第14話 トオルvsシャドウマスター
ホムラは、その瞬間を確かに見た。
トオルの足元に伸びた影。それが意思を持ったかのように、突如として動き出したところを。
物理法則を無視してトオルの影は肉体から剥がれ落ち、それシャドウマスターの手に吸い寄せられ――
「ふんっ」
――る寸前にトオルの影は通った道を引き返し、また
「 は?」
「今のは呪殺攻撃ですね。相手の影を操ってそれを潰し、肉体と強制連動させることで即死させるって攻撃です。対策してなければ厄介ですが、逆に言うと対策していれば平気です」
:即死攻撃だと!?
:光速の攻撃だけじゃなく、即死攻撃なんて絡め手もあるのか!
:すげえええええええ
:安心した。やっぱこの人格が違うわ
:やべええええハイレベル過ぎる!! どうなってんのか全然わからん!
:とにかくすごいってことはわかるよ
:え、あの……呪殺攻撃ってそんな簡単に対策できましたっけ……?
「簡単ですよ。相手は俺の影を操ろうとしてくるので、操られないように制御権を乗っ取ればいいんです。魔力の流れを見ればタイミングもバレバレですし、そもそも自分の影なんだから自分で制御できて当たり前ですよ」
嘘である。ホムラは自分の影を制御するなんて芸当は知らない。
「おのれ……おのれおのれおのれッ! 許さん、もう許さんぞ人間!!」
必殺の呪殺攻撃すら無効化され、怒り心頭のシャドウマスター。
その朧げな肉体が、風船を膨らますように肥大化していく。
「認めよう……貴様は強い。この我と対等に戦える程には。このまま戦いを続ければ、どちらが勝つかは分からなかっただろう……」
:!?
:なんか巨大化してる!?
:これ周囲の影を取り込んでる? パワーアップのお約束じゃん
:あれ、でも巨大化って負けフラグでは
:敵さんめっちゃキレてる
:そら逆川の態度見たら誰だってキレるだろ
:さっきまでの逆川を心配する雰囲気は何処いったんだよ
:呪殺攻撃でお亡くなりになりました
「しかし!! ここは我が領域、影の世界! 全ての闇が我が味方! この場所で戦う限り、我に敗北は無いッ!」
……もし、戦っているのがトオルではなくホムラだったなら、今頃彼女は絶望の表情を浮かべていただろう。
しかし、今の彼女は
(悔しいなぁ)
その事実を、ホムラはきちんと認識していた。そして心の底から悔しがっていた。
(今の私じゃ、
ホムラの瞳には絶望など映っていない。
そこにあったのは羨望。トオルとシャドウマスター。二人の役者が織りなす舞台に、自分も立ちたいという願望だ。
(いつか、いつか。私も立ちたい。あの領域に、そのステージに――この、戦場に)
彼女の感情の焔が揺らめき、うねりを上げて大きな感情となる。
それが一つの決意として形を成した時、両者の戦いにも決着が訪れようとしていた。
「――もう打ち止めか? じゃあそろそろ終わらせようかな」
「死ね、人間ンンンッ!!!」
巨大化したシャドウマスターが分裂する。
影で作られた剣を持ち、それぞれが
同時に周囲の影が一人でに動き出し、刃となってあらゆる角度から襲いかかる。
肉体と影が逆行し、トオルの影が主人の元を離れようとする。
影と呪いの飽和攻撃。全ての攻撃が、光の速度で行われる。
全力を出したシャドウマスターの前に、逆川透はただ一言を告げる。
「大体わかった」
そして、
「――――」
「――――」
「――――」
ホムラも、リスナーも、シャドウマスターも。誰一人として微動だにしない。
静寂と死の世界で動き出すのは、ただ一人の
「【
シャドウマスターが周囲を闇に染め上げたように、トオルは周囲の
止まった時の世界で歩き出したトオルの手には、いつの間にか一本の刀が握られていた。
「最後くらいはきっちり決めたほうが動画映えするよな〜」
抜刀、転移、切断、納刀。
時間も空間も捻じ曲げて、全ての動作が全く同時に行われる。
「【次元一閃】」
この世の摂理を無視した一撃。
それは確実に、シャドウマスターの命を終着へと導いた。
「――ゴバアァァッ!!?」
時計の針が動き出す。
色彩を取り戻した世界で、シャドウマスターは黒い液体を撒き散らして倒れ伏した。
「――っ、ぇ……?」
(なに? 今の感覚……)
:え!!
:!?
:は?
:はああああ!???
:なんか決着ついてるー!!
:シャドウマスター倒れてる!!
:つまり店長の勝ちだ!!
:何が起こったんだ!? 見えなかった!
:店長が一瞬で移動して、次の瞬間には倒れてた!!
:またテレポート!? 何にせよすげーよ! 前代未聞だ!
:下層ボスをソロ討伐……国内どころか、世界見渡してもいないぞそんな奴
:俺たちは歴史の転換点を目の当たりにしている……
:もう一生ついていきます!!!
既に決着がついた光景を見てリスナー達が大騒ぎになり、過去最高速度でコメントが流れていく。
配信用のコンタクトレンズ越しにそれを見ていたトオルは、とある事実に気づき思わず叫んだ。
「しまった……時間止めてたらカメラに映らないじゃん! 大事な見せ場シーンがッ!?」
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