第二十一話 デン・ホールン防衛戦(一)
--夕刻。
傾いた夕陽が地平線に沈もうとしている頃。
夕陽が照らし出す
北西街道の上にあるこの街の出入り口は二箇所。
街を守るものは、五メートルほどの木壁と、出入り口の上の櫓しか無い。
迫り来るデン・ヘルダーからの軍勢から街を守るため、ホドラムの命令によって、急遽、追加の櫓と木壁への接近を防ぐ杭柵が作られていた。
自警団と警備兵が街の防衛準備を進めている状況を、ジカイラ達は歩きながら確認する。
ヒナがジカイラに話し掛ける。
「ジカさん、こんなので大丈夫なの?」
ジカイラは笑顔で答える。
「大丈夫さ。相手は傭兵だ。騎士じゃない。命を捨ててまで、戦おうとはしない」
ジカイラ達が街を見回っていると、
その数、およそ百二十人。
ダグワ・ドルジは、
ドルジがジカイラに話し掛ける。
「遅くなった。間に合って良かった」
ジカイラ達がドルジ達、
「良く来てくれた」
ジカイラは、少し安心する。
戦いに慣れていない自警団より、屈強な
ティナが、
「クラン!! クランも来たの?」
ティナがクランの手を握る。
「ええ。私にもお手伝いさせて!」
ドルジがティナに話し掛ける。
「娘には、
ドルジの言葉にティナが驚く。
「そうなんだ!」
クランは照れながらティナに答える。
「少しだけどね」
ケニーは、自警団に弓の使い方を教えていた。
ルナも自警団と一緒に弓の練習をしている。
ケニーはルナの後ろから手を取り、矢の番え方を教える。
「良い? ルナちゃん。弓は、こう構えて。矢は、こういう風に」
ルナの覚えは早く、少し練習すると正確さはともかくとして、矢は的に当たるようになっていた。
--日没。
夜の帳が降りてきて、街の周囲は暗くなる。
櫓に立つ物見の目に、街道の彼方から篝火を灯しながら、街に迫る集団が見えてくる。
「敵だ! デン・ヘルダーの軍勢が来たぞ!!」
物見からの報告に、街に緊迫した空気が張り詰める。
小一時間ほどでデン・ヘルダーの軍勢は、街の手前まで来た。
カッパとコサインが、デン・ホールンの正門前にやって来る。
カッパが叫ぶ。
「ツバキ姫を差し出して、大人しく降伏しろ! 命だけは助けてやる!!」
櫓の上でヒナがジカイラに尋ねる。
「どう答えるつもりなの?」
ジカイラは笑顔でヒナに答える。
「決まっているだろ?」
ジカイラが櫓の上からカッパに答える。
「お前ら! 今すぐ帰るなら、命だけは助けてやるよ!!」
ジカイラの返事を聞いたカッパは、激怒する。
「ふざけおって! 目にものを見せてやるわ!! コサイン! 攻撃を開始しろ!!」
コサインは、傭兵達に街への攻撃を命令する。
「攻撃開始!!」
デン・ヘルダーの軍勢は、弓矢と火矢で街への攻撃を始める。
ジカイラとヒナは、櫓で木盾越しにデン・ヘルダーの軍勢の様子を窺う。
ジカイラがヒナに話し掛ける。
「・・・やはり、敵さんに重砲や攻城兵器は、無いようだ。矢と火矢なら、こっちに大した被害は無い」
ジカイラが続ける。
「密集している敵に一撃を加えるぞ! ヒナ、やれ!!」
「任せて!」
ヒナは、櫓の上で天を仰いで魔法の詠唱を始めた。
「
(万物の素なるマナよ)
ヒナの足元の櫓の床に一枚、頭上に等間隔で光る大きな魔法陣が六枚、描かれ浮かび上がる。
ヒナは詠唱を続ける。
「
(ロキとアングルボサの長子)
「
(太陽と月を追い求める万物の災厄)
大気中から無数の光線がデン・ヘルダー軍の上空へ向けて伸びていき、雲を作る。
ヒナは更に詠唱を続ける。
「
(両極の牢獄より常世に現さんと欲す)
「
(今、此処にフェンリルの牙となりて現出せよ!!)
「
(我が敵を貫け!!)
「
ヒナが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって大気中に砕け散った。
デン・ヘルダー軍の上空の雲から無数の氷の槍が地面に降り注ぎ、デン・ヘルダー軍の傭兵達を貫いて地面に刺さっていく。
地面に刺さった氷の槍は、砕け散り光の粉となって消えていく。
デン・ヘルダー軍は、大混乱に陥った。
コサインの元に前線の傭兵から報告が届く。
「敵軍に強力な魔導師がいるとの事です! 上空に六つの魔法陣が確認されました!!」
コサインが聞き返す。
「六つ?? 六つだと!? そこまでの魔法の使い手が居るというのか??」
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