理想死追求者 第7話 ~帰途~
さて、ここで問題になってくるのが、どれくらいの物資を独民に渡すか・・・いや、それ以前に、俺を警戒しているジョイ=サンの私兵の警戒をどうやって解くか。
それとも、警戒される覚悟で一気に実力を見せて、立場を確立するのもいいかもしれないな。
実力を隠すか、実力を出すか・・・はぁ、難しい二択だなぁ~。
いや、実力を隠す方向でいくか!
え?なんでかって?それはなぁ~、トモエが護身程度の魔法しか使えないからだ。
俺は、強大な魔法と強力な武術である魔闘が扱えるから、敵さんが襲ってきても対処
できるが、トモエが対処できるかと言われれば・・・ちょっと怪しい。
とまあ、方針が決まったのはいいことだが、一体どうやって俺自身を弱く見せるかが
問題だな。
・・・ここは元女神様の知恵を貸してもらうか!
瞬歩も、使い慣れてきたから、走りながらでも会話ぐらいはできる様になった俺は、早速トモエに自分を弱く見せる方法を相談してみた。
「ん~・・・魔闘で体内に纏っている魔力の流れを乱してみたり、自分に弱体化系の魔法を掛けたりしたらいいんじゃない?知らないけど」
と言う返答をいただいた。
確かに、簡単な上すぐに試せる。
流石はトモエだな。
俺も大分長い間魔法について研究してきたが、それは魔法の行使と魔力を高める訓練をしてきたというだけで、実戦形式の使用や、発想力の柔軟性には欠ける。
それに比べて、魔力量と行使できる魔法の数が少ないトモエは、代わりと言っては何だが、発想や実戦形式の魔法についての知識と経験が豊富だ。
なんだ!意外と俺達相性いいのかもな!・・・トモエはそう思っていないだろうけど。
さて、ザウェルの独立民間支部が見えるところまで帰って来た。
俺は試案を巡らせた結果、自らの体内の魔力循環を乱すことにした。
と言うのも、自らに弱体化の魔法を掛ければ、より確実に俺自身を弱く見せることができて、警戒を解くことができると思う。
が、それでは一定時間の間、隙をつくることになってしまう。
俺も、魔闘を習得したことで、魔法を応用しない武術の心得もある。
だが、魔闘とは魔力と一体でその真価を発揮するものだし、そもそも武術で魔法に対抗できないから、魔闘というものが出来たのだ。
まあ、俺一人なら何とかなったかもしれないが、トモエを守らなければ、となってくると前提が大きく変わってくる。
そんな弱体化の魔法に対して、体内の魔力循環を乱すのはまだましだと
言える・・・かな?
それに体内の魔力循環を乱すのは、好きなタイミングでできるから、弱体化の魔法より使い勝手がいい。
だけど、一つだけ大きな問題がある。
下手をすると、寿命が縮むことだ。
まあ、それはいいんだけど、もっと嫌なのがとっても疲れることかな?
疲れが溜まったまま、学校へ行くあのダルさ・・・思い出したくもないだろう?
はぁ、でも背に腹は代えられないからね。
「うんぬ‼」
え?急に何してるのかって?それは今話した通り、体内の魔力循環を乱しているんだよ。
なんかトモエの口から「変な掛け声」とか言う言葉が聞こえて来たけど、聞かなかったことにしよう。
アレですよアレ、くしゃみとか驚いた時の咄嗟の声とか、笑い方とか、いじっちゃ駄目でしょ?
まさかぁ~、善良な一般人の方々がそんなことをしたりはしませんよね?
トモエは人間に堕落した元女神様だからね!仕方ないからね!うん!また教育しておくよ!
「大輝ぃ~、もう十分に乱れてるからいいんじゃないの?」
俺がいじっちゃ駄目なことの云々を説いていると、ダルそうな声と共に肩に重たい何かが圧(の)し掛かる 。
もちろん、俺の肩に図々しくも圧し掛かってくる人物なんてただ一人だ!
と言うか、まだこの世界で知り合いと呼べる人なんていないしな。
「分かったからどいて」
俺はそう言いながら、肩に圧し掛かっている重たい者を押しのける。
「いやぁ~、楽したぃ~」
と言いながら、未だに肩に圧し掛かろうとしている人物を鬱陶しく思いながら、俺は独民に向けて歩き出した。
・・・はぁ、こういう距離感のバグってる女子の被害者は、一体何人ぐらいいるのだろうか。
などと考えながら。
食料品:越冬用の塩漬け干し肉5樽(独民に提出)他、帰途で発見した野生動物の肉も全て独民に提出。
あまり、独民の物資受け取り所に物資を提出しすぎるのもよくないと思って、生活必需品は全てではなくほんの一部だけ、提出した。
報奨金として、金貨8枚(日本円で8万)を貰った。
「お疲れ様でした!独立民間組合へのご協力感謝しています!またのご協力を!」
今日の成果と報酬とを交換した俺達は、受付の人と挨拶を交わしてから、
早速独民の無料共同スペースを脱して、宿を探すことにした。
無料な上、自由に使っていいから、とてもありがたいのだが・・・流石に共同スペースで女の子を寝かせるのは気が引ける。
昨日は金がなくて仕方がなかったが・・・ああ、もちろん、寝ずに見張ってたよ?
トモエに変なことをする奴がいないかをな。
まあ実際は、生活に困窮してる奴らばかりが集まってたから、皆仕事を終えたら泥の様に眠ってたけど。
さて、今日はそんなことを考えなくてもよい!なんせ、8万もあれば宿に泊まれるだろうからな!
「一泊・・・金貨一枚だよ」
愛想の悪い老婆が、飛んでもない額を提示してきた!
ボロ、汚い、愛想悪いの、安宿三点セットが揃っていると言うのに・・・こんな高いなんて何かの詐欺だ!
と言いたいところだが、こんなご時世・・・宿を使う奴は少ない。
需要が低下すれば、自ずと供給も低下していく。
その結果、値段が高騰する。
悪循環じゃないか!はぁ、やっぱり方針変更して、金をがっぽり稼いで、どっかで家を買った方がいい気がしてきた。
拠点なしじゃ、世界を救うこともままならないだろうし。
何よりも、動きづらい・・・。
(しっかりと金貨1枚を支払って泊まりました。)
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