理想死追求者 第2話 ~転生転移

100年後


「まだいたのね」


急に背後から話しかけられ、俺は「おわっ」と変な声で驚いてしまった。

急いで振り返ってみると見覚えのある顔が、視界に入ってくる。


「しばらくぶりですね」


俺が見覚えのある顔、ネメシスに挨拶をすると

彼女は、変人を見る様な目でこっちを見てきた。

俺が、何故そんな目で見るのかと疑問に思っていると、彼女から予想もしなかった言葉が飛び出す。


「貴方、100年もここで魔法について研究してたの?」


ちょっと何言ってるかワカラナイ。

100年?そんなに俺はこの空間に閉じこもっていたのか?

この空間、周りの景色が変化しないんだよ!

体育館みたいな、と言うか体育館の中にずっと閉じ込められてるんだよ!

しかも、ずっと日が昇ったままだから時間が過ぎているかどうかすらわからない。

え?時計はって?あるよ?でも、時間を表示してくれるだけで、日数なんて表示してくれない。

それに、時間を計らないといけない実験以外で使わないから、時計自体そんなに頻繁に見るわけではない。

ぶつぶつと独り言を言っている俺に呆れた彼女は、そそくさとこの場を離れていった。

その後、100年経つごとに彼女が俺のもとへ来るようになり、それが俺の時間の指標となった。

進捗があったのは、彼女の5回目の来訪の少し前。

魔法の原理を完全に理解することが出来た。

ついでに、彼女はドン引きしていた。

500年も修行を続けたのは、俺で3人目らしいが・・・彼女が担当した人間の中では初めてらしい。

魔法の原理を理解した俺は、魔法の行使の修行を行うことにした。

しかし、魔法の探求は無限にできることが分かったので、最低の目標ラインを決め、それらをクリアしたら次の段階に進むことにした。

魔法は、魔力総量250万(俺の行く世界の平均値3万、英雄でも24万程度)を目標とし、修行する。

流石に高すぎるって?否、まったくそんなことはないゾ!

俺は魔法の原理を理解し、魔法を創造できる段階までやってきた。

が、それも魔力が大量になければ実現しない。

本当なら、最低500万程度は欲しいのだが、魔力総量は数値が高くなればなるほど、増えにくくなる。

修行の時間がとんでもない年数になるのを抑えるために、最低値の半分である250万で我慢することにしたのだ!

これで、俺がかなり譲歩したことを理解してもらえるだろうか?

そして、彼女が19回目の来訪を終えてから暫くした後、目標の250万に到達することに成功した。

ついでに、俺は完全に神界で変人扱いされているらしい。

なんせ、今までの歴代最長修行年数は2300年、次は1700年。

つまり、俺は歴代で二番目に長い修行期間を経ているのだ。

では、そろそろ異世界に行こうか・・・とはなりません。

俺が今までの修行で身に着けたモノは、知識と『外魔力』だ。

外魔力は、外部の物質に影響を与える魔力であり、肉体の強化や自身に影響を与えるモノではない。

ので、皆さんお察しの通り、次は『内魔力』を鍛えまぁ~す!

ここで、俺が主に鍛えようと思うのは、魔力を応用した武術『魔闘』である‼

内魔力を応用し、肉体の強化や肉体の再生の力の向上、極めれば魔力の循環により、睡眠を不要とすることができる。

ので、目標は魔闘を極め、睡眠を不要にする肉体を作る‼こと‼‼

彼女の27回目の訪問と同時に、魔闘の奥義に到達し、睡眠を不要とする肉体になった・・・。

この時、俺は神界でそれなりの有名人となり、『神界奇人特集の一面を飾った』ということは言うまでもないだろう‼

ネメシスともそれなりに仲良くなったし、新たに仲が良くなった神様もいる。

魔法を司る神、エンキだ。あと、闘神?守護神?阿修羅(あしゅら)とも仲良く?なった。

それはさて措き、いよいよ異世界にレッツゴー‼・・・とはなりません!

常識や言語と言った、基本情報と個人的に興味のある、その世界の歴史をまだ習得できていないのでね。

そして・・・彼女の30回目の来訪と同時に、俺の修行と学習は完了した。


「貴方・・・狂ってるのか、サイコパスなのか、なんにせよまともな人間ではないわね」


俺に対してそう言う彼女は、どこか寂しそうだった。

だが、それは俺も同じこと。

この神界で最も長い付き合いの相手と、別れることになるのだから。

この寂しい空間に、何千年も居続けられたのは、彼女の存在あってこそだ。

が、神界には俺達転生転移者に定められていることがある。

修行が終わったその時、神界から即座に出ていくことだ。

神界は何でもある。

が、天国ではない。

神々が住まう地だ・・・人間は住めない。

もし、この定めを破れば、魂ごと消滅させられてしまう。

さて、色々思うことがあるが、そろそろ行かないとな。

俺は俯いている彼女に「ありがとう」と一言言って、異世界に行くことにした。

何千年と過ごしたこの空間の最奥、そこに異世界へ行くための扉がある。

そこを潜(くぐ)り抜ければ、二度とこの神界に戻ってくることはできない。

だから、迷いが生まれない内に、俺はこの扉を抜けなければならないのだ。

俺は扉の前に立って、深呼吸をしてからドアノブに手を掛けた。

そして、思いっきり勢いよく扉を開けた。

と同時に、後ろから誰かに触れられる感覚と、前方に引き寄せられる不思議な感覚に包まれ・・・意識が飛んだ。

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