第十一話 手紙

 蜥蜴人リザードマンの族長ダグワ・ドルジの方を向いて、ジカイラが口を開く。


「まず、族長の娘さんを助け出す事を最優先しよう。オレ達が中核都市のデン・ヘルダーに潜入して、族長の娘さんを助け出す。だから、蜥蜴人リザードマン達は、デン・ホールンへの襲撃をやめてくれ」


 ダグワ・ドルジが、ジカイラ達を睨みながら話す。


「・・・判った」


 鮮血ブロッディ・ティアーズも口を開く。


「海賊の私はデン・ヘルダーには入れないし、ツバキとホドラムもデン・ヘルダー側に顔が割れてるわ。・・・貴方達に任せるしかなさそうね」


 ジカイラが自分の膝を一回、叩いて話す。


「良し! 決まりだな! 状況報告や連絡はフクロウ便で行う。オレ達は、一度、デン・ホールンに戻って準備しよう」


 ダグワ・ドルジが、ジカイラ達に話す。


「上手くいくと良いが」


 ジカイラが答える。


「悪党が根城にする場所は、大体、見当がつく。心配するな。オレ達に任せろ」


 話がついたため会合は解散となり、ジカイラ達五人とツバキ達三人は、族長ダグワ・ドルジの住居を出て、鮮血ブロッディ・ティアーズの飛空艇に戻る。





 ジカイラ達八人が乗り込んだ飛空艇は、離陸して蜥蜴人リザードマンの集落を離れ、デン・ホールンに向かった。

 

 飛空艇は、小一時間の飛行でデン・ホールンに到着する。


 飛空艇から降りたジカイラ達八人は、宿屋の食堂兼酒場に集まる。


 ジカイラが皆に話す。


「お疲れ。とりあえず蜥蜴人リザードマン達が、この街を襲撃する事は無くなったな」


 ツバキが御礼を口にする。


「ありがとうございます!」


 ヒナがホドラムに尋ねる。


「この街からデン・ヘルダーまで、どれくらいの距離があるの?」


「馬車で一日半位行くと、デン・ヘルダーだ」


 そう言うとホドラムは、席から立ち上がり、ツバキにも席を立つように促す。


 ツバキは、席を立つと、もう一度、ジカイラ達に深々と頭を下げる。


 鮮血ブロッディ・ティアーズもツバキ達と共に席を立ち、自分の飛空艇へと戻って行った。


 ツバキ、ホドラム、鮮血ブロッディ・ティアーズが宿屋を後にする。




 

 ジカイラが他の四人に話す。


「出発は明日の朝だ。皆、今日は早めに休んでくれ」


「お疲れ様でした」


「お疲れー」


 ルナとケニーは、早々に自分の部屋に戻る。

 

 ティナが口を開く。


「とりあえず、街が襲われる事が無くなって良かった」


 ヒナが答える。


「そうね。一安心ね」


 ヒナとティナが話していると、ヒナの元にフクロウ便で小包が届く。


「私宛に小包?」


 ヒナが小包を開くと、帝都ハーヴェルベルクに居るクリシュナからであった。


「帝都に居るクリシュナからの手紙よ」


 そう言うと、ヒナは封印を切って羊皮紙の手紙に目を通す。


 ヒナが手紙の内容をジカイラとティナに告げる。


「・・・クリシュナに赤ちゃんができたみたい!」


「そうなんだ」


 クリシュナからの手紙の内容に、ティナは素っ気なく答える。


「へぇ~」


 ジカイラは、手紙の内容に対して、かつて一緒に過ごした『ユニコーン小隊』の女の子たちの事を考えていた。


(ハリッシュとクリシュナに子供ができたか・・・)


(・・・クリシュナは、普段はおっとりしていたが、肝は座っていたからな。『肝っ玉母さん』タイプだろう)


(・・・ナナイは? あいつは委員長タイプだから、絶対に躾にうるさい『教育ママ』になるだろうな)


(・・・ティナは? 義兄のラインハルトにべったりだから、しばらく独り身だろうな。バレンシュテット帝国皇帝のラインハルト以上の男って、そうそうに居るものじゃない)


(・・・ヒナは? あいつは将来どうなる? オレの母親のように、自分の子供を捨てるような母親にはなって欲しくないが)


 ヒナは手紙の一番下の記述に目が留まる。


(小包は、部屋でヒナが一人の時に開けてね)


 ヒナは、この部分は口に出さなかった。


「私、先に部屋に戻っているね」


 そう言うと、ヒナは小包を手に持ち、足早に部屋に戻る。





 宿屋の食堂には、ジカイラとティナの二人だけが残った。


「ティナは、まだ寝ないのか?」


「ルナがケニーたんの部屋に移ったから、部屋に戻っても、私一人なの」


「・・・そうか」


 ティナが独り言のように呟き始める。


「ルナにはケニーたんが居て、ヒナにはジカさんが居る。クリシュナにはハリッシュが居て、ナナイにはお義兄にいちゃんが居る。私だけ、一人なんだ」


「・・・そうだな」


「私、こんなにお義兄にいちゃんの事が好きで、愛しているのに、お義兄にいちゃんはナナイが好きで、ナナイもお義兄にいちゃんのことが好きで、二人には子供もできて! 私、毎日、神様にお祈りしているのに!!」


 そこまで言うと、ティナの目から大粒の涙がポロポロと溢れる。


 自分の頬を伝う涙を両手で受けながら、ティナが口を開く。


「私、どうして泣いているんだろう?」


 ティナの話をじっと話を聞いていたジカイラが答える。


「・・・寂しいからだろ」


 ティナの栗色の大きな瞳がジカイラを見詰める。


「私、・・・寂しいのかな」


 ジカイラは深い溜息を吐き、ティナに諭す。


「すまんがオレには、話を聞く事以外、どうすることもできない。まぁ、出来る事があるとすれば、ラインハルトに後宮を作るように言うくらいか。ティナは、アイツが後宮を作ったら、後宮に入ればいい」


 ジカイラの言葉にティナが驚く。


「後宮って」


 ジカイラが悪びれた素振りも見せずに続ける。


「ラインハルトが愛妾を持つかどうかは判らんがな」


 ティナはジカイラの話『後宮入り』を真剣に考えているようだった。


 ジカイラが諭す。


「今日は疲れただろう。早めに部屋で休むといい」


「ジカさん。ありがとう」


 そう言うと、ティナは自分の部屋に戻って行った。





 ジカイラは、天井を見上げて考える。


(ティナは可愛い系の美人で、愛嬌があって、世話好きで、料理上手で。嫁にしたら良い奥さんになるだろう・・・)


(しかし、そのティナが惚れ込んで、抱いて欲しいという相手が、兄のラインハルトというのがな・・・)


(兄と妹か・・・)

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