第7話 そっくりな男たち
「では、この角質除去パックの使用方法をお伝えします。顔を洗ったあと、クリーム状のパックを目の周囲を避けて丁寧に塗り込みます。それから三十秒ほどして、優しく拭き取るんです。
ほら、見てください、この肌の輝き。角質が適度に拭い落とされ、角栓も溶けたために皮膚が引き締まっているでしょう……」
ぼんやりと美容動画を眺める。僕は若いし見た目にもそれなりに気を使っているが、画面上に映る角谷メロウのような光った肌はしていないし、うっすら化粧をしたりもしない。
角谷は美形と言えば美形だが、人工的な不自然さのある美しさをしている。体つきは中肉中背のようだが、顔立ちははっきりしていて整い、明るい笑顔と色気でかなりもてそうだ。男たちからいけ好かないと言われるのも何となくわかる。
この男が少年たちを何人も誘拐? 目的にもよるが、わかるようなわからないような。
「アラン、福が今回の事件のことで話したいらしいよ」
ダリルが映画を観るのをやめて僕に声をかける。椅子から見上げると福が煙草をふかして考え事をしていた。
「この男がどうして家に子供たちを集めてるのか、よくわからないね。小児性愛者には見えないが」
「角谷は滅多に街を出歩かない。だから行動についてはよくわからないし、家にあるスタジオで動画を撮って、スポンサー料で暮らしていることくらいしかはっきりしていない」
福が無表情に言う。
「恋人らしい人物がいるんじゃないかと調べてみたが、八幡沈香が出入りしている程度で、こいつは恋人ではなさそうだな。八幡は撮影のアドバイザーをやっているようだ。動画のクレジットによく載ってる」
動画を早送りすると、確かに最後に撮影・編集として八幡の名前が載っていた。
「経歴は、化粧品会社で研究職として勤務後、今のようになった。美容専門家として有名になったのは最近で、過去の写真などは一切出てこない。
年齢が二十五歳、広告用のスクリーンにモデルとして映されたり、動画でスポンサー料を得たりと、収益はかなり上げているようだが……」
「八幡は?」
「八幡は明らかだ。年齢は三十歳。イベンターとして派手な暮らしをする住所不定者として知られていた。以前はかなり美形で鳴らしていたらしい。今は何だか痩せこけて、骸骨のようだが」
若いころの八幡の写真を見る。やんちゃな表情とポーズを取って写っている。色黒の、長い髪を奇妙な形に結った不良青年といった感じだ。あれがあの陰気な
「橘は?」
いつの間にか風邪っぴきのハチが店に降りてきていた。鼻水を垂らしながら、僕の持ってきた瓶詰めの高級プリンを食べている。
「ハチ、寝てなよ」
ダリルが心配そうに言う。ハチは「平気だよ」と椅子に座る。僕のプリンがよほどお気に召したらしい。箱の中にある二個目に手を伸ばしている。
「橘は角谷の家の周りをよくうろついてる。角谷と交流もしているようだ。言い合いを近所の人間が聞いてる。仲は悪そうだな」
福が説明すると、ハチが、ふうん、と考え込んだ。
「この間さ、八幡が俺に寄付したじゃん? あれでゲームソフトダウンロードしたんだ。たくさん買えた。で、次の日も八幡が来たからまたお金もらえる! と思って顔を上げたら実は橘で、名刺データしかくれなかったからかなりがっかりしたよ。あいつ嫌い」
ハチは鼻声で説明し、そのあと思い切りくしゃみをした。
福が考え込む。僕も、あることに気づいた。
「八幡って、中肉中背だったな。痩せてはいたけど大きめの服を着ていて、体つきについては痩せ方が響いてなかった」
「橘も中肉中背だ。スーツを着ていて体型がよくわかる服装。写真を見てみよう」
福が僕のポータブルスクリーンを広げ、橘の記事から全身映っているものを探し出す。顔を隠すと……。
「うん、橘と八幡は体型が似てるな」
福がうなずく。僕は何気なくポータブルスクリーンに手を置いた。すると、もう一つ、記事が動き出した。
角谷メロウの美容動画だった。角谷の動画は最初から再生され、リラックス系の音楽と共に彼の全身が映し出される。
「ん?」
動画を止める。四角い顔の橘と、不自然に白い顔の角谷が並ぶ。
「そっくりだ……」
福がつぶやく。
角谷メロウと橘立志は同じ体型だった。つまり、角谷、橘、八幡は三人とも似たような体型だということになる。つまり……。
「角谷メロウの画像で、美容マスクをつけているものを見せてくれ」
福が言う。僕は言われるままに写真を呼び出す。角谷メロウが周辺の住人に撮られた写真だ。マスクは白くてつるっとした不透明なもので、目元ですらも網状の窓になっていて顔が確認できない。
「これでわかったことがある」
福が煙草をふかした。
「このマスクをつければ、角谷か橘か八幡か、はっきりしないまま犯行に及べるということだ」
「この三人の誰でも犯行が可能ってことか」
僕が
「次は動機を探ってみよう。話はそれからだ」
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