第14話 ミスター寿四っ子と味覇王氏康

読者の皆様はお分かりだろうか?

その昔、料理を食べた時の衝撃を表すのに食べた人物が

光って口からビーム砲を放ったり、宇宙へトリップする

伝説的アニメがあった事を……

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「ほう、そなたが今川家の浜 寿四郎か。噂は信玄公より聞いている」


 詰めれば人が200人、300人は入れそうな大広間の真ん中で偉そうにふんぞり返っているのは後北条氏第3代当主、北条氏康ほうじょううじやすと息子で後北条氏第4代当主の北条氏政うじまさ


 氏康はまさに世紀末覇王とでも呼びたくなるような威厳に満ちており、氏政もそこまででは無いとはいえ、大名らしい威圧感がある。


 そんな二人の目の前には昨日と同じ銀の杯に葡萄酒がなみなみと注がれ、漆塗りのお重には寿司。


 さすがにこんな所に持ってくるとまでは思っていなかったので俺は緊張のあまり正直、小便チビりそうなレベルだった。


「まずはこちらの逸品をぜひ召し上がっていただきたく」


 相模屋助六は平伏しながらと嘆願する。

 俺も同じように頭を下げるが某アニメよろしく「とりあえず食ってみてくれよ」と心の中で呟く。


 その後勧められるままに恐らく日本初の赤ワインと寿司を味わった二人は昨日の相模屋の反応を越え、天守閣ごと吹っ飛ぶんじゃないかというリアクションと美麗字句を並べて大絶賛していた。


「これはッ!!! 何という美味さだ!!!!

 素晴らしく美味いぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」


 いやもう天守閣どころか小田原の城下まで響き渡るかというレベルで氏康の咆哮が響き渡る!!


「初めてだ……初めての体験だ。このような美食が存在しているなんて……

 まるで口の中に宇宙が広がっていくみたいだ!! 」


 氏政の方は感動でもはや見えもしない宇宙がとか言ってしまう絶賛ぶりだ。


 ひとしきりの感動を味わって完食した後、宇宙から帰ってきた二人は冷静に戻って俺に向き直る。


「この素晴らしい料理は何と言うのだ?」

「寿四……と言います」

「ほう。このようなもの、そなたが考えたのか?」


 聞かれて初めて返答を用意していなかったことに気付く。


 俺が考えた事にするのも違うし、さすがに未来からとは言えない。返答に迷っていると氏康の表情が曇っていく。返答次第ではヤバそうだ。


「ゆ、夢で天女様にこの料理を教えていただいたのです。これを作り振る舞う事で新たな豊かさを生み、天下泰平に導け、と。このような話を北条氏康様ほどの方にするのもお恥ずかしいですが」


 俺は咄嗟に夢とお告げというとんでもない話を思いついて口にしたが


「父上、確かにこの者の居る田子の浦の地には天女の伝承がございます」

「なるほど、富士宮でまつっている木花咲耶姫コノハナサクヤヒメのお告げという可能性もあるな。ならば合点がいくというもの」


 なんか辻褄があってしまったっぽい。



「しかし天下泰平ときたか。これは大きな事を言ったな!! 」


 氏康は大きな声で豪快に笑うと真顔に戻り、俺の方をまっすぐに見据えて問う。


「小僧! 天下泰平とはどういう事を差すのだ!! 」

「……全ての民が飢える事無く、豊かに暮らせることでしょうか?」

「ふむ。それは一人の将の元において可能だと思うか?」


「俺は……無理だと思います。でも、同じ想いを持つ者が手を取り合い、皆が民の為にと自分の持てる物を出し合えばそこから何か生まれるかと」


「……ほう。中々に面白い事を考えるな。」


 それは米を作ってる東駿河の農民に米を貰った事や、山にある葡萄や桃を教えてくれた甲府の村人が居てくれたから気付けたことだし、寿司も葡萄酒もそうやって完成したものだからそう思っているんだ。まだその成果は出てはいないけど。


「天下万民の為、この地で暮らす者の為の治世。余もそれは考えておる。じゃがそうではない私利私欲に走った者どもが魑魅魍魎のごとく湧くのが乱世というもの。小僧の様な考えをあの頭の痛くなる御仁もしてくれれば……」


 北条氏康はそう呟きながら額を押さえる。よほど頭の痛い相手が居るのだろう。


 関東の雄にして天下の大国、北条家といっても敵は多い。

 特に『関東管領かんとうかんれい』なんて肩書を持ってる奴が関東を平和に治めてないからな。確かこの頃、関東管領を引き継いだ上杉謙信が何回も関東に攻め入ってその度に二転三転と戦況が代わって大変だったはずだ。


「小僧、お前がどれほどの者か、言葉を信じていいのかまだわからん。だがこのような美味いものを食えるなら誼を繋いでおくのは賛成だ。氏政、あとはお前が決めよ」


 そう言って氏康は立ち上がり、天守閣の廻縁から町を見下ろした。その横顔は愁いを帯びているようにも見えた。


「私としてはそなたの様な変わり者を是非この小田原に置いてみたいと思うのだが、さすがに大切な我が妹の婿から家臣を引き抜くわけにはいかん。だが北条との取引は認めてやろう。氏真殿にもそのように話はつけておく」


 なぁんだ、こっちの状況は知ってやがったのな。俺としては別に恩も無いし、むしろ厄介に思われてるっぽいし、落ちぶれゆく蹴鞠の下から鞍替えとか全然構わないんだが。


「代わりにその……寿四というソレはどうすれば食えるのじゃ?」


 まだ食べ足りないと言わんばかりの顔で身を乗り出して聞いてくる。そりゃそうだ、俺だって可能なら週3ぐらいで食べたい。


「炊いた白米と刺身で食べられる新鮮な魚があれば作れます。ただ米の味付けだけは……当家の秘伝なのです」


 そう、ウチは吹けば飛ぶような弱小勢力。

 ココでビビッて『寿司酢ビネガーの製法』まで暴露してしまったら俺が居なくても寿司は作れるから最悪の場合、用済みになって消される可能性もある。

 特許技術があるって身を守るために必要だものね。


「むむ……そうか。ならば仕方あるまい。本当は毎月でも馳せ参じてこの寿四を振舞ってもらいたいのだが、我らは上杉討伐の為これより上野に出陣せねばならぬ。長い戦になろう。しかしそれが片付いたらす・ぐ・に!! 呼びつけるゆえ早急に駆けつけるのだぞ!! 」

「はっ!! 必ずや!! 」


 氏政は返事に俺の肩をガシっと掴み「必ずだぞ!」と念を押す。

 終わった後の贅沢を楽しみに長期プロジェクトに取り組む。うん、わかるぞその気持ち!! 俺もかつてはそんな感じだった!!


 今度呼ばれた時には今日よりも多めに用意して、小田原では獲れないネタも用意してやろう。でもそうしたら保管方法も考えないとな。


 小田原城を出てとぼとぼ歩きながらそんな事を考えていると


「そうだ! 寿四郎さま。この小田原より堺まで交易船を出しておりまする。他にも珍しき物などをお持ちなら是非ご一緒に参りませんか?」


 相模屋が素晴らしい提案をしてくれる。

 堺といえばこの時代では最先端を行く商業都市!! 流石に発泡スチロールは無いだろうけど、何かそれに近いものが見つかるかもしれない。


 船が出せるのは波が穏やかになる来月中頃だというので一旦駿河へ戻る事にする。

 帰りも同じルートなのでサバは青い顔をしていた。


「堺でございますか!!! 行きまする!! 」

「殿!! 私も是非!!! 」


 堺の話を出した途端、偵察から戻っていた鈴夏・雪菜の二人が目を輝かせる。まるでディ〇ニー行きと聞いた時の現代乙女のような表情だ。そんなに良い所なのか?堺って?


「じゃあ俺は向こうじゃ獲れないような魚を用意してやるよ」


 こちらも上機嫌で釣り道具の手入れを始める魚兵衛兄。それに対して今回、小田原行きに同行したサバと小春は対照的な反応だ。


「若……もう船はこりごりですわ」

「左馬之助!! いつまでも殿を若などと呼ばない! 」

「いや、それは別にいい。小春も浮かないような顔をしているが?」

「私も帰りの船から何だか気持ち悪くて……船は遠慮しておきます」


 行きは船酔いなんて全然平気で小田原じゃはしゃいでたのに、どうしたんだろ。


「ならばここは側室筆頭のこのワタクシが殿のお供をして差し上げますわ。殿もその方が良いでしょう?」


 ここぞとばかりに若芽が自分こそはと名乗り出る。セクシーアピール付きで。


 そんな事をされたらどうやったって逆らえないのよ、男は。鈴夏は露骨に敵対心剝き出しな顔をしているが。


「多羅尾家の方々は密偵というお仕事があるでしょう?私ならば護衛も旅芸人のフリで情報収集も何でも出来てよ」

「確かに、鈴夏には今度は関東の戦況を見てもらわねばなるまい。小春は……やはり一緒に行かぬ方が良いな。雪菜、そちが殿と供に行け」


 タラちゃんは渋々といった感じで末娘の雪菜を指名する。こうして今度は俺・軍監・若芽・雪菜で堺に行く事になった。


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