第二十二話 デン・ホールン防衛戦(ニ)

 ヒナの魔法によって、デン・ヘルダー軍は大混乱に陥った。


 デン・ヘルダー軍は、いくつもの傭兵団を集め人数こそ揃えたものの、指揮系統はバラバラであり、統制、士気、練度など、職業軍人からなる帝国軍とは比べるべくもない脆いものであった。


 ジカイラが叫ぶ。


「ケニー!合図だ!!」


「了解!!」


 ケニーは、櫓から街中に向けて旗を振る。


 櫓の篝火の明かりが、ケニーが振る旗を照らす。


 城前の広場に停泊している飛空艇の中から、鮮血のブロッディ・ティアーズが望遠鏡でケニーの合図を確認する。


「私の出番ね!」


 飛空艇の海賊船『鮮血のブロッディ・ティアーズ』は、髑髏の旗を靡かせながら広場を離陸し、門外に展開するデン・ヘルダー軍に向かう。


 櫓の篝火が、夜空に浮かぶ『鮮血のブロッディ・ティアーズ』の船体を下から照らし出す。


 翻る髑髏の旗を見た、門外の傭兵達が叫ぶ。


「か、海賊船だー!!」


 海賊船『鮮血のブロッディ・ティアーズ』は、門外に展開するデン・ヘルダー軍に容赦無く砲撃を加える。


 弓矢で反撃してくる傭兵達を見て、鮮血の涙が笑う。


「馬鹿が! 弓矢で飛空艇が落とせるものか!!」








 戦況を見たジカイラ達は、櫓から降り門の前に集まる。


 ジカイラが口を開く。


「ホドラム、ツバキ。壁に近づく敵は、櫓から弓で射て。オレ達と蜥蜴人リザードマンは突撃する」


 ツバキがジカイラを気遣う。


「ジカイラさん、どうか御無事で」


 ジカイラが答える。


「オレの心配は要らない。それよりの心配をしてやれ」


 ジカイラの言葉にホドラムは苦笑いする。


 蜥蜴人リザードマンの族長ドルジがジカイラに話し掛ける。


「いよいよだな!」


「ああ! 中央突破でカッパ一味を狙う!」


 ジカイラは、振り向くとケニー、ヒナ、ティナ、ルナに話し掛ける。


「皆、遅れるなよ!」


「「おー!!」」


 ホドラムが目配せし、門番に命じる。


「開門!!」


 門番が街の入り口の扉を開ける。


 ジカイラの号令が響く!


「突撃!!」


「「ウォオオオーー!!」」


 ジカイラ達と蜥蜴人リザードマン部隊が、雄叫びを上げながら街の門を出て、デン・ヘルダー軍に突撃する。


 ジカイラは、愛用の斧槍ハルバードで混乱する傭兵達を薙ぎ払い、ケニー達を先導する。


 ケニーは、二本のショートソードで、ルナは、剣と小型盾バックラーで、傭兵を倒していく。


 ヒナは、ケニーとルナが討ち漏らした傭兵に手をかざし、魔法で倒す。


氷結水晶槍クリスタル・ランス!!」


 直ぐ隣では、蜥蜴人リザードマン族長のドルジが、両手剣で傭兵達を斬り伏せて、蜥蜴人リザードマン部隊を率いている。


 ジカイラ達と蜥蜴人リザードマン部隊は、組織だった抵抗が出来ないデン・ヘルダー軍の中央を突き進んで行く。








 カッパとコサインの元に伝令兵が来る。


「帝国軍と見られる部隊と蜥蜴人リザードマンの部隊が、我が軍の中央を突破しつつあり! 間も無く此方に到達すると思われます!!」


 報告を聞いたカッパが狼狽える。


「敵の十倍の兵力があって、まるで歯が立たんのか!? 使えない奴等め!!」


 コサインが冷静に答える。


「兵は、もはや、半分も残っていないでしょう。重砲も攻城兵器も無しに、急ぎ過ぎたのです!!」


 カッパがコサインに言い返す。


「仕方あるまい! 皇帝や帝国政府に知られる訳にはいかんのだ!!」


 ジカイラ達が傭兵達を突破して、カッパ達が居る本陣に迫る。


 デン・ヘルダー軍は総崩れになり、傭兵達は逃げ出していく。







 本陣に迫るジカイラ達に怯えたカッパが悲鳴を上げる。


「ヒィイイ!! こっちへ来るぞ!?」


 ジカイラが叫ぶ。


「居たぞ! バカッパ!! 逃げるな!!」


「領主、下がって下さい!!」


 コサインが、ジカイラとカッパの間に割って入る。  


 ジカイラは、コサインの前に出ると、斧槍ハルバードを大きく二度、振り回した後、正眼に構えて名乗りを上げる。


「帝国無宿人、ジカイラ推参!!」


 名乗りを上げたジカイラは、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。


「やはり、帝国軍の軍人のようだな・・・」


 そう言うとコサインは、剣を下段に構える。


( いちせん!!)


 ジカイラの渾身の力を込めた斧槍ハルバードの一撃が剛腕から放たれる。


 コサインは、斧槍ハルバードの一撃を剣で受ける。


 しかし、鈍い金属音と共にジカイラの斧槍ハルバードは、剣をへし折り、コサインの鎧に食い込むと、そのままコサインの体を吹き飛ばす。


「ぬぅおおおお!?」


 嗚咽を漏らしながら吹き飛ばされたコサインは、地面に墜ち転がった。


 ジカイラは、カッパの胸ぐらを掴む。


「捕まえたぞ! バカッパ!!」


「ヒッ! ヒィイイ!! た、助けてくれ!!」

 

 ジカイラは、近くまで来ていた蜥蜴人リザードマン部隊のところまで、カッパを引きずっていく。


「ドルジ! こいつが誘拐犯のボスだ! ただし、殺すなよ?」


 ジカイラは、カッパを蜥蜴人リザードマン達の輪の中に放り出した。


 怒りに満ちた蜥蜴人リザードマン族長のダグワ・ドルジがカッパに迫る。


「娘を誘拐した礼をさせて貰うぞ!!」


 カッパは、蜥蜴人リザードマン達からボコボコに袋叩きにされる。


「ぎゃあああああ! た、助けてくれぇええ!!」 


 その様子を見ていたジカイラが傍らのヒナに話し掛ける。


「ま、『因果応報』ってやつだな」


「そうね」


 ヒナも笑顔でジカイラに答える。


 ケニーがジカイラに尋ねる。


「ジカさん、この後はどうするの?」


 ジカイラが答える。


「カッパは、縛り上げて帝都へ護送だな。そこら辺はホドラム達に任せるさ。後は、ラインハルトがカッパ達を裁判に掛けて、上手く処理するだろ」


 ティナが口を開く。


「一件落着ね」


 ルナも笑顔で話す。


「ですね!」


 全員が集まったところでジカイラが叫ぶ。


「勝ちどきだ! 勝ちどきを挙げろ!!」


 蜥蜴人リザードマン部隊もジカイラに答え、声を揃えて一斉に勝利の勝ちどきを挙げる。


「「ウォオオオオー!!」」








 勝ちどきを挙げ終わり、斧槍ハルバードを肩に担いだジカイラが周囲に話す。


「さ、城に帰って、パ~ッと打ち上げやろうぜ!」


 ティナが笑う。


「あはは。ジカさんらしいね!」


 ヒナも微笑みながら話す。


「帰りましょう!」


 ルナは欠伸あくびをしてケニーに話す。


「ケニーたん。ルナ、眠い」


 ケニーもルナに微笑む。


「帰ろう。ルナちゃん」 


 戦いを終えた者達が誇らしげに領主の城へ向かって凱旋する。


 夜の闇は消え去り、暁の爽やかな薄明かりが、東の空から星々の瞬きを消し去っていく。


 凱旋する者達の背中と行く先を、黎明の新しい光が照らしていった。

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