第7回『色』
現代ドラマ/不倫
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あなたは私を色と呼ぶ。
たぶん古風で下品な呼称なのに、私はそれを許している。
初めて耳にしたときには、なんて綺麗な音なんだろうと思った。
色……
いろ……
イロ……
光の波長を目が区別しているだけなのに、色は世界に意味を持たせる。
彼の無味乾燥な余生に、私は彩を添えている。そういうことだと思ってる。
モノクロに褪せていく彼と、七色に輝く私。そうじゃなければ成立しない関係なんだと思ってる。
私もずいぶん古風な人間で、人のことなんかいえやしない。
人のものを欲しがるのは、じゅうぶん下品だものね。
辞書を引いた。
不思議。
学生に戻ったみたい。
嘘。
そんな真面目な生徒じゃなかった。
今のほうが、よっぽど真面目。
いい子だと呼ばれるとたまらない。
悪い子の方がもっといいけど。
色って言葉はもともと、私の思う「カラー」のことじゃなかった。
色は二つに分解できる。「ク」のところが一人で、「巴」のところがもう一人、跪いた人なんだって。
跪いた人の上に人が乗っている。それが男女の情欲を示したという。
だとしたら、私とあなたのどっちが跪いているのでしょうか。
それはともかくとして。
転じてその相手を色と呼び、その人を可愛く思ったり美しく感じたりするから情人を「色」と呼ぶ。
さらに転じて色彩を表すようになったというのだから、もっと不思議。
とりどりに鮮やかな世界を構成しているのは、誰かを恋しく思う気持ちなのかもしれない。
誰かに恋焦がれると、途端に景色が明るく見えるような。
だとしたら、確かに私は色でしょうけれど、あなたは色ではないかもしれない。
色が世界に意味を持たせるのか、色に意味を持たせた世界なのか。
不毛な関係には黒点を打って終わらせたい。そうしないのは、あなたが私という着色装置を手放さないから、ではない。
カラフルに輝いている私を私が好きだから。
誰かの目を通して見える美しい私は、誰かに恋焦がれた途端にモノクロに沈む。
悪癖。
それはどんな色かしら。
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