理想死追求者 第4話 ~独立民間組合~

独立民間組合、通称:独民。

ジョイサン大商会の会長、ジョイ=サンが自らの資産で新設した、独自に動くことを許可された民間の組合である‼

治安維持、物資調達、衛生管理、などを半ボランティア状態で行う組合だ。

半ボランティアと聞いて疑問に思った君のために説明しよう!

確かに、自警団として都市の治安を維持したり、外出許可権を発行して組合員に物資を調達してもらったり、その物資を安値で売ったり、死体のお清めから葬儀、公衆トイレの清掃まで、殆ど無償で行っている。

だが、組合員にはしっかりと 『報酬』 がでる。

完全なボランティア、と言うわけではない。

まあ、一番近い組織は 冒険者ギルド かもしれない。

ああ、ついでに、この世界には冒険者ギルドないのよ!びっくりでしょ?

俺も最初は驚いたよ。

さて、色々と説明している内に独民に到着したようだ。


「独立民間組合へようこうそ!ご依頼のご相談なら右のカウンターで!組合員登録なら左のカウンターで行っております!」


扉を開けて真っ先に見えた光景は、元気よく挨拶してくれる組合の事務員と、活気に満ちた組合員達の姿。

内装もかなり清潔感があるし、庶民的で親しみのあるものだ。

さっき見た外装も、平凡ではあったが、清潔感があってこれまた好感が持てた。

そして、カウンターの受付嬢は元気も愛想もいい!

真面目で説明が丁寧で、何を聞いてもめんどくさがらず教えてくれる!

正に完璧な組合‼

と、言いたいが、そんな上手い話があるわけないだろ・・・。

無論、今言ったことは全て事実だ。

だが、彼・彼女らの一番後ろ・・・否、一番上にいる存在がそうではない・

え?!自らの資金で民間人のために組織を作って、慈善活動をしているジョイ=サンのどこが悪い人間なのか?って?いやいや、ちょっと考えてみてくれよ!

商人と言えば、金儲けを第一に考える存在が大半だ。

例外もいるだろうが、基本的には金に貪欲な存在ばかりだ・・・と思う。

これは、ガイド役のネメ・・・トモエから聞いたことなんだが


『ジョイ=サンは一見、ただただ善良な大商会の会長に見えるけど、彼の行いには壮大な意図があるのよ。まず、自らの同業者(ライバル)を消すことよ!このご時世、安値で物資が買える場所があるなら、皆そこで買い物をするわよね?これで表の同業者(ライバル)を全て叩き潰せるわ。そして、彼は自警団や支援会、地球の言葉を借りるならボランティア団体を作っているわ。ボランティア団体は兎も角、自警団は ジョイ=サンの私兵 と呼んでもいいと思う。彼は、自警団の一部の指揮権を有している。その 私兵 を使って、裏の同業者(ライバル)を減らすの。

勿論、彼は法の範囲内でそれを行っているから、告発は出来ないわ。他には、依頼と言う形で組合員達に「闇商人を捕えてくれ!もちろん、報酬はだすぞ!」と言っているわ。そうして、表と裏の同業者(ライバル)を全て排除して この大陸の市場を独占 しようとしている。ふふふ、夢物語の様に聞こえるかもしれないけれど、実際は意外と現実的なことなの。このガエル区は元々彼の島(テリトリー)で対抗組織がない 彼だけの独占市場 だし、避難して来た商人達は、まともな商売道具を持ってない。他の区画は殆ど崩壊していて、ぽつぽつと生存者が集まっている場所が

あるだけ。この市場独占計画を立案した段階で、殆ど完了しているようなもの。

まあ、運と実力が嚙み合った 化け物 ってことね!』


とのこと。

そう、ジョイ=サンの真の目的は裏と表両方の同業者を排除し、

市場を独占すること。

自らが善行を行うのは、民衆の信頼を得ることと、その信頼を盾に同業者や貴族、彼の計画に気が付いた者からの攻撃を防ぐこと。

まあ、彼の慈善活動で助けられた者の数は計り知れない。

奴を支持する人間はいても、批判する人間はいないだろう。

え?なら何故、そんな悪い奴の組織で働こうとしているのかって?

ハハハ、それはもちろん・・・奴の資産を絞りつくすためさ‼‼‼

と言う冗談は措いといて、奴を潰すにしても問題がありすぎる。

さっきも言った通り、奴の慈善活動に救われた人間の数は計り知れないし、

今も助けられている人間が大勢いる。

奴を倒すことは正しいことかもしれないが、それでより多くの犠牲者が生まれてしまったら、元も子もない。

だから、資金を集めて、奴の代わりに 『本当に慈善活動しか行わない組織』 を立ち上げて、それから奴の組織・・・独民を叩き潰す必要がある。

まあ、難しい話はこれくらいにして、そろそろ独民の組合員登録を

済ませちゃおうか!

俺とトモエは左のカウンターに向かって歩き出した。

何かの書類を整理していたであろう受付嬢は、こちらに近づいて来る存在に気が付くと、一旦手を止めて、俺達に対応する準備を整える。


「ようこそ!お二人とも組合員として登録なさいますか?」


元気よく、笑顔でそう言ってくれる受付嬢には申し訳ないが、登録は恐らく俺だけになるだろう。

トモエは神としての権能、つまり戦闘手段を奪われているわけだ。

今のトモエは本当にただの一般人、俺が組合員として働いている内は宿・・・


「ええ、二人とも」


さらっと受付嬢に回答したトモエに、俺は驚きが隠せず、つい「えっ!?」と声を出してしまった。

が、一体どういうことかを聞く前に、受付嬢が登録の手続きについての説明を始めてしまったので、結局、何も聞けず仕舞いのまま、二人 パーティー として登録されてしまった。

その後、組合のルールや組合員専用の無料および有料の施設の紹介などを受け、

日が暮れてしまったので、そのまま組合の無料共同スペースで休むこととなった。

まあ、詳しいことやトモエが組合員になった理由は、明日聞くとしよう。

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