第6話 月

「この男を殺すためや」


 彼は即答した。


「自殺は地獄に堕ちる。地獄に堕ちるために、自分を殺した」

「ひ、ひいっ!」


 皇一馬の目から涙が溢れる。


「許してくれ! 月子つきこちゃんのことは悪かった! 魔が差したんや! 殺すつもりはなかった! あの子が警察に行くって言うから、ついカッとなって!」


……そうか。

 皇一馬が強姦して絞殺した女子高生というのは……。


「……月子はなぁ、その名前の通り、真夜中にとって〝光〟やった」


 皇真夜中が血まみれの棍棒を捨てる。ゆっくりと皇一馬に近寄ってくる。


「俺と月子は育ってきた境遇が似とった。すぐに仲良くなったわ。楽しかったなぁ。あいつと一緒におる時間だけが、人間らしく生きれた」


 狂戦士のように暴れていた時の笑みは消えていた。


「おとーちゃんが月子の首を絞めたから、俺は首を吊った。月子の苦しみを知りたかった。あれな、ホンマ辛いわ。なかなか死ねへん。おとーちゃんにこの痛みが分かるか?」

「わ、分かる! 俺、獄卒どもに散々痛ぶらたんや! 毎日反省して、月子ちゃんに謝っとる!」


 嘘だ。

 さっき先輩の拷問を受けている最中、被害者への懺悔など口にしなかったではないか。


 皇真夜中が、はぁと息を吐いた。


「俺は納得出来んかった。お前みたいな奴が死刑やなくて、ただの懲役刑。朝昼晩と飯食わせてもらって、温かい所で寝られて。ふざけんな。俺は警察にお前を取られたことを、死ぬほど後悔したわ。せやから決めたんや。ムショから出てきたら、俺がこの手で


 それやのに、と彼は続ける。


「ムショの中でくたばりやがって。葬式した和尚さんに言われたわ」



〝お前の父は地獄に堕ちた。獄卒と呼ばれる鬼たちが、父を罰してくれる〟



「その時、思った。警察やろうが、鬼やろうが、信用できん。もう誰にも渡したくない。こいつにを与えられるんは、俺だけや」

「真夜中、てめぇは俺を殺すために、死んだのか!?」

「あぁ。お前に会うためにはこうするしかなかったからな」

「なっ……!」


 皇真夜中の目線が、父親から僕へと移る。


「そこの獄卒。教えて欲しいことがあるんやけど」 

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