理想死追求者 第3話 ~異世界で~

「大輝、もう大丈夫よ」


聞き覚えのある声に反応して目を開けてみると、そこには石造りの建物と・・・ネメシスがいた。

少々、理解に時間が必要だ。

無事に転生転移できたことはまず上々。

(※転生転移とは:転生は生まれ変わりを意味し、転移は移動を意味する。神界に行った時点で日比谷の肉体は作り変えられている。このことから、日比谷は転生したと言える。しかしその本質、簡単に言えば魂は転移しているだけ。故に、転移でもある。そのため、神界では正確性を重視し、人間が異世界に行くことを、転生転移と言うのだ‼)

だが、一つ理解し難いことがある!

なぜネメシスがここにいるかだ。

と、俺の疑問がそのまま表情に出ていたのか、ネメシスが俺の疑問に答えてくれた。


「神としての権能と責務を放棄して、人間へと堕落したのよ」


さらっとそう言ってのけた彼女はスッキリしたのか、グググと体を伸ばして、気持ちよさそうに笑った。

が、俺は彼女の衝撃的な発言を未だに理解できず、その場に唖然と立ち尽くしていた。

権能と責務を放棄?人間に堕落?情報量が多すぎて処理しきれない。

だが、そんな俺を見た彼女は

「だ・か・ら‼大輝がやりたいことの手助けと、この世界のガイドとして私が付いて行ってあげる」

と、思考を更に放棄せざるを得ない言葉を俺に掛けてきた。

ので、彼女がなぜ神の権能と責務を放棄して、人間へと堕落したかは聞かないことにした。

教えたくないことを無理やり聞き出しても、お互いいいことはなにもない。

さて、ネメシスのことは後でゆっくりと整理するとして、俺にはこの世界で成し遂げたいことがある‼


その1‼この世界を救いたい。

その2‼‼この世界の人々を救いたい。

その3‼‼‼この世界で理想の死に方をする。

その4(急遽追加)⁉ネメシスが一人で生きていける様にする?

まあ、1と2と4とを見事にクリアすると同時に死ぬのが最もいいだろう。

え?なぜそんなに死にたがっているのかって?

それは簡単なことさ!

俺は自分のことを無価値で無意味な存在だと思っている。

そんな俺が、幸福になり周りの人間の役にも立てる方法は何だと思う?

そう!人助けをした後に勝手に死んでいくことだ‼

俺は人助けをしたと言うエゴで幸福になり、周りの人間も助かる。

両者が得して、誰も損しない。

それに、死の瞬間が幸福ならば、人生も幸福だったと思えるだろう?

まあ、終わり良ければ全て良し?!理論だ‼

とまあ、俺の目標の話はこれくらいにして、なんか、横でじっと俺のことを見つめてる人から、情報を聞きだしてみよう‼

ネメシスが堕落して人間になったのは意味不明で理解し難いことだったが、ガイドになってくれることだけは嬉しい想定外だ!

神であった彼女の知識は恐らく俺以上(多分、絶対)。

ので、早速彼女と相談しながら今後の方針を決めていきたいと思う!



まず、俺達がいるのは中央大陸ベルシールの統一国家エルラント・・・の11区画の一画、カイザル公爵の治めるガエル区だ。

エルラントで唯一、区画境(国境みたいなもの)の防衛に成功している場所だ。

だが、周辺区画の難民を受け入れたことと、王室の救出よりも、自らの区画の防衛を優先したことに

よってカイザル公爵の立場は苦しくなった。

難民受け入れによる、治安と食糧問題の悪化、無論衛生環境も悪くなっている、

それに、王室の救出より自らの区画防衛を優先したことによって、区画内の一部貴族の反感を買うことになった。

ついでに、階級別役職表は『公爵:区画長、侯爵:地区長、伯爵:主要都市の領主、子爵・男爵:都市の領主』こんな感じ。

もっと詳しく説明することも可能だが、時間が掛かりそうなので今はこれくらいにしておこう。

さて、理想の死を遂げるためにこの世界を救うわけだが・・・どうするべきか。

独自に動くか、それともカイザル公爵に仕えるか、王室救出して自らが王となって新国家を樹立するか、どれがいいだろうか。

・・・否、一つに絞ることはない!

アレだよアレ、スパイとか諜報員とか、マフィアとかも!複数の顔を持ってたりするだろう?

近所のただのおっさんかと思ってたら、実はスパイだったとかさ!

だから、俺もそれに習おうと思う‼

だが、残念ながら俺はポーカーフェイスが苦手だ!

まあ、顔を隠せば問題ないか。

仮面を被った英雄、とかカッコよくね?

と、色々な考えが浮かんでは消えるが・・・今俺達が直面している問題から解決しようと思っている。

そう、金だ。

何をするにも金が要る。

が、こんなご時世だから簡単に稼ぐことは出来ない。

とでも言うと思ったか‼

実は簡単に稼げる方法があるんですよ!

少々説明が長くなりそうなので、目的地に向かいながら説明しよう!


「ネメシス、独民に行くぞ!」


急に何を言っているの?と聞かれると思ったが、彼女は意外とノリが良く

「おー!」

と腕を掲げながら言ってくれた。

なんか、ますますネメシスのことが分からなくなってきたゾ。

俺がそんなことを考えながら、歩き出すと、何故か後ろから服の袖を掴まれて、呼び止められた。

「ちょっといいかしら?」

彼女はそう言いながら、俺を引き留めた理由を説明してくれた。

簡単に言うと、名前を付けて欲しい・・・らしい。

理由は、ネメシス神はこの世界でも神として知られていて、流石にネメシスと名乗るのはまずいのと、神の権能と責務を放棄

して人間に堕落した時点で、彼女はネメシス神ではなく、一般人女性になっているから、とのこと。

んんんん、理由は納得できるが・・・俺はあまり名づけが得意ではないのだが。

・・・ジャンヌ・ダルク、ナイチンゲール、樋口一葉、アンネ・フランク、静御前、

アン・サリヴァン、ヘレン・ケラー、井伊直虎、メアリ・リード、巴御前・・・トモエでいっか。

とりあえず、有名人の名前を幾つか上げてみたが、しっくりと来るのが(俺個人の感想)、トモエな気がする。

ウン、タブン、ゼッタイ、ソウダ。


「トモエ、と言う名前はどうだ?」


俺の考えた名前を、彼女は気に入ってくれたようで

「これからトモエと名乗る」

と嬉しそうに言ってくれた。

さて、ネメシスの新たな名前が決まったところで、そろそろ話を戻すとしよう。

無論、独民に向かいながら。

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