第5回『はなさないで』

現代ドラマ/ギャグ


**


「もう彼女と話さないで・・・・・ほしいんだけど」


 大学の構内で親友が駆け寄ってきたかと思ったら、第一声がそれだった。


 人聞きが悪いので、首根っこを掴んで建物の隅へ。

「ちょっとこっち行こうか」


「知ってんだぞ、お前があいつのこと狙ってんの!」

と、俺の腕を振り解いて、小学校からの幼馴染みは牙を剥く。


「でも俺の彼女だ。昨日だってお前のことで喧嘩になったけど、最後は向こうが『私のこと離さないで・・・・・』って泣きついてきたんだ」

「落ち着けよ」


 あーあ。一体なんでこんな奴と同じ進路になっちゃったんだろ。


 昔から思い詰めやすいタイプだと思ってはいたけれど、彼女ができてからはメンヘラヤンデレ一直線だ。


 ダメ元で、俺は説得を試みる。


「あの子がお前にベタベタしてんのは、お前が都合よくなんでも言うこと聞くからだろ。あれが欲しいとかここに連れてってとか。でもあいつラウンジ嬢だぜ? 客あしらいなんかお手物だよ」


「うー、違う違う」

 腐れ馴染みは両手で抱えた頭を振る。

「ラウンジで働いてるのは学費のためだし、家が大変だから家計の一部を支えてるんだ。本当は嫌だけど、時給がいいからやめられない。そこで働けないならあとはパパ活するしかないって」


「おいおいおいおい、それ全部鵜呑みにしてるのか? パパ活なんかとっくにやってると思うけど」


 冷静に尋ねると、彼はブルブル震え出した。確実に効いている。


「彼女を助けたいんだよな。お前は昔から捨て猫とか拾ってきちゃう優しいところあるから」

と、一応肯定してやるが、

「だけどそういう気持ちを手放さないで・・・・・いると、相手の感情に振り回されて自分を壊すことになる。お前だって薄々気がついてんだろ。認めたくないのは、認めたら世界が壊れそうな気がするからだ。だけど大丈夫。それでも地球は回り続ける。あとごめん。確かに俺はあの子と寝ました」


「てめぇ!」

「そんくらい軽い子でした。すんません」


「ぬあー!」

 叫び声をあげて、哀れな男子学生は壊れた。


「もういい! 俺は全女に復讐する!」

と、とんでもない宣言をした。


 この流れで、なぜ復讐の矛先が全ての女性に向くのかわからないが。


「千人斬りを成し遂げてやる!」

「それは成さないで・・・・・・ください」


 彼女と思い込んで金づるにされていた相手を親友に寝取られたショック療法は、彼にとっては効果があったようで、二週間寝込んで暴れたのち立ち直った。

 よかったよかった。

 

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