第6話 透也と話す・WCWR
耳をつんざくような歓声が響く。サッカースタジアムで選手たちがボールを追い求めて駆け回る。力強い走りだが、動きが何となく不自然だ。いや、動作自体は自然なのだが、急な方向転換や人間ではあり得ない素早すぎる動きをしたりして、これらがゲームのキャラクターであることがわかる。
キャラクターたちは何人か僕でも知っている人物を模している。これらは現実のサッカー選手の3Dモデルを元に作られたAIたちなのだ。所属しているチームや国籍がバラバラなのだが、奇妙なことに相手チームにこちら側と同じ人物がいたりする。このゲームは選手を自由に選べるのだ。
ミュージシャンの楽器やアンプ、ペダルつきのライブ用ツールを思わせる要塞のようなコントローラーを操る透也は、いつものおどおどとした態度はどこへやら、大声を上げ、選手を罵倒し、相手チームを操っているらしいオンラインの対戦相手を罵倒し、勝つとこちらが驚くような割れそうなだみ声で勝利を叫んだ。
ゴールポストの近くでも記者席でも観客席でも好きな場所で操作できるらしいこのゲームで、透也はいくつかのカメラ映像を周りに表示しつつ、自分のチームが攻撃するゴールポストの横に近い観客席でゲームをしている。周りの観客の機械的な歓声とヤジが気持ち悪い。透也は気にせずプレイしている。
やっとゲームセットし、勝った透也は満足げな顔で僕たちを振り向いた。
「今のゲーム見た? 僕のチーム最強だよね」
そりゃあ金をかけて身体能力の高い選手を集めてるからね、とは言わず、僕は乾いた笑い声を上げた。
「ゲームが好きなんだね。ここまでハマってるとは思わなかった」
透也は僕を見て、にっこり笑う。
「アランがくれたんじゃないか、このコンタクトレンズ!」
ぎくりとする。何となく自覚はしていたが、透也がここまで仮想空間にハマってしまったのは僕がコンタクトレンズをあげたせいらしい。
「仮想空間では僕は最強なんだ。普段みたいに怯えたり、生々しい現実の空気を吸わずに済む。アランのお陰だよ」
透也はにこっと笑って自分のチームが撤収していくのを見つめている。
「で、何の用?」
透也は僕を見る。僕は透也から蝙蝠姿の福に目を移す。
「伊藤さん、私はアランさんの友人でして、探偵の、遊部福と申します」
福が微笑んだらしい声を出す。僕は静かに成り行きを見守っている。透也は急に表情をなくした。
「探偵……」
「透也さん、最近困ったことがおありじゃないですか?」
福が親身になったような声で聞く。思いがけない言葉に、僕は目を見張る。透也は僕の表情に気づいていないらしい。
「大叔母さんが余計なことを言ったのかなあ? 僕は何にも困ってないですよ」
声は明らかに困惑していた。
「近頃私が知る界隈では、WCWRのトカゲの尻尾が、日本にやってきたようですよ」
WCWR? あの日本を攻撃した? また復活しようとしているのだろうか。でも、どうして透也に?
「WCWRが……? それは困りましたね……」
透也は明らかに動揺している。まさか、こいつWCWRに関係しているのか?
「そう、力を持った企業の関係者に近づいてきてるんです。お気をつけください。困ったときは私に連絡を」
福は自分の連絡先を空中に残すと、僕を呼んでそこを去った。透也は険しい顔で佇んだままだった。
僕のワールドに戻ってくると、僕は早速福に聞いた。
「WCWRのこと、どうして知ってるんだい? それに透也にどういう関係が?」
福は黙ってから、ぱたぱたと飛び始めた。
「俺の世界ではその話題で持ちきりだ。もう一度WCWRが日本で何かを起こすと。俺のところには『いい話』として舞い込んできた」
「いい話?」
「そいつらは金持ちの坊ちゃんや嬢ちゃんに声をかけ、自分たちの思想に染めて資金を提供させようとしてる。俺のボスはそれに一枚噛みたいらしい。透也もそれに関係してそうだと思ってな。気が弱く、友人も少なそうな若者その一ってところだ」
恐ろしいことだ。あの戦争の悲劇がまた引き起こされるのか?
「でも、阻止しないといけないだろ? そんな一枚噛むなんてそんなことをしてたら一般市民は……」
「ボスにはそんなこと関係ない」
珍しく、福は吐き捨てるように言った。
「やるというからにはやるんだろう。俺も関わることになりそうだ」
僕は絶望的な気分で福を見る。福は逆さまになって鏡の前の止まり木にぶら下がっている。
「ひどいじゃないか。戦争で孤児になった君にWCWRに利するようなことをさせるなんて」
「抜け出せない組織にいる。仕方がないだろう。……ここいらでやめよう。俺の家は壁が薄いから」
僕は
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