第二章 三国奔走編 ~新三国同盟へ~

第10話 5人目入れても四天王なん?

 ついに新章突入です。

 磯野を倒して東駿河有力国衆となった寿四郎!

 これからどうなるのか!?乞うご期待!!

 ___________________


 永禄4年(1561年)正月。


 蹴鞠王子けまりんへの新年祝賀の挨拶の為、俺は駿府すんぷに向かっていた。


 桶狭間以降、今川家の支配力は弱まっていたし俺たちは独立自治体制を取っているとはいえ、今川領の中での話だ。


 いざ他国と戦なんて事になった時、どの大名家に付く勢力かはハッキリさせておかなければならない。


 俺が今川家から離反するわけではないという事は示しておかないとな。そう思って年貢米の一部と金、地物の魚なんかも持ってきている。


 駿府に着いて今川館の門番に名を告げると大急ぎで広間に通される。他にも新年の挨拶に来ている武将や国衆もいるのに、だ。


 こんなVIP待遇受けれるなんて、これも2年間の友情効果だな!



 なーんて思っていたのは広間にたどり着くまでだった。


 2年前に脇の廊下からチラッと覗いただけの大広間・真ん中正面。居並ぶ今川の武将たちは皆、こちらを怪しむような目で見ている。中でも俺に一番近い所に座っている若い小僧なんか敵意向きだしで今にも掴みかかってきそうな勢いでこちらを睨んでいる。


 そして正面奥には白塗りお歯黒で座り方を崩して不機嫌そうにこちらを睨みつけている蹴鞠王子改め、新当主・今川氏真いまがわうじざね公。



 あ……なんかこれ、挨拶のつもりが圧倒的アウェー感満載じゃん。


「寿四郎!貴様も俺を裏切るんだな!! 」


 口を開いたと思ったら凄い剣幕で怒鳴られる。何だ?どうしてそうなった?


「はま寿四郎! 貴様は桶狭間にて義元公並びに蒲原かんばら城主が不在となった隙を突き、蒲原家に臣従する磯野いその家並び波野なみの家を滅ぼして東駿河一帯の国衆を武力で制圧。本来年貢とすべき米を奪って勝手に砦を増強し我らに手向かおうとしていると蒲原城主・蒲原氏徳かんばら うじのりが子・蒲原徳兼かんばらのりかねより報告が上がっておるが、間違いないな?」


 蹴鞠の隣でノブこと朝比奈信置あさひなのぶおきが報告書っぽいものを読み上げる。いや混乱に乗じて武力で一帯を制圧しようとしたのは磯野の方なんだが?俺がそう弁明すると


「磯野は俺の一字を与え臣従を誓った者だぞ!! ソイツが俺を裏切ると!? 」


 あー! それでアイツ、カツオじゃなくで勝氏って名乗ってたのな。理解。


 でもそれを言うならアンタにトラップとリフティングを教えてやったのは俺ぞ? 2年間もずっと一緒に居た仲じゃねえか。それよりカツオが上なのかよ。


「貴様といい元康といい、俺が無能だとでも言いたいのか!? 」


と叫びながら手にしていた手紙を俺の方へ投げつける。ササっと目を通すと松平元康まつだいらもとやす(後の徳川家康)からで

『三河に援軍送ってもらえないなら織田のモノになるしかないよー』という援軍の要請というより半分強請ゆすりのような内容だった。


「アイツ、俺に従うなら松平家も御三家に加えてやってもと思っていたのに」


 重臣を多く輩出している今川御三家とはノブ・ヤスのいる朝比奈家・瀬名家・そして元康が嫁を貰った関口家である。



 え、それ増やしたら御四家になっちゃうよ?


「貴様もだ! 寿四郎!! お前も俺に従うならノブ・ヤス・オカ・トミーに続いて俺の直臣四天王に加えてやってもと思っていたのに!! この恩知らずめ!! 」


 いや四天王なのに5人目居たらおかしいでしょ?お前は気が動転して数も数えられんくなったのか??


「蒲原城は息子の蒲原徳兼に任す。それと新たに東駿河に富士城が完成したら国衆は半分に割ってそれぞれの統治下に入ってもらう!! 寿四郎、貴様のもとに残る国衆は取り潰しだ!! 」


「んな無茶苦茶な!! 」


「当然の報いであろう!! 恥を知れ!! この反逆者が!! 」


 抗議しようとした俺に斜め前に座った若造がきが怒鳴りつける。あ、コイツが蒲原か。見た目からして嫌味なガキだ。


「それと貴様の郎党は全員、富士城の普請に人足として奉仕せよ!! 砦の為の材木も兵糧も全て今川への年貢であったものだ、取り上げるぞ! 」

「そんな!! それじゃ俺らは米も稼ぎも無しにどうすれば…」

「滅ぼされんだけマシと思え! これでも恩情を掛けてやったつもりだ! 米が無いなら魚でも獲って食えばいいだろうが、海賊風情が!! 」


 しれっと『パンが無いならお菓子を食べればいいじゃなーい♪』みたいな事言いやがる。坊ちゃん育ちは知らんだろうがタンパク質は炭水化物の代わりにはならないんだぞ。


「話は以上だ!! ちな貴様はもう駿府に来ることは許さん!! もはや顔も見たくないわ!! 」


 一方的に話を打ち切られるとボディガード風の大男二人に左右から腕を掴まれ館の外へ強制連行される。


 そのまま槍を構えた兵数人に取り囲まれたまま速足で歩かされ、駿府と東駿河の間にある薩埵峠さったとうげの新たに造られた関所まで連れていかれ「今後ここを越える事は許されん」と告げられる。


 ようは出禁ってことか。いや、だったら荷駄で持ってきた贈り物も返せよ。



 とぼとぼと歩いて砦に戻り、顛末を主だった者たちに伝える。


「ふざっけんなそんな話!! 戦だ戦!!! 」


 とサバはキレて立ち上がるが


「待て、相手は腐っても大国・今川。1000ぐらいなら容易に動員できる。それに比べて現状の当家では百も動員できんだろう。早まるでない」


 とタラちゃんが冷静に突っ込みを入れる。



 軍監は思案している様子だったが何かを思いつくと


「殿! 明後日まで時間を下され。次の一手をご用意します」と言い、砦を出ていった。



「ちょっと釣りに行ってくるわ」


魚兵衛兄はいつも通りだ。家のことを少しは考えているのかいないのか。




 2日後、早速武装した兵が200人ぐらい砦を取り囲んで資材を奪いに来た。サバは追い払おうと提案するが多勢に無勢だ、ここで抵抗は出来ない。


「フン、使えそうなら支城にでもと思ったがこんなボロ砦、使い道も無いな」


 憎々しげにそう吐き捨てるのは昨日大広間であった蒲原の息子だ。顔付きからするとこの時代の俺とほとんど同じくらいじゃないだろうか。親から城と家名を引き継いだだけのボンボンのクセに偉そうだな。


「まあまあ、家来衆はそこそこ人足として使えそうじゃないですか。くれぐれも変な気は起こさずに明日から普請をお願いしますよ」


 嫌な感じの笑みを浮かべるのは今度富士城が完成したら城主になる予定という富士信忠ふじのぶただ。こっちは現世の俺と同じで30前後くらい。食えないヤツ、って感じが滲み出ていてこっちもイヤーな感じだ。


 材木と米俵の運び出しが終わると二人は出ていき、しばらくして軍監が2人の男を連れて砦に戻ってきた。



「それで?次の一手ってなんだ?」


 食料もそれが入ってくるアテも全部奪われて、これからどうするのか正直不安で仕方ないのだが、それでも冷静を装って聞いてみた。


「殿にはこれから、病で寝たきりになっていただきます」




 イキナリとんでもない事言いやがったな。


「といってもフリだけで代わりのモノを立てます。さすれば城の普請に人足として行く事は避けられましょう。そして本当の殿には甲斐へ向かってもらいます」


 甲斐、というと武田信玄の領地じゃないか。なんでまた?


「『米が無ければ魚を獲ればいい』と言われたのですよね? それを山に売りに行くな、とは言われてはいない」

「……まあ、たしかにそうだな」

「武田信玄の甲斐は海が無いため、魚はとても貴重なハズ。つまり山伏の格好をして魚を売りさばきに行けば良いのです。その金で米を買い、帰りは富士川を下れば俵があってもバレない。そう言うわけです」


「そんなわけで獲って開いて干したヤツは開いた俵に詰めておく。頑張って腐らねぇうちに売ってくれよ?」


 軍監の提案にしれっと魚兵衛兄が「私が作りました」的なコメントを加える。おとといの段階でもう知って動いてたのか、食えない人だな。


「兄上は一緒に来て下さらないので?」

「俺ぁ海の男だからよ、山は苦手なんだ。虫とか」


 屈強な海の男なのに虫が苦手てw


「代わりに案内役の者を用意いたしました」


 軍監の案内で先程砦に入ってきた男たちが挨拶する。


「香久山 妙法寺が住職、田子 長命たこ ちょうめいにございます」

「同じく妙法寺の田井 長休たい ちょうきゅうにございます」


 タコに鯛か、覚えやすいな。


「我らはここ田子の浦にて水ごりを取り富士に上る修行を積むもの。そして武田からも多くの寄進を受け、繋がりは深いものでございます。必ずやお役に立ちましょう」

「富士川の流れに沿って北に上がれば甲斐に着きましょう。この者らに続いて山伏の格好をしておれば怪しまずに済むはず」


なるほどな、山のプロを雇ったってわけか。


「それと、甲斐の地であればもしかしたら殿の欲するものが手に入るかと」

「?」

「ソレは行ってみてのお楽しみです」


 そっちの話はよく分からんが、こうして明日の朝から早速、甲斐に向けて旅立つことになった。

____________________

お読みいただき、ありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら是非とも応援・評価など

どうぞよろしくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る