第二十四話 皇帝の采配

 ジカイラとヒナは、宿屋の前で帝国軍がデン・ホールンの街の上空に続々と転移出現ワープアウトしてくる様子を目の当たりにする。


 ジカイラが口を開く。


「ラインハルトの奴、帝国の四個方面軍百万を全部、連れて来きやがった!!」

 

 ヒナが驚く。


「ええっ!?」


 驚くヒナにジカイラが指示する。


「ヒナ! 皆を起こせ!! 城へ行くぞ!!」


 ジカイラとヒナは、宿屋へ駆け込んだ。






--デン・ホールン上空 バレンシュテット帝国軍 総旗艦ニーベルンゲン 艦橋


 皇帝の礼装を纏ったラインハルトは、ニーベルンゲンの艦橋からデン・ホールンの街を眺めていた。


 傍らには、二人の女性。


 真紅のイブニングドレスを着た、ウェーブの掛かった赤毛の女性と、その後ろに、紫のイブニングドレスを着た理知的な女性。


 バレンシュテット帝国 南部方面軍総司令 帝国不死兵団 団長 エリシス・クロフォード伯爵。


 エリシスのやや後ろに、彼女の副官であるリリー・マルレーがいる。


 ラインハルトが口を開く。


「エリシス。ご苦労だった。全回復薬エリクサーは、好きなだけ使って構わない」


 エリシスは一礼して答える。


「・・・御意」




 転移門ゲートの魔法で帝国軍の主力をデン・ホールンへ転移させたのは、エリシスであった。


 無論、その魔力の消費量は莫大である。


 しかし、帝国四魔将の一人であり、不死王リッチーである彼女には、それが行えるだけの実力があった。





 ラインハルトが続けて指示を出す。


「アルケット艦長。街へ降りるぞ。揚陸艇を頼む。エリシス、リリーも一緒に」


 アルケットは敬礼して答える。


「了解しました」


 街の周囲を取り囲むように、帝国軍の四個方面軍が陣取る。


 デン・ホールン側は、ホドラムの命令により街の門は開門したまま抵抗せず、帝国軍の進駐を迎え入れた。


 街の大通りには、一定間隔で帝国軍の帝国騎士ライヒスリッター蒸気戦車スチームタンクが並ぶ。


 帝国北部方面軍 帝国竜騎兵団 団長 アキックス伯爵。


 帝国東部方面軍 帝国機甲兵団 団長 ヒマジン伯爵。


 帝国西部方面軍 帝国魔界兵団 団長 ナナシ伯爵。


 帝国四魔将の三人は、城の広場の手前の大通りでラインハルトの到着を待つ。


 ラインハルトの乗った揚陸艇が、三人の待つ、街の大通りに着陸する。


 揚陸艇からラインハルトとエリシス、リリーが降りてくる。


 アキックス、ヒマジン、ナナシは、一礼してラインハルトの降船を迎える。


 降船したラインハルトは、出迎えの帝国四魔将達を労う。


「皆、よく来てくれた」


 アキックスが口を開く。


「陛下のご命令とあらば」


 ラインハルトは右手をかざして答えると、帝国四魔将を伴って、広場を通り抜けて領主の城へ向かう。


 広場には、鮮血ブロッディ・の涙ティアーズの海賊船が止まっていたが、ラインハルトは意に介さず、先へ進む。


 



 城の入口から広場までは、デン・ホールンの警備兵が儀仗のため、立ち並ぶ。


 警備兵の間をラインハルトは、帝国四魔将を伴い、城の入口へと向かう。


 城の入口では、領主のアイゼンブルクを中心に、両隣に領主の娘のツバキと騎士隊長のホドラムが平伏してラインハルトを迎える。


 ホドラム達の脇にジカイラ達が居並ぶ。


 



 ラインハルトは、アイゼンブルク、ツバキ、ホドラム三人の前で立ち止まり、声を掛ける。


「面をあげよ」


 三人は恐る恐る顔を上げ、ラインハルトを見る。


 アイゼンブルクは、謁見や参内さえ許されていないバレンシュテット帝国皇帝を目の当たりにして、凍りついたように絶句して固まってしまった。


 ツバキは、ラインハルトを一目見て、頬を赤らめ魅入ってしまう。


 ホドラムは、ラインハルトを見て驚愕する。


(覇王として知られる『大帝の生まれ変わり』『無敵の騎士王にして聡明な皇帝』と聞いていたが)


(もっと無骨な鎧武者を想像していた!!)


(あの流れるような金髪。澄んだアイスブルーの瞳。女性のような端正な顔立ちに端麗な容姿!)


(まさに神による造形だ! まるで『おとぎ話の主人公』のような人物だ!!)



 

 一言も発せずにいる三人を他所にラインハルトは、ジカイラに話し掛ける。


「一連の騒動の首謀者を捕まえたと聞いたが」


 ジカイラが答える。


「ああ。ホドラム、カッパを連れて来てくれ」


 ホドラムが警備兵に命令する。


「お前達、地下牢からカッパを此処へ連れて来い!」





 立ち並んでいた警備兵の二人が、地下牢からカッパを引き摺って来る。


 警備兵によって手枷を嵌められたカッパが、ラインハルトの前に引き出される。




 ラインハルトの前に引き出されたカッパは、ガタガタ震えながら平伏し、口を開く。


「こ、皇帝陛下に・・・おかれましては、ご、御機嫌麗しゅう・・・」


 エリシスがカッパに向けて手をかざし、無詠唱で魔法を放つ。


「ぐはっ!!」


 魔力指向弾マナ・ミサイル


 魔力マナを弾丸のように撃ち出すだけの初級魔法だが、魔力指向弾マナ・ミサイルはカッパに当たり、カッパは嗚咽を漏らしながら、一メートルほど地面を転がる。


 エリシスが、カッパを睨みつけながら言い放つ。


「誰が発言を許可した? 賊が!!」


 カッパは、転がった先で再び平伏する。


「何卒、ひ、平に御容赦を・・・」


 エリシスがサディスティックな笑みを浮かべて、カッパを見下す。


「ふふ。動死体ゾンビに変えて、『百年間、皇宮の便器を舌で舐めて掃除させる』というのはどうかしら?」


 カッパが必死に懇願する。


「ヒィイイ! どうか、御慈悲を!!」


 ラインハルトが苦笑いを浮かべて右手を上げ、エリシスを制止する。


「よせ、エリシス。それはナナイが嫌がる」


 ラインハルトの言葉にエリシスは、一礼して後ろへ下がる。


 ラインハルトは、カッパに冷酷に告げる。


「帝都で公正な裁判を受けさせてやる。連れて行け」


 カッパは、警備兵によって帝国騎士ライヒスリッター達に引き渡される。


 連行され、引きずられていくカッパが叫ぶ。


「陛下!! 何卒、御慈悲を! 御慈悲を~!!」




 カッパが収監されるのを見計らって、ラインハルトが三人に声を掛ける。


「此度の働き、大儀であった。それに、友人たちが世話になったようだな」


 領主のアイゼンブルクが平伏したまま、答える。


「領主の勤めを果たしたまでです」


「褒美を取らせる。望むものを申してみよ」


「滅相もない! 私は何も・・・。この度の戦勝と成果は、ジカイラ殿たちの働きがあればこそです!」 


 ラインハルトが目線をジカイラ達の方に移すと、ジカイラが苦笑いしていた。


 ラインハルトは少し考える。


(彼等の税金を免除しようかとも思ったが、自治都市は既に免税だしな・・・) 


「領主の居なくなったデン・ヘルダーは、直轄都市にする。帝都から北西街道沿いにデン・ヘルダーまで鉄道を敷設するので、デン・ホールンにも鉄道の駅を作るというのはどうだ?」


 ラインハルトの言葉に三人が驚く。


 デン・ホールンに帝都と直結した旅客と物流の拠点ができる。


 街が発展し豊かになる事は確実であった。


 アイゼンブルクが口を開く。


「ありがとうございます!!」


 三人の反応を見たラインハルトが告げる。


「よし。我々は引き揚げる。ジカイラ達も一緒に旗艦へ」


 ラインハルトの言葉で帝国軍はデン・ホールンからの撤収を始め、ジカイラ達はラインハルト、帝国四魔将と共に総旗艦ニーベルンゲンへ向かった。


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