22 INTRIGUE'S END:計略の果てにて息吹く者 ①
──女神に唆されてとはいえ、新たな生を得て。
平穏な暮らしの中でなら
魔法を学び、歴史を学び、経済を学び……
実際に、フィリデイ辺境伯領では
……だが結局は、あのザマだ。
『リンカーネイト:オーバーライド』。
アザレアさんを助けた時だってそうだ。
あの時
実際に、
そして何より救えないのは、
抗おうとして行動指針を日和見に捻じ曲げたところで、それは変わらない。最終的に、
……デーアが『人間力が足りていない』となじるのも、無理はないのかもしれないな。だって、結局、外道の選択肢を選ぶのは変わりないのだ。無駄に抗うだけ抗って善性をアピールするだけの回り道。
つまるところ、結局
「何も変わってないな……」
「……アルマ?」
『決闘』騒動から一時間後。
パトヴァシア派閥との最終調整を待っている間のことだった。
思わずぼやいた言葉に、横にいたフラムジア殿下が首を傾げる。
……おっと、思わず口を突いて出ていたらしい。
「浮かない顏ですわね、アルマ。何か懸念事項でも?」
「いえ、何でもありません殿下。ごく個人的な話です」
見るだけで罪悪感をかき立てる王族の処世術とは違う、演技くささのない表情だ。
「……アルマ。アナタとは
「…………」
唐突に、フラムジア殿下はそんなことを話し始めた。そっ、と
まぁ、
フラムジア殿下、なんか距離の詰め方がぎこちない上にちょっと強引だもんな。打算で関係を回すのは得意でも、プライベートの関係をどうこうするのは苦手。そういうタイプなのだろう。
普段と違って、個人的な距離を詰めようとしている時の殿下は分かりやすいから、却って打算が感じられなくて心地よくはある。これすら
「アナタとはまだ付き合いが浅いですが、それでもアナタが何かを一人で抱え込んでいることくらいはわたくしも分かります。その年齢で、九一二点もの
「……まぁ、そうですね」
特に、此処を否定したりはしない。
そんなことは最初の最初からバレていることなのだし、だからこそ
「あの時に言ったことを、覚えていますか?」
「……?」
問いかけられて、
言われた内容は覚えているが……此処で言われている文脈が分からない。あの時に言われた台詞のうち、何が今の文脈に繋がっているんだ?
「わたくしは、確かにアナタの
ああ、そうだ。
その野望は、
「しかし同時に、アナタのような手合いを味方に引き入れる為には、自分も身を切る覚悟が必要だとも言いました」
「…………ええ」
確かに、そう言っていたっけ。
勧誘を蹴った
確かに実際、フラムジア殿下の身を切った『婚約』は
「アレは、『婚約』のことだけを言っていた訳ではありませんわ。もしもアナタが何かを抱え込んでいるのなら、それも含めて共に分かち合う。それだけの覚悟なくして、どうしてアナタの力を借りられるでしょうか」
「…………」
「……そうは言っても、今はまだ、アナタにわたくしのことを信頼させるだけの実績がわたくしにはありませんけどね。だから、今すぐに重荷を寄越せとは言いません。これは、決意表明のようなものだと思ってくださいまし」
そう言って、フラムジア殿下はさらに笑みを深める。
ただそれは、優し気というにはあまりにも挑戦的で──
「いずれ必ず、そう遠くないうちに。アナタにわたくしのことを認めさせ、その重荷を明け渡させてみせますわ。わたくしを誰だと思っておりますの!」
『婚約宣言』よりも情熱的な宣戦布告に、
……別に何かが解決するような話ではないが。
それでも不思議と、さっきまでの鬱屈とした気分は大分改善されたような気がした。
「……分かりました。そのつもりで待っていますね、フランさん」
だから
直後、フランさんの表情がぱあっと明るくなる。
「デレましたわね!? 今、アルマがデレましたわ!」
「だぁー!! 騒がないでください! 照れますから!」
っていうかこの世界、なんでデレるなんて語彙が王族にまで浸透しているんだよ!?
リンカーネイトのイメージソースの話もそうだけど、いくらなんでも地球の文化が入り混じりすぎじゃない!?
◆ ◆ ◆
──そんなわけで、パトヴァシア派閥との『決闘』から一時間半後。
フランさん率いる『王女派閥』は、パトヴァシア派閥と一旦合流して今後の動き方について詰めていた。
「…………えと、このたびは、本当にご迷惑をおかけして……申し訳ありませんでした」
パトヴァシア派閥を代表して、リーダーのパトヴァシアがそう言って頭を下げる。
結局『決闘』には
そういう訳なので、パトヴァシアが
「頭をお上げなさい、パトヴァシア」
そして、パトヴァシアの謝罪を受けて、フランさんがそれに応じる。
肩にぽんと手を置いたフランさんは優し気な笑みを向けて、
「よくよく話の流れを追ってみれば、アナタも被害者ではありませんの。今回の件は、アナタを陥れる情報戦の側面もありました。……『外交勢力』が、アナタがたを欺瞞情報で欺いて我々と衝突させたのですから」
「ありがとうございます、殿下!」
「おほほ、今更畏まらなくてもよろしくてよ。わたくしとアナタは最早盟友。共にこの陰謀に立ち向かいましょう」
「……! ああ!! お願いするだろ!」
互いに言葉を掛け合い、そして固く握手を交わす。
過去のしがらみをものともしない、麗しい和解の光景だ。
──此処までが、事前に取り決めていた話の流れである。
いや、情緒的な動きが一切ないというわけでもなく、実際に事前の打ち合わせの段階ではこれと似たような光景が実際に繰り広げられていた訳だが──結局のところ、
その為には、パトヴァシア派閥を『王女派閥』の傘下に置いて、連携しながら事に当たっていかなくてはならない。ただ、トップでその危機感が共有されていたからといって、ヒラの派閥構成員にまでその温度感が伝わるかといえば、いくら派閥構成員がトップに忠誠を誓っていたとしても難しいだろう。
だからこそ。
「──皆様、聞きましたわね。我が派閥の構成員も、パトヴァシアの構成員も! 今この時より、我々は一蓮托生です!」
「まずは私達を陥れようとしたこの陰謀! それを打開するのが先決だろ! そしてその後も、私達はフラムジア殿下……そして賢明で勇敢なその婚約者殿が率いる『派閥』と協調していく! いいな!」
わっ! と。
両派閥の構成員が、一斉に歓声を上げる。当初は敵対していた二つの派閥だが、ツートップの宣言によって構成員たちが抱えているわだかまりは(少なくとも表面上は)解消できたようだ。
……その一因に
さて。
本番は此処からだ。
次は、
陰謀の糸を手繰り寄せて──暗がりでニヤニヤ笑いをしている悪党に、目にもの見せてやりますか。
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