にならない叫び声をあげて立ち上がった。


 狙うのはクソ家康の首一つ!! 例え刺し違えてでもアイツを同じ地獄に突き落としてやる!

右腕は使いモノにならないが槍で喉笛を突き殺すなら左だけでいい!!

やってやるさ!!!


 向かってくる敵兵の喉元を狙って槍を突き立てる!

絶命したのを確認して次に向かってくる奴と向かい合う。

無茶だ!! 戻れ!と誰かの叫ぶ声がするが振り払うように槍を強引に叩きつける!

だが左腕だけの力では敵の槍を弾き返せず、逆に槍を振り払われ、取り落とした。

バランスを崩したところに勢いのある突きが飛ぶ!!


「こんなところで終わるかよっ!! 」


 咄嗟に身体を捻って運よく躱せたので槍を突き出した格好の敵兵に思いっきり頭突きを食らわせる。

目から火花が出るような衝撃と、出血でフラフラする。視界が赤く染まってきている気がするが構わない。刀を左手で何とか抜き、顔を押さえて悶絶する敵兵の背中を斬りつける。


「次はどいつだ!! テメェら全員、一緒に地獄に送ってやるよッ!! 」


 そう怒鳴って周りを囲む槍を構えた兵を見渡す。だが俺の意識が持ったのはそこまでだった。急速に意識が遠のいていき、力が入らなくなる。


くそっ!!これで終わりなんて、なんて間抜けな終わり方だよ。

神様、神様なんて居るのか分かんないけど、もし居るなら。


あのクソ野郎に一矢報いれるだけの力をくれよ!!!


そう願ったがその事でチート能力でも解放されるワケも無く。



そのまま俺はその場に倒れ込んだ。

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