ガラスを灯る
白雪
序章 最前線を生きるあなたへ
この世界、境界線。
間には大きな壁があって、向こう側に行くことは出来ない。
私とあなたは、大きな壁を挟んだ、違う世界に生きている。
私の生きる世界は、至って平凡な世界。
季節は巡り、人間が、動物が、植物が生きている。
青空の下、笑う子供の声が聞こえる。
あなたの生きる世界は、この世界とはまるで真反対。
季節は暖かくも寒くもない。春のような、秋のような、そんな感じ。
人間は指折りで数えられるくらいしか存在しない。
動物はいない。植物も生えていない。
代わりにあるのは、ふわふわに乾いた地面と、人間そっくりの人間じゃないナニカ。
本で読んだ。
あなたが壁の向こうに消えた日から、図書館に通い詰めて。
やっと見つけた本に、題名はなかった。筆者は不明。
聞けば、この本が忽然と、図書館のポストに投函されていたらしい。
よほど読まれていなかったのだろう。
本を借りようとカウンターに持っていった時、カウンターのおばさんに驚かれた。
そして笑顔で、「勉強熱心ね」なんて声をかけられたんだもん。
でもおばさんは、何故か悲しげな顔をしていた。
苦笑いのようにも見えた。
私も彼も、繊細な人間だった。
傷付きやすく、壊れやすかった。
例えるなら、ガラス。
そんな、昔の話をしよう。
まだ、私とあなたの間に、壁ができる前の話。
―――好きでいていいですか。
私を強く抱きしめたあなたの顔、匂いを忘れてしまう前の話。
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