第4話 バカ殿と蹴鞠王子と戦国4連コンボ
この物語はフィクションです。
登場する人物などの名将は実在のものと
一切関係ありません。
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駿河の国の中心、今川館。
京の街に倣って作られたという碁盤の目のように整備された街並みの中心にあるその建物は、同じく京の都の御所を模倣して造られたという事もあり、とても立派な建物だった。
高さ3メートルを超える塀の正面にある門をくぐると、学校の校庭ぐらいはあろうかという砂利を敷き詰めた前庭が広がっている。それを横切ってようやく建物に入ると、何部屋分あるか分からない長い廊下を延々と歩かされる。そしてようやく大広間の様な部屋の横の廊下に着くと
「こちらにてお待ちください」
と屋敷の従者に言われ、障子戸の前に案内される。見ると俺達が案内された廊下の奥には同じように等間隔で障子戸の前に座って待っている人間が並んでいた。
どういうことなんだ?これは。
障子戸の中の方からはぼそぼそとした話し声と豪快な笑い声が聞こえてきた。
「ほっほっほ!!それは愉快である!! 」
男の声にしては甲高い声だ。そして声がデカいのもあってうるさい。
「それでは小山田どの、帰って晴信公にお伝え下され。この義元、万事異存はござらぬ、と」
て事はこの甲高いデカい声が今川義元か。一体、どんな姿をしてるんだろう?
ボソボソと喋る男が礼を述べ、広間から出ていく足音が聞こえると大きく息を吸い込んで吐き出す音と義元の声が聞こえてきた。
「それで、この後はどうなっておるのじゃ?麻呂はもう帰って休みたいのじゃが」
「殿に面会を求める者があと5人ほどおります」
「まだそんなに居るのか……さっさと終わらせるぞ」
「では、順番にお通し致します!!
岡崎城城代、
シャアアアアーーーーッ!!! と音がして通路の一番奥の男の前の障子戸が自動ドアみたいに開け放たれる。
「殿!! 三河の国衆どもに謀叛の芽が……」
「血判状は目を通した!! 追って沙汰する!次!!! 」
またシャアアアアーーーーッ!!! という音とともに男の目の前の障子戸が閉じられる。どんなシステムだよコレ。
「武田信虎様家臣、
シャアアアアーーーーッ!!!
「殿! 我が主の京での資金が尽きまして…」
「また金の催促か。この前と同じ額を持たす! 次!!! 」
「
シャアアアアーーーーッ!!!
「殿! 天竜川の治水について……」
「もうすでに手を付けておる!!奉行を送るゆえソイツに聞け!! 次!! 」
「三河国衆、
シャアアアアーーーーッ!!!
「殿様! 元康様を我らが三河に……」
「じぃ!! またお前かー!!時期を見て良きに計らう! 次!!!」
大体一人15秒ぐらいで隣までの障子戸が開いては閉じられていく。
いや、普通にすげぇけどなんかこう……
「駿河国衆、浦浜太郎どの! 」
シャアアアアーーーーッ!!!
唐突に目の前の障子戸が開かれ、広間の奥に鎮座する男に目がいく。
いかにも貴族っぽい光沢のある着物に鳥のトサカの様な帽子を被り、その顔は白塗りで歯は黒く塗られている。
うわ、こんなんバカ殿以外で初めて見るわw
ここギャグとして笑っちゃっていいとこ?
だがその男は大真面目な顔でニコリとも笑っておらず、こちらを睨みつけるその顔はこんなメイクですら威厳があった。
「と、殿!! む、息子……息子が……」
そしてその雰囲気に完全に呑まれてミスは許されないどころか完全に話せなくなっちゃってるマイ
アレだ。部下には完璧なプレゼンを求めるクセに取引先に質問されると答えられなくなる典型的ダメ上司的な。仕方ない、ここは俺が完璧に対応するか。
「これなるは東駿河国衆、浜家が四男、浜寿四郎にござりまする。
本日は今川治部大輔義元様にご拝謁賜り大変恐悦しご」
「麻呂は忙しい!! さっさと要件を言え! 」
完璧に言ったのに怒られた。てか、自分の事マロって呼ぶヤツ初めてだわ。
「本日よりご嫡男、
「なんだ小姓か。なら氏真んトコに直接行け!! 以上!! 」
シャアアアアーーーーッ!!!
無情にも障子戸が閉じられる。
これ、アレやコレや面接練習みたいなのやってきたのって最初から意味なかったんじゃないか……
「これにてお引き取りを」
打ちひしがれる間もなく、屋敷の従者にはよ帰れと告げられる。
「浦どののご子息は氏真様の所でしたな?これお主、案内せい! 」
従者(男)が廊下を通る女中を呼び止めると氏真の名を聞いた瞬間、肩が跳ねるほどビクッとなってうわぁ、という表情をしながら振り返る。
蹴鞠王子、よっぽど嫌われてんだな。
それから女中の案内でここまで来たのとは別の方角に長い廊下を突き当りまで進み、裏庭に面した広間に通される。
そこには高座に胡坐を崩したような姿勢でドカッと座り肘置きに頬杖を付いた高校生ぐらいの男がこちらを睨みつけていた。
いやもう、こんなん見るからにDQNですやんw
「で、貴様は誰だ!? 」
初対面で貴様と来やがったよ、やっぱり。
と思いながらも極めて冷静に練習済みの挨拶をする。
「俺……それがしは東駿河国衆、浜家が四男、浜寿四郎にござりまする。本日より氏真様の近習となるべく……」
「新しい小姓か。また余計な者を! 」
これまた話を遮って怒り出す。パパそっくりだね。
「ノブ、東駿河とは何処だ?」
「東駿河というと当家と北条家の領地の堺あたり、海に面した土地にございます」
脇に控えた20代くらいの男がそう答える。知恵袋的なポジションなんかな、ノブってのは。
「フン、とすると海賊か腕っぷしだけの漁師豪族の息子か」
確かに的確な判断だけど言い過ぎじゃないかな、的確だけど。
「で、貴様は何ができる?」
「何?と申されますと??」
「若君の元へ近習にと取り立てて貰いに来る輩は多い!! だがそれ相応の価値を示せる者しか要らぬのだ! 」
ノブが説明を付け加えてくれる。ようは替わりなんて幾らでもいるから役に立たないヤツは要らないよ、って事ですね。とはいえ何が出来たかなぁ?と考えていると
「ええぃまどろっこしい!! どうせ口先で何が得意だのと抜かしても出来なければ化けの皮が剥がれるだけだ!! 直接試す方が手っ取り早い!
おいガキ!! ちょっとこっちに来い!! 」
ノブの反対側に控えていた男が半ギレ気味に立ち上がり、続いてぞろぞろと取り巻き風の何人かが立ち上がる。こんないたいけな14歳男児を高校生ぐらいのお兄さんが集団で取り囲むとか質の悪いイジメじゃないのかね、と思いつつもそのまま彼らについて裏庭に出る。
これから何をされるのかと不安に思っていると
「受け取れ!! さっさと構えろ!!」
そう言われながら俺の脇腹辺りに投げつけられた長い木の棒がクリーンヒットする。昨日小春に拷問で蹴られた場所でもあったので痛みに悶絶してしゃがみ込むと、頭上から言葉が降ってくる。
「いやぁまさか今ので降参?まだ始まってもいないよ?」
「氏真様に仕えるなら力を示さないと。ほらほら構えて?」
あのーこういうのって完全に弱い者イジメというのはないでしょうか……
よろよろと立ち上がって木の棒を構えてみる。
するとそれを見るが早いか向かい合っていた男は野生動物の様な勢いで飛び込んできて、ほんの一瞬の間に膝・脇腹・横っ面に殴られた衝撃が走る!!
その後、棒を投げ出した男の掌での一撃が鳩尾に突き刺さり格ゲーみたいに身体が宙に浮いて数メートル吹っ飛ばされて俺は戦闘続行不能で完全KО!!
ちょっとまって今のコンボなんなんすか!?
こんなん……どうやって対応できると??理不尽すぎだろ?
「いやぁヤス、手加減しなさすぎだろー?」
「むー、ちゃんと手加減はしたつもりなんだけどなぁ」
「そもそも構えが素人臭かったもんな」
「おーい、君。大丈夫??」
何人かが喋っているのは何となくわかるが、痛みで全身がズキズキしていて聴覚が遠のいていく。そのまま意識が遠くなり俺は砂利の上で完全に意識を失った。
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