第16話 こんな時代で発泡スチロール!?
ここまでのあら寿司
初めて堺を訪れた主人公・寿四郎たち。側室で忍びの若芽に紹介されたのは、信長配下時代の豊臣秀吉こと木下藤吉郎。彼の見せてくれると言った『凄いモノ』を見に行く事になるが……
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ハゲネズミは賑やかな人通りを避け、裏通りのようなところをズンズン進んでいく。
「おう、藤さん今日も儲けとるかー?」
「ボチボチだがや、関さん」
「あらぁ~籐きっつぁん遊んでく~?」
「小夜はん、すまんのぅ明日また来るきに~」
多くの町人が話し掛けるがそのどれもに愛想よく応えていた。これが固有スキル『人たらし』ってヤツか。それを言ったらウチの若芽姉さんもかなりのモノだけど。
「着いたがや!! コレよコレー!! おんしらに見せたかったんは! 」
外郭にほど近い所、石垣用と思われるごつごつした石が積まれてる所でハゲネズミは急に大声を張り上げた。こんなものを見せてきてどうしようって言うんだろう??
「ちょいと若潮姉さん、コイツを持ち上げてみてくりゃぁ」
「何だい藤吉っつぁん?女の私がこんなもの持てるわけ……軽ッ!! 」
若芽が指定された大の成人男子2人がかりでも持ち上がらなそうな大石に手を掛けるとどういうわけか、あっさりと持ち上がってしまう。自分もとそれより少し小さめの石を持ち上げてみるが、軽い。
なんだろう、発泡スチロールの塊でも持ち上げてるみたいな。
「そうじゃろうそうじゃろう!! タネ明かしはこっちじゃ!! 」
嬉々としてハゲネズミが案内した方には木で出来た作業小屋があり、その入り口には高い棚に何かの植物が大量に巻き付いている。これは……ヘチマだな。
小屋の中ではヘチマの繊維を一塊にして外側に何かを塗っている何人かの職人っぽい男たちが見える。その中の一人にハゲネズミは声を掛けて紹介した。
「彼はココの職人頭の物太郎どんじゃ! これはな……へっへっへ♪ヘチマの中身の塊に松ヤニと墨を塗りこんで石にしとるんじゃ! どうじゃ!? 驚いたじゃろう??」
滅茶苦茶ドヤ顔をしてたので逆に褒めたくないなと思ったが確かに凄い! コレがあれば大掛かりなモノを簡単に作れそうだ。TVとかの大掛かりなセットみたいなもんか。
「ワシゃあな、コイツを使っていつか大掛かりな城を作っちゃろうと考えとるんじゃ! 普通なら石やら丸太やら運び込んで作るのに何か月もかかる城がコイツなら数日もありゃ出来上がる! そしたら敵も怖気づいて逃げ出すほか無いじゃろう! っちゅーわけよ!! 」
確かに豊臣秀吉の信長配下時代に『墨俣の一夜城造り』ってのがあった。
山の中でいきなり城が現れて敵がビビッて逃げたってヤツだ。コレを使えば確かにそれも出来るような気がする。こんな発泡スチロールが無い時代でも工夫次第ってわけか。
ん?発泡スチロール!!??
「なあ木下さん」
「ん?ワシは藤吉郎でええがや」
「藤吉郎さん、俺もこれで作ってもらいたいものがあるんだけど良いかな?」
「ええよええよ! 作れるモンか物太郎どんに聞いてみい?」
俺はこちらの会話に構わず黙々と作業を続ける職人に声を掛ける。
「物太郎さん、重さがかかっても大丈夫な荷物を入れる箱みたいなものは作ってもらう事は可能ですか!? 」
物太郎は作業の手を止め、顎に手を当てて数秒考えるが
「出来んことは無いが、値が張るぞ!! 」
「お幾らですか?」
「400文(現代の金額で約4万)だ」
「そしたら、2個で1貫(1000文)出すんで本体と蓋に溝を付けて中が密閉されるようにしてもらえますか?」
「まあ、出来んことは無い。3日程待ってくれ。藤吉郎さん、アンタの仕事はその分遅れちまうが大丈夫かい?」
「ワシんトコのはすぐじゃないから大丈夫じゃ!しっかしそんなモン、ワシなら1個5文の木箱を使うがのぅ……」
ハゲネズミは何を頼むんだかワケ分からん、って顔をしているがこちらは金の問題でも軽さの問題でもないのだ。発泡スチロールの保冷ボックスが手に入るならいくら積んでも構わない。っても、限度はあるけど。
こうしてまさかのこの時代で保冷の問題をクリアできる目途が立ったことにハゲネズミに礼を言う。
「ありがとうございます、藤吉郎さん」
「なんのなんの、行商が楽になるなら何よりじゃ」
懐から見た目に全然合ってない扇子を取り出して顔を仰ぎながら言う。
その一瞬後にものすごく悪そうな顔をしてこう加えた。
「恩に思っとるんじゃったら一つ頼みを聞いてもらえんか?」
「……聞けるような事なら?」
「一晩だけでええ! 一晩だけでええからッ!!若潮姉さんと一晩……」
問答無用で若芽の平手打ちが入る!
「いくら木下様でも何てお願いをされるのですか!? せっかく見直しましたのに幻滅ですわ、このエロネズミ!! 」
「いや、美人に平手打ちされて罵られるのも悪い気分じゃないがや」
ぶたれた頬をさすりながらも悪そうな笑みを絶やさず、言い直す。
「冗談はさておき……おみゃーさんには駿河の動きを教えて欲しいがや」
「!!?」
急な所で思いもよらない名前が飛び出したので身構える。若芽がコイツに余計な事でも吹き込んだのか!?
「なぁに、簡単な事。そんお方の言葉遣いや着物を見れば大体のお国は分かる。おんしら、駿河のモンじゃろう?そっちの踊り子は甲斐の歩き巫女。踊りはいっぺん美濃で見たから覚えとったわ」
「……鋭いのね。かくいう木下様は織田家の間者なのかしら?」
「ワシは言った通り信長様に仕える身じゃ。勝手に殿のお役に立てばとあっちこっちに顔を繋いで情報を得ているだけの事。今川領の事もよう分かれば信長様も喜ぶじゃろうて」
「……信長は、駿河を滅ぼすつもりなのか?」
この男が本当の事は教えてくれないような気はするが一応聞いてみる。
確か史実では信長は岐阜、京都方面に攻め込んだので今川領は徳川家康の領土になっていたような気がしたけれどその通りになるとは限らない。
「まあ基本的には松平殿に任せるっちゅーつもりのようじゃが、場合によっちゃソレごと滅ぼして織田が攻める場合もアリよ。信長さまは松平殿など踏み台と思っておるようだしの」
酷く醜い、邪悪な感じの笑みだった。
ああ、こんな奴を従えてる織田信長ってのも相当な奴なんだろうなと想像せずにはいられないような。
「とにかく、駿河の情報はおみゃーさんらにまかせたで♪」
元の人の好さそうな笑顔に戻ってそう言うとハゲネズミはさっき声を掛けられた町人と連れ立ってどこかへ消える。
俺はその場に立ち尽くしたままで背筋が凍り付いた様だった。なんというか、この時代には無いものを手に入れるために悪魔と契約してしまったかのような、嫌な後悔。
「寿四郎さま、あの者への報告はわたくしが行います」
若芽がいつになく真面目な表情で耳元でそう囁く。
「寿四郎さまでは伏せておきたいような内情も看破されてしまうでしょうから。蛇の道は蛇。忍びを使う者の事なら忍びであるわたくしの方が存じております。
……その代わり」
そこまで言うといつもの掴みどころのない色気のある表情に変わってウインクする。
「ワタクシをちゃんと捕まえていてくださいませ。ご主人様♪」
全く、何処までがシリアスで何処からがふざけているのか分からないヤツだ。
ともあれ、こうして俺は新たに発泡スチロール(?)の代替品を手に入れた。
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