19 STAKE INERTIA:望まれない才能 ⑤
バサササ!!!! と。
林の中から、巨大な鳥が羽ばたく音が暫しの間連続した。
さて、ここからどうするか。
敵リンカーネイトに林の中で準備を整えられるのが困るというのなら、林に火をつけるというのも作戦としてはある。
だが……流石に、それはやりすぎじゃないか? と思う部分もある。
林に油を回して着火すれば、確かに敵は準備どころではなくなるだろう。上手くすれば大ダメージを与えることだってできるかもしれない。
ただ、流石に『学園』内の自然を区画ごと丸々焼き尽くすのは、やりすぎじゃないだろうか? いくら『決闘』による勝敗が紛争の解決手段として扱われるのが当たり前となって久しい『学園』といっても、限度というものがあるんじゃないか?
「ご主人様、火とか放たなくていいんです? あれ」
と、懊悩する
…………やめてくれよ。
「そんなはた迷惑なことして、『学園』に目をつけられても困るでしょ」
「……良い感じだったんですけど、まだまだ人間力が足りてませんねえ……」
「何でさ! 勝ったところで立場が悪くなったら本末転倒じゃん!」
「と言ってもですねえ、多分、相手は──」
デーアがそこまで言いかけた瞬間、だった。
「──そんなこと、気にしていないと思いますよ?」
地面が、揺れた。
──ちなみにだが、この世界では地震というものが殆どない。
正確には、アンガリア王国のある地域にプレートの境界がない……というべきかもしれないが、とにかく歴史を紐解いても地震が起きたことが全くない。
その割には家屋の様式はばりばりに耐震性を考慮した感じになっているのがけっこう謎なのだが、これはおそらく魔獣対策だろう。
何が言いたいかと言うと……地面が揺れたとき、
そしてそれから、すぐに思い直す。
この国で地震はありえない。ということは──必然、リンカーネイト能力だ!!
「フフフ、あははははは!!」
パトヴァシアの高笑いと共に、目の前で広がる光景は──
ゴゴゴ、と。
何か巨大な生物が呻き声をあげるかのような音を立てながら、目の前で林が土地ごと浮かび上がっている。
それは例えるならば、浮遊大陸──のミニチュア。
サイズにしたら学校の教室三個分くらいを横に並べたくらいの規模の林がぱらぱらと土を零しながらゆっくり浮かび上がっていく。
まさにファンタジーと言わんばかりの幻想的な風景だが──当然、この世界にこんな自然現象は存在しない。これは一から十まで、リンカーネイト能力による現象だ。
なす術もなく浮遊する林を見上げるしかない
「判断が遅かったなぁ、一年坊!! お前はこうなる前にリスクを無視してでも林の中に突っ込んで
「…………、いや、『学園』内の自然を、破壊、とか……そういうの……………………」
……いや違うよね?
…………なんていうか。
「…………さ、最悪だ…………」
「あはははは☆☆ これも勉強ですよお、ご主人様☆」
くそあほしね。
……フゥー……。落ち着け。自分の手駒に煽られて冷静さを失っていては話にならない。落ち着いて、目の前の状況をきちんと把握していくんだ。
まず、あれは……地面を浮遊させる能力?
準備に時間がかかったということは、おそらく単発ではあそこまで大規模な能力発動はできないのだろう。いったい……いや! 違う、原理の推測は後だ。まずは、『土地が浮遊した』という事実の評価から。
「デーア!」
「了解ですよお☆」
デーアを咄嗟に飛びのかせると、直後に林の中から数発、羽根が射出されてきた。
それらはストトト!! と軽い音を立てて地面に突き立っていく。
「………………!」
方法はまだ不明にしておくが、敵は何らかの方法で林全体を土地ごと全部持ち上げることによって、空中要塞を築き上げた。
当然だが、デーアは飛行することができないし、今みたいに空中要塞から一方的に攻撃されてしまえばこっちは徐々にダメージが蓄積していくばかりだろう。
そうでなくとも、空中要塞を攻略しない限り『リンカーネイト対リンカーネイト』の戦いは決着がつかない。千日手に陥って決闘自体が中断なんてことになれば外聞も悪いし自体も改善しないままいたずらに時間が経っていくだけと、全てにおいて最悪だ。
さしあたって、あの空中要塞からパトヴァシアのリンカーネイト──
…………。
……さっきの羽根の着弾音、前に撃ってきた羽根の射撃よりも明らかに着弾音が軽かったよな。
◆ ◆ ◆
フクロウのリンカーネイトは、デーアの頭上で円を描くように旋回を始める。……む、これは。
「デーア! パトヴァシアの周りを円を描くように回避!!」
「承知しましたあ☆」
デーアがリンカーネイトの膂力で駆け出した直後、フクロウのリンカーネイトから高速で放たれた羽毛が、ズズン!! と先程までデーアがいた地点へ突き刺さっていく。
……やっぱり羽毛を飛び道具にして使ってきたか。事前に考察していたから、早く反応することができたな。
◆ ◆ ◆
「…………『重量の操作』かな?」
静かに。
しかし切り込むようにして、
発生した現象は二つ。
林が土地ごと浮遊した『軽化』と、羽根が地面に突き立った『重化』だ。
リンカーネイト能力が一体につき一つであることを考えると、『羽根の重量が変わる現象』と『羽根ではないものの重量が変わる現象』の二つの現象は、『軽重』という一本の軸で繋がっているようでいて、能力対象が『羽根』と『羽根以外』でバラバラだから、一能力としてはそのままでは解釈できない。
ただし、これについては『どちらも羽根を起点にしている』と仮定すれば、辻褄を合わせることは可能だろう。
『射出した羽根が命中した物体の重量を変動させる能力。羽根そのものの重量を操作した上で射出することも可能』……という感じで調整している訳だ。おそらくは、
この能力解釈ならば、『土地を浮かせること』と『羽根を重くすること』の二つの現象を両立させることができる。
もちろん、この通りとは限らないが……ただ、『羽根を起点にした重量操作』という推測自体は、そこまで外したものでもないだろう。
「……今更気付いても、遅いだろ。ああそうさ。私の……
なるほど、『補給網の整備に特化した軍事技術』を研究している『派閥』の長らしいリンカーネイト能力だ。
物質を自由に空気よりも軽くすることができる能力があれば、軍が許容できる荷物の数も桁違いに上昇するし──
「……浮遊している土地。さっきから、殆ど土が零れていないね。能力対象に指定したときに、効果範囲の物質の形状を固定する副次効果もあるわけか。……なるほど、兵站分野で研究再現できれば、つくづく有用な能力だね」
ついでに言えば、戦闘において地面に接しているリンカーネイトに命中させたらその時点で『地面も効果範囲に含む』ことで対象のリンカーネイトを地面に縫い留めることができてしまう。
足を止めたリンカーネイトに対して、重量化した羽根の集中砲火で一気に決着をつける。それが、
「……ふん。白々しいだろ。固定技術については、最初から知っていたくせに」
吐き捨てるように言って、パトヴァシアは笑う。
あー、なるほど。パトヴァシアの『派閥』の技術情報って、これだったのか。普通に自分から白状してくれちゃったけど……まぁ、必死に守るだけのことはある、立派な技術情報だ。
「それに、今更分かったところで状況はもう既に詰んでいるだろ! 林を浮かせた空中要塞から、一方的な射撃! 命中したらその場で重さを空気よりも軽くされて浮遊するか、足を地面に固定されるかだ!」
林の奥から、勝ち誇るように羽根が乱射される。
……ただ軽くするだけなら、浮遊している林はどこかへ飛ばされてしまうだろう。おそらく、林の中に打ち込まれている大量の羽根によって、重量バランスを調整しているはず。
この分だと、浮遊している林の死角に回り込もうとしても、細かく移動されて攻撃から回避することは叶わないかもな。……いや、それ以前に林の死角──つまり真下とか──に移動したら、能力を解除して圧倒的質量で押し潰すだけか。
「どちらにしても身動きは取れなくなる! その状況で重くなった羽根の集中砲火を食らえば、どんなリンカーネイトでもひとたまりもないだろ!」
確かに、パトヴァシアの言う通りではある。
足が接地しているときに命中すれば地面に固定され、浮いているときに命中すれば空中に浮遊する。どちらにしても身動きは取れなくなるし、それは普通なら『詰み』という。
……現状、地上からあの林を吹っ飛ばすのに、この世界の物品だけでどうにかする方法も思いつかないしな…………。
仕方がない。
──いっぺん食らうか、あの羽根。
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