第二十三話 戦勝祝賀会

 ジカイラは宿に戻ると、デン・ホールン、デン・ヘルダー間の紛争や、蜥蜴人リザードマン族長の娘クランの誘拐事件、秘密警察などについて、一部始終を詳細に報告書に記し、フクロウ便で皇宮のラインハルトに送った。


 ジカイラが報告書を送り、宿で一息ついていると、領主の城から使いの者が来て、領主主催の『戦勝祝賀会』にジカイラ達は招待される。


 戦闘が明け方まで続いたことから、戦勝祝賀会は昼過ぎに開催されるとのことであった。


 朝から昼まで一眠りしたジカイラ達が領主の城に行くと、招待されていたのはジカイラ達だけではなく、海賊鮮血のブロッディ・ティアーズ蜥蜴人リザードマン達も招待されていた。


 戦勝祝賀会そのものは細やかなものであったが、デン・ヘルダーの十倍近い軍勢との戦いに勝利を収めたことから、大いに盛り上がり、昼過ぎから夜半まで続いた。


 蜥蜴人リザードマン達は、アルコール度数の高い蒸留酒を好み、ジカイラやケニー、ホドラムなどは、族長のドルジとの付き合いで一緒に蒸留酒を飲み、酔い潰れる。







 酔い潰れた男達を他所に、女の子達だけで集まり、座談会の様相を見せる。


 ティナが鮮血のブロッディ・ティアーズに尋ねる。


「結婚しているんですか?」


「独身よ」


「恋人は?」


 鮮血のブロッディ・ティアーズは、グラスを傾けて寂しげに微笑んで返す。


「今は居ないわ」


 鮮血のブロッディ・ティアーズの答えに驚いたヒナが口を開く。


「えー。意外ですね」


 ティナやヒナといった思春期真っ盛りの女の子達から見ると、二十代半ばの鮮血のブロッディ・ティアーズは、憧れるような年上の『大人の女性』の雰囲気を纏っていた。


 鮮血のブロッディ・ティアーズが他の女の子達に尋ねる。


「この中で、彼氏がいる人は?」


 ヒナが手を挙げる。


「・・・はい」


 ルナも手を挙げる。


「・・・私も」


 ヒナとルナを見て、鮮血のブロッディ・ティアーズが微笑む。


「良いわね。青春しているわ」


 鮮血のブロッディ・ティアーズがクランに話し掛ける。


「貴女は、どういうひとが好みのタイプなの?」


 唐突に話を振られたクランが驚く。


「えっ!? 私ですか?? 蜥蜴人リザードマン的には、逞しくて、強い男の人かな・・・」


 ルナも口を開く。


「そうなんだ。獣人ビーストマンも、逞しくて、強い男の人がモテるんだよ。ルナは、ケニーたんみたいな優しい人が好きだけど」


 ツバキが呟く。


「逞しくて、強い男の人・・・」


 座談会の女の子達の目が、酔い潰れてテーブルで寝ているジカイラに集まる。


(ジー)


 ヒナが顔を真っ赤にして、慌てて周囲を咎める。


「ダメよ! ジカさんは!! 私の彼氏なんだから!!」


 必死なヒナを他の女の子達が笑う。


「「あはは」」


「「ヒナちゃん、必死だね」」







--翌朝。


 宿屋のベッドで熟睡しているジカイラにヒナが声を掛ける。


「ジカさん、フクロウ便で手紙が来ているわよ」


 昨夜、戦勝祝賀会でアルコールが入ったジカイラは熟睡していたため、ヒナの声にもなかなか目覚めない。


 ヒナは、ジカイラの体を揺さぶりながら、再び声を掛ける。


「起きて! ジカさん、手紙よ!!」


 ジカイラが目覚める。


「・・・手紙?」


 目覚めたジカイラは、ベッドの上で上半身を起こすと、ヒナを膝の上に抱き寄せて手紙を受け取る。


 ジカイラは、手紙の封印を切って羊皮紙の手紙に目を通す。






「はぁ!?」


 突然、ジカイラが素っ頓狂な声を上げる。


 ヒナが怪訝な顔で尋ねる。


「どうしたの?」


 ジカイラがヒナに答える。


「ラインハルトからの手紙だ」


「ラインハルトさんから? ・・・なんて??」

 

「『今すぐ行く』ってさ」


「ええっ!? ラインハルトさんがここに来るの??」


 二人が話していると、窓から部屋に入ってきていた朝日が陰り、外が騒がしくなってくる。


「もう来たみたいだな・・・」


 ジカイラは、そう言うと普段着を着て、ヒナを連れて宿屋に出る。






 宿屋の外に出たジカイラとヒナは、街の人間が空を指差して騒いでいることに気が付く。


 二人が空を見上げると、デン・ホールンの上空に巨大な転移門ゲートが現れ、その転移門ゲートから、純白の飛行戦艦が転移出現ワープアウトしているところであった。 


 ジカイラ達の宿屋は、その飛行戦艦の日陰に入ったのであった。






 デン・ホールンの上空に転移門ゲートから飛行戦艦が転移出現ワープアウトして来たため、領主の城は蜂の巣を突っ突いたような騒ぎになる。


 更に四隻の飛行戦艦と四隻の飛行空母がデン・ホールンの街を取り囲むように転移出現ワープアウトして来る。


 四隻の飛行空母の後に、古代エンシェント・ドラゴン飛竜ワイバーンの編隊が転移出現ワープアウトして来る。


 続いて、四枚の羽を持った魔神と上位悪魔グレーターデーモン下位悪魔レッサーデーモンの軍勢が転移出現ワープアウトして来る。


 領主のアイゼンブルク、ツバキ、ホドラムは、城の外に出て、城の入り口からその様子を眺めていることしかできなかった。


 事情を知らないアイゼンブルクが狼狽える。


「どこの軍勢だ? 我々をどうするつもりだ??」


 ホドラムが呟く。


「これは・・・制圧だ」


 ツバキがホドラムの方を向いて繰り返す。


「制圧って・・・」


 領主の城前の広場に飛空艇を止めていた鮮血のブロッディ・ティアーズも驚く。


「・・・まさか、飛行戦艦を転移させて来るなんて!! それにあの軍勢、あの兵力!!」


 領主のアイゼンブルク、ツバキ、ホドラムの元に伝令兵が駆けて来る。


「上空の飛行戦艦より連絡です。『こちらはヴァレンシュテット帝国軍 総旗艦ニーベルンゲン。抵抗しなければ、攻撃はしない』とのことです」


 驚いたホドラムが口を開く。


「総旗艦って! 皇帝座乗艦って事だろ!? 皇帝陛下が此処に来たって事か!!」


 ホドラムの言葉を聞いたアイゼンブルクが更に狼狽える。


「まさか!? 皇帝陛下がこんな辺境に自ら行幸されるとは!!」


 ツバキも驚いて、両手を口に当てて固まっている。


 ホドラムが警備兵に指示を出す。


「警備兵に連絡! 儀仗だ!! 警備兵は城の入口前に整列! 皇帝陛下に失礼のないようにな!」


 ホドラムの命令で警備兵達は、皇帝を迎える準備に取り掛かった。

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