第6回『トリあえず』
恋愛/コメディ/会話劇
【ぴったりで賞】応募作品/800字ぴったり
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「それと、あと枝豆。とりあえず以上で、お願いしまーす」
「……ねえその『とりあえず』ってやめようよ」
「なんで?」
「なんかちょっとダサいっていうか……」
「でもまだ注文するし、間違ってなくない?」
「間違ってるとか、合ってるとか、そういうことじゃなくて」
「……わかったよ。気を付ける」
「っていうか、私に告白するときも『とりあえず付き合わない?』って言ったじゃん。あれ、ずっと引っかかってんだよね」
「え、あれ? そうだっけ」
「そうだよ。『なんかお互い好きみたいだしさ、とりあえず付き合わない?』って言った」
「そっか、ごめん……」
「そうやって、いつもすぐ謝るけど、結局なにが悪いかわかってないじゃん」
「え……『とりあえず』が良くないんだよね?」
「やっぱわかってない……」
「ごめんごめん! でもわかりませんので教えて下さい……」
「……はぁ。『とりあえず』ってどういう意味よ……」
「え……日本語の副詞で、ほかのことはさしおいて、まず第一に、なにはさておき、何する間もなく、すぐに、などの意味があり、転じて日常的には、間に合わせの、ひとまず、差し当たって、の意味も使われるようになりました」
「くそ……これだから国文科は……。っていうかソレだよ。私、『間に合わせの彼女』なわけ?」
「いやいやいや、『なにはさておき付き合ってみてから考えませんか?』って方だよ。第一印象でお互いバッチリきたのに二人とも一歩踏み出せないでいたから」
「でもそれって『ちょっとタイプかも』とか『きみっていいよね』みたいなことは言い合ったけどちゃんと『好き』って言ってないし言われてない」
「好きだよ! だからとりあえず付き合ってみようって……」
「それでなんでとりあえずになるわけよ」
「だって……そのあとがあるだろ」
「なにそれ……」
「きみと結婚したいなって、思ったから……」
「え……?」
「お待たせしました! 生ビールと枝豆、『とりあえずの若鳥セット』です!」
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