第19話 行ってこい!寿四郎!! ってポ〇モンじゃねえんだぞ

前話までのあらすじ

 武蔵松山城の戦いにて上杉輝虎を捕らえた北条氏康・武田信玄の連合軍。信玄は輝虎に力を合わせる事を持ちかける。その時、火急の要件で忍びからの報が入ったのだった。

_________


 永禄6年(1563年)3月。


 俺たち一行は残雪の少ない道を選び、越後を目指していた。俺達の後ろには上杉輝虎(後の謙信)と馬を並べる武田信玄。そして隊列の前後には高坂・馬場・内藤・山県の武田四名臣。


 何故こんな事になったのか?時間は一か月前に遡る。


 「絶対に誰も入れるな」と言ってたハズにも関わらず天井から現れた北条家の忍者のもたらした情報によると、越後で領主不在を狙って挙兵しようと企む不届き者が居るらしい。それを迎え撃つ上杉家の本拠地、春日山城に残った者の中にも不穏な動きがみられるという。


 そんな情報を聞いたところで冬の越後(新潟)に戻るには信濃(長野)か上野(群馬)の雪深い所を通らなければ戻れない。敵はもちろんそれを見越してこの時期に仕掛けてきている。

 敵ながらよく練られた仕掛けのタイミングだ。輝虎は俯いて奥歯をギリギリと噛みしめている。


 それを見た信玄はこんな提案を持ちかけた。


「この内乱を鎮めるために我らの力を貸そう。もしそれが成ったら先程の力を合わせる件、飲んではくれまいか」と。


 提案を飲む以外の選択肢の無かった輝虎が止む無く承諾すると信玄は別室に主だった家臣を集め、緊急会議に入る。


 氏康は輝虎の縄を解いて戦装束を返却し、停戦に関する条件をその場ですぐに取り決めて書状を交わす。


 翌日には春日山城までの雪解け状況とそれに合わせたルート選択プランが一枚の地図にまとめられ、武田軍三千の出発準備が整っていた。ちなみに北条軍は関東方面の戦後処理があるのでそちらに集中。


 こうして俺達は腰までの雪をかき分けたり、凍った湖や川の上を渡ったり人間なら膝くらいまでの雪を平気で進める馬で行軍したり、そんな事を一か月繰り返して、ようやく越後の国境付近まで着いた。


「おおおお!! やっと来たぜ!!! これが越後の海か!!! 」


 雪山をひたすら行軍させられ悪態をついていた魚兵衛兄が叫ぶ。他の者たちもようやくゴールが見えて安堵しているようだった。海が見える山の上から日本海方面へ3日間。ようやく春日山城に辿り着く。



「御屋形様、よくぞご無事で!!

 ……ってその者らは憎き甲斐の信玄坊主の一味では無いですか!! 」


 後ろ手に縛られているわけではないが見張りの武田兵に囲まれながら入城した領主にギョッとする上杉家の武将達。そりゃそうだよな。

 その後には武田信玄とその重臣たちが武田兵を従えて入ってくるんだからそりゃ慌てる以外にないだろう。


 その後、春日山城の大広間にて武田軍重臣とと上杉軍重臣が揃って今回の内乱についての評定が始まる。


……やりづれえよなこんなの、どっち陣営にしても。


「今回の乱を起こした主たるものは本庄繁長ほんじょうしげながを筆頭とする揚北衆。それと北条高広・中条藤資らも加わっています」

「なんと! 中条どのまでか!!」


 偵察に出た者からの報告に上杉軍の面々にどよめきが起こる。ここまでの行軍途中で聞いてきた話だが越後は一枚岩ではなく幾つもの勢力に分かれるらしい。

 その一つが今回の首謀者軍団である揚北衆で主に越後の北側、阿賀野川より北を領土にしている独立自治傾向の強い集団だそうだ。

 何でも腕っぷしは強いが何か気に入らないと独立自治を認めろ、とか言ってこれまでも反乱を起こしてきたことは一度や二度じゃないとか。そんなモン、完全に海賊か山賊の類じゃねえか!


……って海賊崩れの息子の俺が言う事でもなかったか。


 越後はそれ以外にも輝虎に関東管領の座と上杉姓を譲った元関東管領・上杉憲政を未だに信奉している者や、輝虎の姉の旦那である長尾政景こそ領主になるべきと唱える者などまあ、意見がこれでもかと分裂している。


 そんな中にあって輝虎の父親・為景が守護になる前から2代に渡って仕えてきた忠臣の中の忠臣、中条藤資が反乱に参加しているのはとんでもない事だとか。


 ウチで言ったらタラちゃんに家の乗っ取り掛けられるようなもんだな。そりゃ確かに困るし凹むわ。大丈夫かなぁここん家。


「敵は1万2千を率いてこちらへ向かう途中、他の国衆などからの抵抗もあり現在の戦力は大体8千から9千程度との事! それに対して現在春日山で動かせるのは8千の兵が限度です」

「ここは全軍で打って出るのが上策!早速出陣いたしましょう!! 」


 意気揚々と全軍出動を唱えるのは長尾派のリーダー、長尾政景。


「何ゆえ越後同士の争いに巻き込まれねばならぬ!ワシらは城に残るぞ! 」


 と唱える主に同意の声を上げるのは元関東管領・上杉憲政とその一派。早くも意見が割れている。そこでさらに武田信玄が爆弾発言を加える。


「我ら武田軍三千がこの春日山城をお守りいたそう。その間に越後国内の反乱、大いに鎮めて来られるがよい!!」


 この発言には俺も驚いたし周りもざわつき始める。

 わざわざ重臣で固めたガチ布陣で来て、からのー……それ!?

 その4名臣は飾りですか!!?

 と突っ込みたくなったが、上杉勢は違う方面で動揺しているようだ。


「長年の敵であった武田に城を任せるなど、乗っ取られるに決まっておろう! 」

「貴様らは揚北衆と組んで、城から出陣させんが為に来たのではないか!? 」

「御屋形様は我らを見捨て、武田に下ったという事か!? 」


 もう完全に評定(会議)どころじゃない雰囲気になってきてるよ。どーすんのコレ!? あーあ。



 と思っていると当主である輝虎がようやく、重い口を開いた。


「ならば武田が裏切った時の為に城に5千を残す!!それだけ居れば抑えは充分であろう!? 我らは3千で反乱を鎮めてみせよう!! 残りたい者は残るがいい!! 付いてくる者は付いて参れ!! 」


 半キレ気味で破れかぶれで言ってるように見えるけど、大丈夫??そんな発言に武田信玄はニヤリと笑いながら、俺にこう言う。


「寿四郎、そなたらも行ってこい!!」


 え、逝ってこいの聞き間違いですか?

 8千に3千でとか、数的不利どころじゃ無いですよね??

 それを行ってこいとか……いっておいで、アリ〇ドス! 的な?って捨て石ポ〇モンじゃねえぞ俺は!?


 と思いつつも逆らえるワケもなく。


 3千人で向かう上杉決死隊の中に勝手に組み込まれて出撃することになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る