第七話 領主の館
--翌朝。
ジカイラ達が朝食を終えた頃、自警団のリーダーの男が宿屋に迎えに来て、リーダーの男の案内でデン・ホールンの領主の城に向かう。
デン・ホールンの領主の城は、辺境の街の領主だけに、豪華なバレンシュテット帝国の貴族の城とは比べるべくも無く、『城』というよりは『小さな砦と館』を一緒にしたような質素な城であった。
アスカニア大陸において、領主とは、『辺境の町や都市を治める者』でしかなく、身分的な序列は、皇帝>>>王>貴族>領主>騎士>平民>賤民の順番になっている。
従って、領主は広大な領地を持つ貴族より身分は低く、皇宮に参内する事も、皇帝に謁見することすら許されていない。
しかし、港湾自治都市群の中核都市の領主のように港湾や交易による収益から、帝国の貴族より裕福な領主も居る。
ジカイラ達は、デン・ホールンの領主の城に入り、謁見の間に通される。
必要最低限の物を揃えただけの、質素な謁見の間に領主は居た。
領主の傍らには、騎士らしき男が控えている。
初老の領主が口を開く。
「よく来てくれた。私がこの街の領主のアイゼンブルクだ。先の
話しを聞いていた傍らの騎士が口を挟む。
「アイゼンブルク様、何も旅の者達の力を借りなくとも、この街が港湾自治都市郡から脱退し、帝国に帰属して保護を求めれば良いのです!」
アイゼンブルクが傍らの騎士を諭す。
「控えよ、ホドラム。旅の御仁達に失礼であろう。この街が港湾自治都市郡を脱退し、帝国に帰属するなら、確かに帝国軍が保護してくれるだろう。当代の皇帝陛下は、『大帝の生まれ変わり』とも言われる聡明な人物と聞く。しかし、帝国は絶対帝政を敷いている。当代の皇帝陛下が聡明でも、次代の皇帝、その次の代の皇帝が暗愚であれば、民が不幸になるだけじゃ。出来れば自治は捨てたくないのだよ」
ホドラムという騎士は、尚も領主のアイゼンブルクに意見する。
「・・・では、ツバキ様を如何されるおつもりですか? 援軍の対価として、デン・ヘルダーの領主に差し出すのですか!?」
アイゼンブルクがホドラムに命令する。
「もうよい! 下がれ! ホドラム!!」
ホドラムは、アイゼンブルクとジカイラ達に一礼して部屋から退出していった。
アイゼンブルクは、ジカイラ達に頭を下げる。
「失礼した。見苦しいところをお見せした」
ジカイラが口を開く。
「・・・大体の事情は判った。ところで、何故、
アイゼンブルクが俯いて答える。
「我々に襲われる心当たりは無いのだ」
ティナが尋ねる。
「そうですか。『力を貸して欲しい』とおっしゃられていましたが、具体的には何を?」
「この街を
ケニーが尋ねる。
「ツバキ様というのは、領主様の御息女ですか?」
「そうだ。紹介しよう」
そう言うとアイゼンブルクは、ツバキを呼ぶ。
呼ばれて奥から現れたのは、上品な年頃の女の子。
ツバキはスカートの端を持って、上品にジカイラ達に挨拶する。
「ツバキです」
ジカイラはツバキを見る。
(美人だが、綺麗というタイプじゃなくて、可愛いタイプだな)
傍らのヒナがジカイラをヒジで小突く。
小突かれたジカイラがヒナに言う。
「妬くなよ。見ただけだろ!」
二人の様子を見た周囲の者達が笑い出す。
口元に手を当てて微笑むツバキが、ジカイラ達に尋ねる。
「失礼ですが、皆さんのお名前を伺っても?」
ジカイラ達も、それぞれ領主とツバキに自己紹介する。
ジカイラが領主達に告げる。
「まぁ、町の防衛の件は判った。自警団と打ち合わせがあるから、今日はこれで失礼して、宿屋に帰るぞ」
アイゼンブルクがジカイラ達に頭を下げて頼む。
「よろしく頼んだぞ」
ジカイラ達は領主の館を後にし、宿屋へ戻った。
宿屋に戻ったジカイラ達は、酒場 兼 食堂で打ち合わせする。
ヒナがジカイラに尋ねる。
「引き受けちゃったけど、大丈夫なの?」
ジカイラは自信満々で答える。
「ああ。
ティナが驚く。
「こっちから乗り込むのね」
「そう。奴等が来るのを待つんじゃなくて、こちらから出向くのさ」
ルナが疑問を口にする。
「
ジカイラが答える。
「そこで、自警団に
「なるほど・・・」
酒場で円卓を囲んでいるジカイラ達に、ローブをすっぽりと被っている一組の男女が近づいてくる。
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