第12話 これは売れる!!コイツで天下獲れるぞぉぉぉぉ!
祝!ついに戦国で寿司が完成します。
そしてここまで何の進展も無かった寿四郎と小春の仲にも
待望の進展が……
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「それで? 殿はその女をどうなさるおつもりですか?」
広間の堅い床の上に、俺はなぜか正座をさせられている。
不機嫌極まりない口調で俺を問い詰めているのは多羅尾の娘、小春だ。
あの後、信玄の居城、
武田の家臣団に紹介され、歓待を受けた。
そして帰りがけに「この女を連れていけ。何かと役に立つ」と押し付けられたのがここに居る女性、
見た目はハタチぐらいでキレイ系の顔立ちに魅惑的な目つきをしている。
そして何と言えばいいか……エロい。巫女装束の上からでも分かるようなナイスバディだ。これで心奪われない男子は居ないと思う。
俺の中ではワカメちゃんって磯野家で登場すると思ってたんだが、色々想像と違う。
タイ坊主の話では『歩き巫女』といって寺社に仕えず、布教の旅をする建前で色んな国で諜報活動を行っている集団の一人で、武田家はそれを各国に派遣しているらしい。
ようはクノイチみたいなもんか。
んで、その若芽の姿を見て父親である多羅尾まで鼻の下を伸ばしたモンだから、当たり前に不機嫌になって俺にどういうつもりかと当たり散らして今に至る、というワケだ。
「どうすると言われても……信玄からの監視役って意味もあるだろうから無下には……」
「では!! このような者を傍に置いておくというのですか!?」
「あらぁ?私は別に寿四郎さまの『側室』という扱いでも良くってよ?」
小春の怒りに火に油を注ぐように若芽が側室というワードを持ち出す。
胸の下で腕を組みながら余裕の表情で壁にもたれていて、それもまたエロい。しかし正室もまだ何も考えてないのにさすがにそれは、と思っていると
「確かに、殿ももう17歳ですし年が明ければ数え18。そろそろ嫁を迎えて子を設けてもらった方が家臣一同安心できるというもの」
タラちゃんがそこに反応する。元・現代人の俺の価値観では17、8で結婚出産なんて早すぎると思っているが、この時代では12歳が成人なのでこの歳で嫁や子がいるのも戦国武将なら珍しい事ではないらしい。
たしかに、戦でいつ死ぬか分からん世の中だもんな。血が絶えたら困るのか。でもやっぱり、俺には早い気が……
「涼夏! 千秋! 真冬! 雪菜! 」
タラちゃんがそう呼ぶと広間の奥からワラワラと若い女性が現れる。髪の長さと若干見た目年齢は違うが、どの娘も小春に似ている。
「ワシの自慢の娘たちでござる。殿の好みの者を正室としていただければ。何ならどれかは正室でほか4人全員を側室にという事でも」
いやいやいや父親なのに何てこと言ってんだタラちゃん!
一番下と思われる雪菜ちゃんなんか明らかに小学生ぐらいだぞ!! それだったらハタチ過ぎくらいで色気も感じる真冬さんの方が……じゃなかった!!
「いや、そういう事じゃなくて!! 俺はまだ嫁なんて考えてないから! 若芽殿にはこの屋敷に居てもらうがあくまで客人としてだ!! 以上! 」
俺はそう言って話を打ち切り、自分の部屋に戻った。
その夜。
何となく眠りが浅くて夜更けに布団の中で意識が戻ると、左肩の辺りに柔らかさと温かさを感じる。寝ぼけながら何事かとそちら側に寝返りを打ちつつ薄目を開けると……
そこには小春が居た。
「おっおま……なんでここに!!? 」
「寿四郎さまがあのような女に襲われないために見張っております」
拗ねたような表情を見せながら小春が言う。
「襲われるって?」
「武田からの刺客として寝首を搔かれる恐れもありますが……一番怖いのは色香で寿四郎さまを虜にされることです」
泣きそうな表情を見せながら俺の頬に手を置き、まっすぐに俺を見る。息がかかるぐらいのこの距離で向かい合うのは照れるしドキドキする。
「私は幼少の頃から寿四郎さまにお仕えするようにと父に申し付けられ、それからずっと寿四郎さまのお側に一生居るつもりで参りました。寿四郎さまの中身が幼き頃より一緒に居た者でないと分かっても、その気持ちは変わらないのです。どうか……寿四郎さま」
うるんだ瞳でそう告げられると、もう抗いようがなかった。
惹き込まれるように小春を抱き寄せるとそのまま、二人で朝を迎えた。
そんなワケで小春を正室として迎える事になったのだが、どうもそれに納得してくれなかったらしいのが嫁候補として挙がった女たちだ。
「ねーねー、殿はわたくしを嫁にはしてくれないのですか?」
まだ小学生ぐらいの様なあどけなさの残る雪菜ちゃんが俺に聞いてくる。
「いやぁ、まだ雪菜ちゃんは若すぎるからね。そういうのはもっと大人に……」
「じゃあ、何歳になったら良いのですかー?ちゃんとここで指切りしてくれる?」
随分とそう言って食い下がってくる。父・多羅尾の差し金だと思うけど。
だがまだそれだけなら可愛いもので夜、小春と部屋を共にしたはずが朝起きると鈴夏だった時と千秋だった時が何度かあった。
夜、一人の時に淫靡な夢を見て目覚めたと思ったら若芽が俺に覆いかぶさっていた時もある。それについてはさすがに小春も顔を真っ赤にして抗議していたが
「強い者や優秀な者の血ならば、どんな手を使っても取り入れようとするは何処の家でも同じ事でございましょう?ねぇ、多羅尾どの?」
と言われると姉たちをけしかけた(確信犯)多羅尾は口を噤む。
「それに……殿もやぶさかではなかったでしょう?」
俺も若芽にウインクしながらそう言われると黙るしかなくなる。
これだけの美人に誰も居ないところで迫られたら抗える男なんていないだろ。そう思ったがその夜、俺が小春にどんな目に遭わされたかは言わずもがなだ。
そんなこんなで正室に小春、側室に鈴夏・千秋・若芽を迎える事になり、その祝いを兼ねて新年祝賀を砦で祝う事にした。
蹴鞠への挨拶?そんなモン無しに決まってる。
そしてそこで俺はこの時代で初めて、現代の寿司を振舞う。
東駿河の国衆がこっそり分けてくれた米を石臼で挽き、白米にする。そこに甲府で取れた葡萄で作ったワインビネガーを混ぜる。その上に漁師組が獲ってきて捌いてくれた刺身をのせる。
出来上がった寿司は現代の物と同じクオリティとはいかなかったが、それでもその場にいた全員を感動させるに相応しいものだった。
「と、殿!! と、殿!!! これはっ!! これは!!! 」
「うめぇ!!! もうそれ以外に言葉が出ねぇ!!! 」
「左馬之助は何食べてもそんな感じだろう!? 殿、これは素晴らしい! 」
「このような食べ物に出会える時が来るとは……感動です!! 」
「これは売れる!! コイツで天下獲れるぞぉぉぉぉ弟よっ!!! 」
久々に見る分家のシマジローは感動で涙を流す。
義父となったタラちゃんはもはや言葉を失っている。
サバはまあ、いつも通りの様な気はするが。
特に魚兵衛兄の興奮っぷりは凄まじいもので俺の首に腕を巻き付けて離さない。
あ、あのぉ苦しいですし今日は一応、俺の祝いの席で主役なんですけど。
でも確かに魚兵衛兄の言う通り、新しい価値のある物は金になる。
これを多くの人の元へ届けられるようになれば、作るのに関わった人たちに豊かさを分け与える事が出来ると思う。奪い合う事からではない、豊かさを。
となれば、次にやる事は量産と普及だな。それから輸送方法も必要だ。まだまだ窮地を脱したとは言えない状況だが、寿司が完成したことで先の希望は見えたような気がした。
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