第3話 一日目③

「申し訳ありません、遅くなりました。すぐお食事をお作り致します」


書斎のドアをノックし、少しだけ開いて頭を下げる、少しばかりの本の香りが、鼻の奥を包んでいく


「ああ、よろしく頼む。出来たらまた呼びに来てくれ」


「承知いたしました。お釣りはどちらに置いておけばよろしいでしょうか」


「釣りか…いくらだ?」


「大銅貨3枚程です」


「そうか…そうだな、釣りはお前にやる、自分の分かる所に置いておけ」


「?!…わ、私風情が主様のお金を頂くなど…」


奴隷は買った時点で主人の「所有物」になる。その「所有物」へ金を渡すなど、本来はありえないことなのだ


「言っただろう、人の厚意には甘えておくものだと」


「そ、それでも…さすがに金銭は…」


「いいから貰っておけ、たかが大銅貨3枚だ、あってもなくても大して変わらん」


「わ、分かりました…ありがとうございます…」


全くもって不思議な人だ。奴隷に上着どころか金銭まで与えるなど、他のところでは到底ありえないだろう


「それでは、失礼いたします」


「ああ」


私は、少し開けたドアを閉じて、台所へと向かう


「さて!!作りますよ!」


そう声を出して気合いを入れて、足下の棚の鍋とフライパンを取り出す。二つがぶつかってカラカラと音が鳴った


「えっと…お水は…魔法でいいですかね」


鍋の中に掌を向けて、魔法を使う。コポコポと音を立てながら水が貯まっていく


「火は…あ、魔法コンロありますね」


魔法コンロとは、火魔法を埋め込んだ鉱石を使ったコンロで、火を通す時に使う調理器具のひとつである


「ありがたや…」


そう言いながら、コンロの上に鍋を乗せ、コンロの少し下にあるボタンを押す。


「えっと…次は…」


紙袋の中から買ってきたベーコンを取り出して、まな板の上に置き、下の棚から包丁を取り出して、ベーコンを切る


「いっ…」


包丁でベーコンを切っていると、不幸なことに、人差し指を包丁で切ってしまった。指先から血が少し流れてくる


「いたっ…」


チクリとした痛みが指先から感じられる


「まぁ…傷は大きくないですし、ほっといてもいいですかね」



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奴隷のリリイ @mamap3427

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