第六話 蜥蜴人の襲撃

 宿屋に駆け込み、蜥蜴人リザードマンの襲撃を知らせてきた男は、荒い息でしゃがみ込む。


 ジカイラがしゃがみこんだ男に尋ねる。


「敵はどれくらいの規模だ?」


 男は息も絶え絶えにジカイラに答える。


「わ、判りません」


 ティナがジカイラに聞く。


「ジカさん、どうするつもり!?」


「オレ達も行こう!」


 そう言うとジカイラは、自分達の席の壁に立て掛けてある大盾タワーシールドを取り出す。


 ケニーが苦笑いしながら話す。


「そう言うと思ったよ」


 ジカイラが他のメンバーに告げる。


「自警団なんて、あんな素人集団じゃ、蜥蜴人リザードマンには勝てない! 自警団がやられたら、蜥蜴人リザードマンは、此処にも攻め込んでくる! 先手を打とう!!」


 ヒナもジカイラの意見に同調する。


「街中で混戦になったら厄介よ。 行きましょう!」


 ジカイラ達は武装して、宿屋から大通りへ出る。





 ジカイラ達が大通りへ出ると、街の入口の方で戦闘が始まっており、小走りで戦闘している場所へ向かう。


 蜥蜴人リザードマンと自警団の戦闘は、4:6から3:7の割合で蜥蜴人リザードマン側が優勢であった。


 ジカイラは自警団のリーダーらしき男に話し掛ける。


「あんたが自警団のリーダーか? ここはオレたちに任せて、仲間を下がらせろ!!」


 リーダーの男は怪訝な顔をする。


「なんだ? お前ら?? 冒険者か?」


 ジカイラはリーダーの男を一喝する。


「早くしろ!! 全滅するぞ!!」


 リーダーの男は、ジカイラに気圧され、撤退を命令する。


「・・・判った。 みんな、引け! 撤退だ!!」


 リーダーの男の命令で、自警団はジカイラ達の後ろに下がった。







 自警団の撤退を見届けたジカイラは、自分の後ろにいるヒナに指示する。


「ヒナ! やれ!!」


「任せて!!」


 ヒナが両手を蜥蜴人リザードマン達の集団にかざし、魔法の詠唱を始めると、ヒナの足元に一つ、両手の先に魔法陣が等間隔で4つ現れる。


氷結フロスト暴風・ストーム!!」


 4つの魔法陣から大通りに陣取る蜥蜴人リザードマン達の集団に向けて、一直線に激しい凍気が噴き出し、蜥蜴人リザードマン達の集団を凍らせていき、凍死した蜥蜴人リザードマンが次々と倒れていく。


 自警団のリーダーの男が驚く。


「ま、魔法陣が4つも!?」


 ジカイラは、驚く自警団のリーダーの男を一瞥すると、呟く。


「さて、オレたちの出番だな」


 ジカイラの言葉を合図に、ティナが仲間達に強化魔法を掛ける。


 ジカイラはヒナの前に出ると、斧槍ハルバードを大きく二度、振り回した後、正眼に構えて名乗りを上げる。


「帝国無宿人、ジカイラ推参!!」


 名乗りを上げたジカイラは、腰を落として深く息を吸い込み、貯めの姿勢を取る。


 三体の蜥蜴人リザードマンがジカイラに襲い掛かる。


( いちせん!!)


 ジカイラの渾身の力を込めた斧槍ハルバードの一撃が剛腕から放たれる。


 ジカイラの斧槍ハルバードが一撃で三体の蜥蜴人リザードマンを薙ぎ払う。


 蜥蜴人リザードマン三体のうち、二体は胴体が半分にちぎれて飛ぶ。


 ジカイラの斧槍ハルバードの一撃を見た蜥蜴人リザードマン達が怯む。


 自警団のリーダーの男も驚愕する。


「す、凄い・・・」


 ケニーとルナがジカイラの両脇を走り抜け、蜥蜴人リザードマン達に斬り込む。


 ケニーは、走りながら腰の鞘から愛用の二本のショートソード「ケニー・スペシャル」を抜いて構える。


 ルナは、怯んでいる蜥蜴人リザードマンの胸を剣で貫く。


 ケニーも蜥蜴人リザードマンの喉と顎を剣で下から突き上げて倒す。


 ケニーとルナの戦いぶりを見ていたジカイラも、雄叫びを上げながら蜥蜴人リザードマン達に斬り込む。


「ウォオオオオオ!!」


 ジカイラは、斧槍ハルバードで正面に居た蜥蜴人リザードマンの腹を突き刺すと、そのまま斧槍ハルバードを立てて、蜥蜴人リザードマンを持ち上げ、後ろに投げ捨てる。


 ジカイラ達の攻撃によって、残り少なくなった蜥蜴人リザードマン達は逃げ出した。







 ジカイラは、斧槍ハルバードを肩に担ぎ、傍らのケニーとルナに話し掛ける。


「奴等、引き上げていくぞ」


 ケニーは笑顔で答える。


「勝ったね」


 ルナも笑顔で答える。


「やったぁ!」


 蜥蜴人リザードマン達を蹴散らしたジカイラ達の元へ、自警団のリーダーがやってくる。


「あんたら、凄いな。一体、何者なんだ?」


 ジカイラは咄嗟に作り話をでっち上げる。


「オレ達は、巡礼者の一行さ。あとの処理は、お前ら自警団に任せる。詳しい話は、宿屋で話そう」


 そう言うと、自警団のリーダーの男と共に宿屋へ向かった。








 ジカイラ達は、宿屋の酒場で自警団のリーダーの男から詳しい事情を聞く。


 自警団のリーダーの男によると、二ヶ月ほど前から断続的に蜥蜴人リザードマン達が襲ってくるようになったという。


 ジカイラがリーダーの男に尋ねる。


蜥蜴人リザードマンは、生命を脅かしたり、生息地の集落を侵したりしなければ、人間に敵対することは少ない。何か心当たりがあるんじゃないのか?」


 リーダーの男が答える。


「判らない。我々に心当たりはない」


 ヒナがリーダーの男に尋ねる。


「他の街から助けは来ないの?」


 リーダーの男が答える。


「この街の領主様が、中核都市のデン・ヘルダーに援軍の派遣を依頼したんだが、デン・ヘルダーの領主が『デン・ヘルダーの助けが欲しければ、ツバキ姫を差し出せ』と言って、援軍を渋っているんだ」


 ティナが尋ねる。


「ツバキ姫?」


 リーダーの男が答える。


「そうだ。この街の領主様の息女のツバキ姫様さ。年頃の美人で、帝国の貴族からも縁談が申し込まれるくらいの評判なんだ。良縁なら、この街の領主様も『援軍の対価』として、この話を受けるだろう。しかし、デン・ヘルダーの領主は、既婚者であるうえ、中年の漁色家で悪名高いから、この街の領主様は悩んでいるとのことだ」


 ケニーが両肩を竦めて話す。


「相手が奥さんの居る既婚者で、悪名高い中年の漁色家なら、親は悩むだろうね」


 ルナが皆に尋ねる。


「姫様を人質にするということですか?」


 ジカイラが答える。


「『人質 兼 性奴隷』ってところだ。『助けが欲しければ、愛人にするから娘を差し出せ』ってことさ」


 ジカイラの言葉にティナ、ヒナ、ルナの女の子三人が恥じらいを見せる。


「「『性奴隷』って・・・」」


 リーダーの男が口を開く。


「・・・我々、この街の者は、姫様には幸せになって貰いたい。だから、及ばずながら自分達で自警団を作り、蜥蜴人リザードマン相手に戦っているんだ」


 納得したようにジカイラが答える。


「なるほどなぁ・・・」


 リーダーの男が続ける。 


「さっきの戦いぶりを見たが、あんた達は強い。どうか、この街のために力を貸して貰えないだろうか? 是非、明日、領主様に会って欲しい」


 ジカイラは他のメンバーに話し掛ける。


「乗り掛けた船ってヤツだ。この街の領主に会ってみるか?」


 ヒナが口を開く。


「会ってみましょう。領主からも話を聞いてみる必要があるわね」


 ティナも賛同する。


「どんな領主なのか、会ってみたいわね」


 ケニーもルナも賛同する。


「異議なし。会ってみよう」


 



 ジカイラ達は、自警団の紹介で、明日、デン・ホールンの領主に会うこととなった。

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