第5話 蹴鞠から始める天下泰平

投稿主の時代検証は適当です。

この時代に何でそいつがここに居るの!?

みたいなのはご容赦ください。

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 気が付くと目の前に見知らぬ天井が見えた。


 ガバっと起き上がると広めの和室に布団が敷かれていて、そこで寝かされていたのだという事が分かる。意識を失う前と変わらず全身はズキズキと痛んだが、それでも少しはマシになっているように感じる。


「ほれ! ヤス!!」

「ははっ! オカ!!」

「若に戻しまする!」

「次っ!! トミー!!!」

「あわわわわっ!!!」


 声の先の方を向くと廊下から出た砂利の庭で、昨日の高校生ぐらいの面々がサッカーの様なものをして遊んでいる。トミーと呼ばれた男がシュート気味のパスを取り損ねてこちらにボールが転がってきた。


 まだ少し痛む身体を起こして転がってきたボールを拾い、投げて返す。するとサッカーをしていた高校生?集団がぞろぞろとこっちに向かってきた。


「おお!昨日の小僧か!! 意識が無いんでさすがに心配したぞ!!」

「ヤスがもう少し本気を出してれば死んでたかもな」

「勘弁して下され、さすがに殿の館で死人騒ぎなど。朝比奈の名に傷がつきます」

「……まあ意識が戻ったならそれでいい。役立たずはもう帰れ」


 ボコボコにした謝罪も無いどころか『死んでたら困ったけど生きてたからもういいやー』とか勝手な事を抜かしやがる。なんつーDQN集団だよ、こいつら。


「それとも貴様もしや、蹴鞠けまりなら出来ると申すか?」


 帰れと言っておきながら蹴鞠王子が聞いてくる。


 今あなた、はっきり役立たずは帰れとか言いましたよね?


「いやぁ若、冗談にもほどがありますって」

「ですぞですぞ! 公家や武家の息子ならともかく、このような豪族の子など、鞠を見たこともないでしょうに」


 かなり失礼な口調で取り巻き1と2が馬鹿にする。たしか昨日俺を棒でボコったほうがヤスで年上っぽいのがノブだっけ。


「いえ、出来ます」


 売り言葉に買い言葉で俺はそう言ってやった。こいつらのやってる蹴鞠とやらはルールは分からんが、ようはサッカーみたいなモンだろ?それならこの時代の奴らよりは慣れてるのは間違いない。


「ほう、それは面白い!! ノブ、ヤス!! この者を入れて仕切り直しだ!」


 蹴鞠王子の闘争心に火が付いたのか急遽、蹴鞠の輪に入れられる。俺を挟んで左にヤス、右にノブ、対面側に蹴鞠王子という四角形だ。


「では始めるぞ!! ノブ!」

「はっ! ヤス!」

「ほっ!! 信置どの!」

「若に戻します!」


 まずは自分たちの能力を見せつけんとばかりに3人でパス回しを始める。イメージと今のパス回しを見て大体理解できるのは現代サッカーと違ってボール(鞠)を地面に落とさず浮き球をワンタッチパスで回していく感じなんだな。これなら中学以来サッカーをやっていない俺でも何とかなりそうだ。


「行くぞっ!! 小僧!!!」


 ボールが足元に戻ってきた蹴鞠王子が俺の方に思いっきりボールを蹴る!!


 いやこれ、パス回しじゃなくて完全にボレーシュートぐらいの勢いじゃねえか! しかも正面じゃなくてドライブ掛かって若干脇に逸れてるし。


 こんなモン、ワンタッチパスで返せるか!


 と思いつつ膝の内側でトラップしてから左のヤスにボールを戻す。もちろんシュートではなく勢いは弱めだ。


 だが的確に足元を狙ったパスにヤスは反応せず、鞠はあらぬ方向へ転がっていった。


「バカな……若の蹴鞠に初見で対応できるなど……」

「今、膝で鞠を受けていたな!! アレはなんという鞠技か!?」


 どうやらボールをトラップする文化が無かったらしく動揺しているようだ。


 あ、このレベルなら俺、イケるわ。


「ヤス、お前は抜けろ。オカ、お前が代わりに入れ!!」


 相当不機嫌な感じで蹴鞠王子が指示して蹴鞠が再開される。


 だがメンバーが替わったところで大した違いはなかった。そもそも浮き球を落とさずワンタッチで、それも足先だけで蹴らないといけないという縛りプレイがこいつらにある時点でこちらの方が相当有利なのだ。


 こっちは膝や肩・身体も使ってトラップしてからボールを返せる。となるとどんな不利なコースに強い球を打ってきても所詮はサッカーボール並みの球速は出ない蹴鞠用の鞠。大体は処理できてしまうんだな。


 たださすがに蹴鞠王子がシュート気味に放ってくる球だけは別で、空気抵抗で勢いはかなり弱められるもののサッカーボールでのシュートレベルの球が飛んでくる。

しかもこっちがミスしないのがよっぽどムカつくのかどんどん球威が増してきている。


 コレ、このままヘイト溜めた所でサッカーボール渡してみたらタ〇ガーショット並みの殺人シュートとか打てるんじゃねーかな。キーパーもカバーに入ったディフェンスも吹っ飛ばす的なヤツ。



 結果、小一時間ぐらい蹴鞠をしてノーミスだったのは俺と蹴鞠王子だけだった。他の奴らは肩で息しながら「どういうことなの?」って顔で眺めている。


「よかろう、貴様を我が小姓に加えてやる! 寿司郎すしろうといったな?」


 蹴鞠王子もさすがに俺の力量を認めざるを得なかったらしい。名前は間違って覚えられてるが、そのうちちゃんと覚えるだろう。



 こうして俺は無事、蹴鞠王子の元に近習として仕える事になった。



 自室も与えられ一日中王子のお付きとして王子と行動は一緒。おかげでこの時代の読み書きも覚える事も出来たし、才能は無いなりに剣術・弓術・薙刀術・兵法も習得する事ができた。とはいえ元々王子の取り巻きをしてた奴らにはそのどれも遠く及ばないけど。


 ちゃんとした名前を聞いてみるとノブは朝比奈信置あさひなのぶおき、ヤスは朝比奈泰朝あさひなやすともという『御三家』と呼ばれた今川家の名門の出。ちなみに二人は兄弟ではなく本家と分家で従弟の関係らしい。


 トミーは富永忠元とみながただもと、俺の次に年下のオカは岡部正綱おかべまさつなという名で、どちらも親の代やその前からの今川家の有力家臣の子のため、幼い頃から武人としてちゃんとした鍛錬を受けてきていると聞いた。そりゃ豪族の子である俺とは生まれも育ちも違うワケだ。


 だがそれらの「武家として必要な素養」よりも蹴鞠王子にとっては「サッカーの実力」の方が大事らしく、俺はその点でだいぶ重宝して貰えた。


 ちなみに食事も蹴鞠王子と同じか同等のモノが支給されるのでレベルは高いが、魚に関しては焼き魚か煮魚がメインで寿司はもちろん、刺身も出てこなかった。その話を一緒に食べているヤスにすると生の魚を食うなんて野蛮人の極み」なんだそうで。


 うーん、こいつらにいっぺん寿司を食わせて鼻を明かしてやりたい。


 中学高校と文化部(サッカーは遊びではしてたが)だった俺にとってはスポーツを通じて敵対関係だった奴らが親しくなるなんて設定はジャ〇プ漫画だけの作り話だと思っていたが、実際にあるんだと初めて知った。


 ぎっしり詰まった稽古事が終わった夕方時、蹴鞠をしながら王子と話す。


「武人としての能力など、武を極めたい奴にやらせておけばよいのだ。オレが何でもかんでも出来ないとなんて無茶ぶりだろ?」


「オヤジは戦大好きだから天下を平定して都に行く。そこで今度必要とされるのはオレの和歌や蹴鞠の才能。そうやってちゃんと役割を分担できてるんだ」


「オヤジが連日、人と会う約束で忙しそうなのを見てるとうんざりする。オレはああなりたいわけじゃなくてさ、ただ蹴鞠に打ち込みたいだけなんだがな」


 などと鞠を蹴りながらポツポツと本音を漏らす王子を見てると、コイツもコイツなりに苦労してんだなぁ、と同情する。



 現代の学校で習うような歴史では『今川は侵略者でそれを蹴散らしたことを契機に織田信長が乱世を平らげていった』みたいに一般的には伝わっているけれど、この時代でも今川・武田・北条が三国同盟で支配していた地域は人々も飢えたり戦に巻き込まれることなく比較的平和に暮らせてたんじゃないかなあって思う。


 そうでなければ王子が蹴鞠なんて戦に関係ない事に没頭なんてできるハズもないわけで。


 もし歴史が違っていて、桶狭間なんて起こらなかったとしたら、ひょっとすると今川家が天下泰平の世を作っていたのかもしれない。コイツはその下で蹴鞠を通じて天皇家や権力者を上手くまとめて今川と天皇を中心として日本中が平和になっていく。


 『蹴鞠から始める天下泰平』か。悪くないよなあ。


 ほんのちょっとだけだけど、そんな可能性も俺は信じたくなっていたのだが……


 ついにその日は訪れた。


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ご観覧ありがとうございます。

是非とも面白い作品に仕上げていきたいと

思っておりますので感想戴けると嬉しいです♪

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