第8話 牡丹餅ナイトフィーバー大作戦

この物語はフィクションです。

登場する名将は実在する人物・団体等と

一切関係ありません。

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 翌日の夕方。

 俺は数人の手勢と共に、何故か磯野家の親戚である波野家の屋敷に来ていた。


「本日は主家である磯野殿が東駿河国衆の統一に動かれるとの事で、当家も前祝いの品を持参した次第!! 」


 ウチの軍師、赤井将監あかいしょうかん(普段は軍監と周りに呼ばせている)が門番にそう告げ、荷駄を引き渡す。荷駄には祝いの席などで見かける酒の樽が三つ。


 どういうつもりだろう、昨日の話合いじゃ降伏するんじゃなくて徹底抗戦するって話だったんじゃないのか?

 屋敷の門番は荷駄の一番上の樽を開け、手酌で毒見をして味と臭いを確認すると、俺たちを中へと引き入れてくれた。


「ほほーこれはこれは浜家のせがれ殿か、よく来てくれたねー」


 波野の当主、頼助は使者として来たのがまだ子供の俺と分かり、急に態度を柔らかくする。


「お酒を貰えるのは嬉しいねー、君は飲めるのかーい?」

「いえ、若はまだ元服間もない身ゆえ、ここは私が」


 軍監がそう名乗り出て、盃を受け取り一気に飲み干す。

 使者であるこちらが飲み干したことで毒が入ってるわけでは無いと示せると、そのまま波野家の全員に盃が行き渡りその場で宴会が始まる。


 最初のうちは波野家の人々が酒を注ぎに来たり話し掛けに来ていたが、一時間もしない内に内輪で盛り上がり始め俺たちは空気みたいになった。

 しかしこいつら、酒癖悪すぎるな。

 頼助なんてもう誰が誰だか分かってないし。


「波兵衛伯父さぁん~私は一生伯父上についていきますろ~」

「殿、それは人違いでございます。磯野の者は来ておりませぬぞ」


って言われるぐらい。


「そろそろですな、若。後で厠にとでも言って適当に抜け出して下され」


 軍監は横で耳打ちをし、周りの者に「外で見張りをしている者にも一杯振舞ってきてもよろしいですかな?」と聞きながら場を離れる。


 少し間をおいて俺もトイレと言って広間を離れるが、気に留める者は誰も居ない。広間から出て廊下を歩いていると酒を運んでいた女中も廊下の端で眠りこけているのを見かける。

 どんだけ酒好きなんだここの連中は。


「殿、上手く抜けられましたな! こちらに!! 」


 急に曲がり角で軍監に手を引っ張られ、物置の様な小部屋に連れ込まれた!!

手で口を塞がれ、声を発するなと言われる。

 お、俺にソッチの趣味は無いぞ!!


だがその状態のまま、廊下の方を警戒している様子で何もしてこない。


……良かった、ソッチじゃなかったのか。


 しばらく待っていると、広間の喧騒が急に静かになった。

 刀の鍔に手を掛けながら進む軍監の後を付いて広間に入ると、それまで騒いでいた波野家の全員が倒れている。

 いびきなども聞こえてこない所からすると、寝てるわけではなさそうだ。


ってことは……


「驚くほど上手くいきましたな。酒に毒を混ぜておいたのです」

「え、でもさっき自分も飲んでたじゃ……」

「三つ持ってきた樽の最後に開けた樽にだけ仕込んでおいたのです。ですからそれが開けられてからは口にしておりませぬ」


 なるほど、そのタイミングを見計らって見張り役や女中など飲んでいない者にも酒を振る舞いに行ったのか。

 広間に転がっている者には刀を抜いて握りしめたまま倒れている者も居た。

 恐らくは毒と気付いて俺たちを斬りに来るつもりだったのだろう。そう思うと寒気がしてきた。


「な、何も全員殺す事は……」

「誰かに気付かれて磯野家に応援を呼ばれたらどうされます?大人しく斬り殺されるおつもりですか?


 若はまだ戦場など経験しておらぬのでしょうが、命の獲り合いなのです!!

 殺らなければ殺られる。戦でも策でもそういうものですよ。当主となられるからには、それなりの覚悟を決めていただきたい!! 」


 凄惨な現場に立ち尽くしている俺に、軍監が言葉を次いだ。


「さ、磯野家の者が来ないとも限りません。すぐに城へ戻りますよ!! 」


 荷駄を捨てて一目散に城へ戻り、少しの仮眠をとって戦支度をしての翌早朝。



 砦の周りは防具を付けた大勢の男に取り囲まれていた。


「貴様らー!! よくもワシの大事な甥っ子を卑怯な手でやってくれおったな!!

 許さんぞーこのバカモンどもがああぁぁぁーーーーーー!!! 」


 磯野家の当主、波兵衛が怒鳴る。アニメなら雷が落ちる所だな。


「数でも質でもこんな奴らに負けるはずがない!! 全員突撃ーーーーーっ!!! 」


 息子の勝氏が叫ぶと砦を取り囲む軍勢が一気に押し寄せる。こちらも負けじと浦家の部隊が塀の上から弓で応戦。

 敵の進行速度は遅く、矢はドスドスと敵を射抜いて数が減っていく。


「殿の助言通り、こちらには山の様な数の牡丹餅を贈っておきましたゆえ」


 軍監がニヤリと笑いながら説明してくれる。


 戦に置いて兵糧は武器の次に大事。その兵糧に成り得る米を牡丹餅として大量に送る事で籠城する意思はない、つまりこちらは戦う意思はないと説明して磯野家に牡丹餅を贈ったんだそうだ。

 屈強で大食い揃いの磯野勝氏と配下達はその説明に疑問を持つことなく、牡丹餅ナイトフィーバーを堪能。

 そしたら翌朝、波野家が毒殺されてるのに気付き、食べ過ぎで動きが重い状態の中攻め込んでこざるを得なくなった、というわけだ。


「左馬之助隊、多羅尾隊!! 波兵衛率いる本陣に突撃!!! 

 殿には息子の勝氏隊を攻撃していただきますぞ!! 」


 軍監の指示で配下の者に馬上へ担ぎ上げられ、馬が威勢よく走りだす。

 一呼吸遅れて後ろから怒号が聞こえて太刀やら槍を持った一隊がそれに続く。いやいやここまで策がハマってるとはいえカツオも強いって話だろ!?そんな中に放り込まれて何とかなるとでも!?


 大将であるカツオを守るべく槍を持った数人が俺の馬を取り囲む。

 殺らなければ殺られる、と何度も小声で繰り返しながら無我夢中でこちらも槍を振り回して応戦するが、何太刀目かで敵の槍が馬に当たったのか馬が前足を振り上げて暴れ、俺は勢いよく馬から振り落とされた。


いってぇえええええ!!


 足元が砂浜なので何処も骨折などは無いらしく痛みに耐えて何とか起き上がると、こちらの手勢は馬に乗ったカツオに全員討ち取られたようで目の前には槍を持った敵兵2人と刀を突き上げるカツオの姿。

 絶体絶命じゃんこれ……どうしよう


「勢いよく突っ込んできたから骨のある武将かと思ったが……残念だったな、ここでし……ううん!!? 」


 勝ち誇った笑みと共に話し掛けてきたカツオにああこれもうゲームオーバーしかない絵面だよなとか考えていた矢先……


ザスッという音と共にカツオの背中に銛が刺さっていた。


 カツオはそのまま馬から雪崩落ち、槍を構えていた敵兵は逃げ出していく。そして小舟から降りてきた男はこちらへと歩いてきて口を開いた。


「大丈夫だったか!?寿四郎?」


 真黒に焼けた肌に髭面の大男。海賊風の見た目からはどことなく、この時代でのオヤジである寿太郎に似ていたが会った覚えが全く無い。


「危ない所を助けていただいてありがとうございます。えーと……どちら様でしたっけ?」


「オメーは実の兄弟の顔を!!


 ……あ、いや4年も会ってなきゃ仕方ねえか。

 オメーの兄貴の魚兵衛だ!!! 大きくなったなあ寿四郎」


 兄を名乗る男は一瞬ポカンとし、忘れられていたことに怒り、また思い直して満面の笑みで自己紹介をした。

 表情のコロコロと変わる男だな。


 その頃、少し離れたあたりからは


「敵将、磯野波兵衛!!! この青野左馬之助討ち取ったなりぃぃぃぃ!!!!」


という大声がこだまして敵が逃げていき、こちらに一騎の騎馬が来るのが見えた。


「若……いえ殿!! 魚兵衛様、よくご無事で」

「オメー多羅尾かぁ、変わんねえなぁ!! 」


 多羅尾の話ではここに居る浜家三男、魚兵衛には昨日のうちに浜家の危機を話して家のために戦う様説得したのだが

「俺はもう家を捨てた人間だ。家の存続だの人間同士の争いなんぞにゃ全く興味がない」と追い返された。だがそれを聞いた軍監は

「興味は無くても弟君が危機に面した時は助けてくれ」と頼み込んでいたらしい。


 もしそれも織り込み済みで勝ち目がないのを知りつつ俺をカツオの一隊にぶつけたのだとしたら……恐ろしいやつだ、軍監。



 ともあれ、俺たちはこうして浜家存続のための第一関門を切り抜けた。


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ご覧いただきありがとうございます。

是非とも面白い作品に仕上げていきたいと

思っておりますので応援戴けると嬉しいです♪


また皆様からの客観的意見を戴きたいので一部分が長い・程よい

部分の区切りが読みやすい・にくい、などの些細な感想で構いませんので

気になった部分などありましたらコメントの方を何卒!よろしくお願いします。

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