第7話 エドワルドと話す・祖父のこと

 ソフィーにしつこく聞いて、ソフィーの話をしないからと約束をして、ようやく僕らはエドワルドの連絡先を手に入れた。エドワルドに連絡を入れると、案外あっさりと「俺のワールドに来るならいいけど」と返事をくれた。


 僕は福を連れてエドワルドのワールドにワープした。着いた先は真っ白で、僕の部屋とは真逆の明るい空間だった。


 壁と床の区別が付かないくらい陰のない平面のような部屋に、白いソファーとガラスのテーブルが置いてあった。窓は書き割りのように見え、青空が覗き見える。


「ようこそ」


 エドワルドはラフな黒いパーカーを着てかっちりとしたソファーの真ん中に座っていた。いつもの薄笑いを浮かべている。


「アランとちゃんと話すのは初めてかもな。その友達は誰?」


 僕が言いよどむと、福が自ら自己紹介をした。


「遊部福と言います。探偵をやっております」


 微笑んだ声だ。エドワルドはケラケラと笑った。


「本当だ。ソフィーの言ったとおり、アランの友達は変わってる」


 ムッとしていると、エドワルドは立ち上がって僕らに近づいてきた。


「何の用? 目的は何だ? 何で嗅ぎ回ってるんだ?」

「私は知りたいんです」


 福は答える。エドワルドがふん、と鼻を鳴らして「何を?」と問う。


「酒上さんが、何の用でソフィーさんに近づくのか、目的は何か」


 おい、と僕は福に小さく言う。それはソフィーとの約束違反だ。エドワルドが魅惑的に笑う。この顔を見せたら女の子たちはイチコロだろう。


「そりゃあ彼女が魅力的だからさ」

「……ソフィーはあんたの姪だけど」


 僕は思わず口を挟む。エドワルドの笑みが深まる。


「俺とあんたのじいさんの吟は、他人みたいなもんだ。俺もあいつも互いに無関心。そんなやつの孫なんだから俺にとっては他人と一緒だ」


 ピリピリと、エドワルドの表情に緊張が走っていた。エドワルドは、怒っている? 僕に? ……祖父に?


「違いますね。あなたは無関心なんかじゃない」


 福がいつもの落ち着いた声で言った。


「憎んでるんだ……、あなたの父親を」


 エドワルドの表情が突然弛緩しかんした。


「憎んじゃ悪いか?」

「いいえ。そんな親子関係もあるでしょう」


 エドワルドは嘲笑するように笑った。


「そんな親子関係、ねえ。俺の母親はあいつに蹴られたせいで背骨を折って、未だに体が曲がってる。それでも何度もあいつにすがって、大学と留学の資金を出させて、ついに俺の認知もさせた。

 俺は、あいつから無関心しか浴びてない。それがよくある親子関係のように言われるのも複雑なもんだね」


 僕は絶句し、エドワルドを見つめていた。その視線を鬱陶うっとうしいかのように手を振ると、


「幸せな家庭に育ったお坊ちゃんは驚いてろよ。あんたのじいさんは、悪魔だ」

「……だからソフィーに近づいたのかい?」


 僕の言葉に、エドワルドはケラケラと笑った。


「ソフィーは魅力的だよ。じいさんのかわいい孫だもんな。俺に溺れさせて人間関係を破壊してやるのも面白いじゃないか?」

「それはあんまりだ。ソフィーが可哀想じゃないか」

「じいさんが大事にしてる、破壊したくない良好な関係の親族をめちゃめちゃにしたら、俺は胸がすくけどね」


 僕はエドワルドをにらみつける。エドワルドは薄笑いを浮かべ、僕をまじまじと見つめる。


「今言ったことをアランに言ってやりたかった。そういうことでしょう?」


 福が言った。エドワルドが真顔になる。福はさらに続ける。


「一族で最も後継者として期待されている、大事にされているアランに嫌な思いをさせてやりたい。嫌いで仕方がない。そういうことですよね」


 エドワルドはにやりと笑った。おそらく、福の言ったとおりだということだ。


「WCWRのこともご存じですよね。何をしようとしているか」


 エドワルドは虚を突かれたような顔をする。それからまた笑う。


「WCWRが、今度はじいさんの企業を徹底的に破壊することを願うよ」


 もうたくさんだ。僕は福を連れてエドワルドのワールドから出て行った。


 ああ、あのにやついた顔が頭にこびりついて取れなくなってしまった。本当に嫌なやつだ。

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