間話 思い出①
とある、冬の日。
いつものように、二人で並んで学校へ歩く。
「私、引っ越すんだ。」
それは、前置きも何の脈絡もない、唐突な告白だった。
「引っ越し?どうしてまた急に」
「親の都合ってやつだよ」
マフラーに口を埋めながら、冬霧は言った。
「へぇ…どこ行くの?」
「三重だって」
自分の事を他人事のように言う彼女は、何処か上うわの空だった。
「…県外か」
「そう、県外」
「………寂しくなるなぁ」
それは無意識のうちに出た言葉だった。1秒前の自分の発言の恥ずかしさに顔を赤くしている俺を見ると、冬霧が白い息を溢しながら小さく笑った。
「寂しいって、思ってくれるんだ?」
揶揄からかうように笑う彼女に、見惚れていたのは言うまでもない。でも俺はその好意が見えないよう、体裁のいい言葉で何となく誤魔化した。
「…まぁ、唯一の友達だしな」
俺の言い訳を聞いて、冬霧は目線を俺の顔から外す。
「…そうだね」
青白い空に揺蕩う彼女の白い吐息が、冬の霧の中に溶けて、薄れ霞んでいく。
未だ微笑む冬霧の寂しげな瞳を、俺は二度とは見ることができなかった。
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