第十四話 中核都市デン・ヘルダー

 ジカイラ達一行は、デン・ヘルダーの都城の城門で見張りの兵士に偽の身分証を見せる。


「巡礼者か。ご苦労なことだ」


 城門に立つ兵士達は、ジカイラ達を一瞥して通過させる。 


 ジカイラ達は、デン・ヘルダーの市内へ幌馬車を進め、市内に入る。


 城門から続く大通りは、数多くの露店が並び、飲酒しながら露店に屯する傭兵達と、傭兵団と一緒に行動している娼婦達で溢れていた。


 ヒナが大通りを見て呟く。


「物騒な人達がたくさん・・・。まるで、街中が酒保ね」


 ジカイラは、大通りと周囲を観察する。


(・・・傭兵団。それも複数。・・・大隊? いや、師団規模の兵力か?)


(ま、戦慣れしている分、革命軍の農兵よりマシだろうが、コイツらじゃ、帝国騎士ライヒスリッターには勝てないだろうな・・・)


(・・・この物騒なキナ臭さ)


(・・・立ち込める退廃的な雰囲気)


(・・・体に馴染む戦場の空気)


 デン・ヘルダーの市内の物騒な喧騒は、ジカイラに暗黒街出身の海賊だった頃を思い出させた。






 ジカイラ達一行は、街の宿屋に宿を取る。


 よくある作りの宿屋で、一階は食堂 兼 酒場。二階より上の階が宿になっていた。


 ジカイラ達は、宿屋の傍に幌馬車を泊め、宿の食堂で遅めの昼食を取る。


 食事しながらジカイラが話す。


「秘密警察のような悪党が根城にする場合が多いのは、港付近の倉庫街か、地下だ。・・・いざという時は船で海上に逃げられるからな。ここからは、二手に分かれて探索しよう」


 ケニーが尋ねる。


「組分けは、どうするの?」


 ジカイラが答える。


「今日は、オレとヒナの組と、ケニーとルナの二人組で行こう。ティナは留守番を頼む。それと、秘密警察の根城を見つけても、攻撃するなよ? まず、族長の娘の居所を掴んで、救出することが最優先だ」


 ケニーは頷く。


「了解」


 ティナは不満げに呟く。


「ちぇ~。私、留守番か~」


 ジカイラが諭す。


「この手の街じゃ、聖職者は目立つからな。宿屋の荷物番を頼む」


 ジカイラの説得でティナは承服する。


「判ったわ」


 食事を終えたジカイラ達は、街の探索に出発する。


 



 


 ジカイラとヒナは、港へ向かう。


 港では、世界各地から寄港したであろう大型の船舶が停泊しており、船舶への荷揚げや荷降ろしが行われ、船員や乗客が乗り降りしていた。


 心地よい潮風に吹かれ、カモメの鳴き声が二人に聞こえる。


 ヒナは、港に接舷している大型の帆船を見上げる。


「大きな船・・・」 


 ジカイラが解説する。


「外洋を航行してきたガレオンだ。武装商船ってところだな。向こうはキャラックとキャラベルか」


 ヒナが感心する。


「ジカさん、船に詳しいのね」


海賊だからな」


 ジカイラは、港沿いの倉庫街を眺めながら考える。


(・・・表通りに面していない、人通りの少ない倉庫。悪党が根城にするのは、そういう倉庫だ)


 二人は裏通りに入る。


 裏通りに入った途端、人通りはまばらになり、寂れた雰囲気が漂う。


(そう・・・。こういう場所だ)


 寂れた倉庫街の一角に、全ての窓を内側から板を貼り付けて塞いである倉庫があった。


 ジカイラは、夜、ケニーと探索できるように路地の道順を確認する。


 二人の前を家畜用荷馬車が通り過ぎる。


 酷い悪臭が二人の周囲に漂う。


(・・・あの荷馬車) 


 ジカイラは、家畜用荷馬車の異様さに気が付き、目で追う。


 ヒナが尋ねる。 


「どうしたの?」


 ジカイラは考えるように答える。


「・・・おかしい。普通、家畜用の荷馬車なら、側面に通気用の格子なり窓が付いている。あの荷馬車には、格子も窓もない。中に見られたら不味い物が入っているようだ。それに・・・」


「それに?」


「食肉市場ならまだしも、港に家畜を運ぶってのもな」 


「確かに変ね」


 二人はこっそりと家畜用荷馬車の後を追跡する。


 家畜用荷馬車は、少し離れた寂れた倉庫の中に入っていった。


 ジカイラは倉庫を確認する。


「・・・ここか。裏口に回って中に入ろう」


 二人は倉庫の裏口に回る。


 ジカイラがヒナに指示する。


「ヒナ、鍵を開けてくれ」


「いくわよ。解錠アンロック!」

 

 裏口の扉の鍵が開く。


 二人は倉庫の中に忍び込むと、大きな木箱の影から倉庫の中の様子を窺う。


 倉庫の中央に先程の家畜用荷馬車が止まっていた。倉庫正面の入り口付近にはテーブルがあり、数人の男達が椅子に腰掛けて屯して居た。


 家畜用荷馬車の御者らしき男が二人、荷馬車から降りて、倉庫に居た男達と話している。


 やがて男達は、家畜用荷馬車の扉の鍵を外して扉を開ける。


 家畜用荷馬車の中から出てきたのは、手足を鎖に繋がれた全裸の女の子達。年齢は十三歳から十五、十六歳くらいだろう。


 ジカイラは、物陰から男達の様子をじっと様子を伺う。


(・・・人身売買。いや、奴隷商人か・・・?)


 鎖に繋がれた女の子達は、倉庫の中央に集められ座らされていた。


 倉庫に居た男の一人が女の子達に近づく。


 その男が仲間の男に話す。


「コイツらを売っぱらう前に、味見だ! 味見!」


 男の仲間が答える。


「お前も好きだなぁ・・・毛が生え揃ったばかりの女だぞ?」


「へへへ」


 歪んだ笑みを浮かべた男はそう言うと、一人の女の子の前に歩み出る。


 男はズボンと下着を降ろして股間を女の子の顔の前に突き出すと、女の子に言う。


「舐めろ」


 女の子は、男の股間から顔を背ける。


「嫌!」


 男は、女の子を拳で殴り倒す。


 鈍い音と共に女の子は床に倒れると、男は数回、女の子を足で蹴り飛ばす。


「やめ・・、やめて!!」 


 男は、女の子の髪を掴んで床から引き起こすと、股間の前に女の子の顔を近づけ、再び告げる。


「さぁ・・・舐めろ」


 女の子は、涙ぐみながら舌先で舐め始める。


 





 その様子を見ていたヒナが、男に向けて手をかざす。


 ジカイラは、ヒナが男達を魔法で攻撃しようとしている意図だと、直ぐに判った。


 ジカイラは左手でヒナの口を塞ぎ、右腕でヒナを抱き抱えるように抑え込む。


 ヒナの耳元でジカイラが囁く。


「静かに。此奴等は小物だ。秘密警察じゃない。騒動は起こすな」


 ジカイラの腕の中で、ヒナは冷静さを取り戻したように大人しくなった。


 



 男は更に股間を女の子の顔に押し付ける。


「よし。咥えろ」


 女の子は泣きながら拒絶する。


「・・・嫌ッ」


「咥えろ!!」


 男は、女の子の口の中に挿入する。


「ぐっ・・うぷっ!」


「お~ら。こうやってやるんだよ!!」


 男は女の子の頭を両手で掴むと腰を振る。


「おお! 良い! 良いぞ!! おっ! おおっ!!」


 男が女の子の口の中に出すと、女の子は余程気持ち悪かったのか嘔吐する。


「けほっ! けほっ! おぇっ! ゲェエエエ・・・!!」


 男は、嘔吐している女の子の髪を掴んでテーブルの上にうつ伏せに引き摺り倒す。


「さぁ、次は下の口に出すぞ!」


 女の子は泣きながら男に懇願する。


「もう・・・やめて・・・」 


 男は、女の子の懇願を無視して、後ろから女の子を犯し始める。


「ああっ! い、痛い! やめてぇ!!」 


 女の子の悲鳴は、ますます男を興奮させているようだった。






 ヒナは、目の前で犯されている女の子に、かつての自分の姿を重ねて見ていた。


 士官学校でハルフォード子爵に捕まり胸を弄ばれた時は、ラインハルトが助けてくれた。


 帝都ハーヴェルベルクの路地裏で男に絡まれた時は、ジカイラが守ってくれた。


 目の前で犯されている女の子には、ラインハルトやジカイラのような『守ってくれる男』が居なかったのだ。


 ヒナは、自分がレイプが行われている現場に居て、その行為を見ているにも拘らず、自分が落ち着いて居られる事に驚いていた。


 すっぽりとジカイラの腕に抱かれ包まれて居る事が、『守られている事』がヒナに絶対の安心感を与えていた。


 ジカイラが再びヒナの耳元で囁く。


「ここじゃない。そろそろ引き上げるぞ」


 口を抑えられているヒナは、無言で頷く。




 二人は再び倉庫の裏口から外に出た。

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