第13話 下層最終ボスと戦ってみた
渋谷ダンジョン、下層7階。
その最深部に足を踏み入れた俺達を待っていたのは、辺り一面の闇だった。
「ここが、下層の最終ボスの部屋……寒気がします。それに嫌な気配も」
四方どこを見渡しても暗黒。距離感を見失いそうになるホムラちゃんを誘導するように、ゆっくりと足を進める。
:カメラ壊れた?
:違う、部屋が真っ黒なんだ
:この部屋光源がないよ
:なんもみえねぇ
:ホムラちゃん明かり付けられる?
「あ、このままじゃ見えづらいですよね。じゃあ炎で明かりを――」
「待った」
俺が言い終わるより早く、
しかし無駄だ。ホムラちゃんの周りにはバリアを貼ってある。攻撃は見えない壁に弾かれたように、あらぬ方向へと逸れていった。
ホムラちゃんは、何も反応できなかった。
「ぇ」
「光源は俺が用意するよ。相手さんは明るいのが苦手なようだ」
俺の配信用ドローンには照明機能も備わっている。魔力で遠隔操作すると、真っ暗闇の部屋を明るく照らしてくれた。
――同時に、露になる敵の姿。
「何者だ――我が領域を、
辛うじて人形とわかる程のぼやけたフォルム。光を一切通さない暗黒。こちらを睨みつける黄金の一つ眼が、
「シャドウマスター。影と闇でできた体を持つ、非実体系の魔物だね。あれが渋谷ダンジョン下層のボスです」
「人間か。性懲りもなく我が領域を侵すとは……万死に値する。闇に呑まれて消え失せよ」
いやー、こんな大勢の人前で戦うのは流石に緊張するなー。
しかしこの一戦で今後の店の命運が決まるかもしれない。気合い入れてやりますか。
◆
(三人称視点)
四方を暗黒に包まれた、まるで宇宙のような場所で、トオルとシャドウマスターの戦いは始まった。
「人間よ、貴様らには決して超えられぬ壁というものがある。何だかわかるか?」
シャドウマスターが放つ
:!?
:何が起きてる
:全く見えない! でもなんか攻撃されてる!?
:なんだこのモンスター!? 資料にも載ってないぞ!!
:これが渋谷ダンジョンのラスボスなのか!
「教えてやろう。その壁とは暗黒――闇そのもの。底知れぬ深海、星の奥底、宇宙の闇に、人を喰らうダンジョン。人類は幾度も闇へと戦いを挑み、そして敗れていった」
限られた視界の中、周囲の暗黒が生物のようにうねり、鋭利な刃と化す。
それがトオル目掛けて放たれる。一連の動作が、
「闇とは光の対極、その速度は人間如きに捉えられるものではない……そして闇そのものを操る私に、貴様ら人類が敵う筈がない。我が攻撃を凌ぐ力量は大したものだが、果たしていつまで続くかな?」
(シャドウマスター……影そのものを操る魔物! 辺り一面が真っ暗なのもこいつの仕業! 影は光と一緒に動くから、その速度は光と同じ……さっき私を襲ったのも、この光速の攻撃!?)
普通の人間は、光速で迫る攻撃を認知できない。
探索者はダンジョンの魔力を取り込んだ結果、人並外れた身体能力を持つ。しかし音の速さならばいざ知らず、光の速さに反応できる者は殆ど居ない。
それは有数の実力者であるホムラであっても、例外ではない。
(これが、下層のボス……人類が乗り越えられない壁。勝つには、どうすれば……)
:ボコボコじゃん
:店長何も反撃できてねぇ
:これ大丈夫か?
:敵めちゃくちゃつよくない? ほんとに勝てるの?
:誰か、店長さんを助けに行ける人はいないのか
:いるわけないでしょ……
コメント欄でも動揺と不安の声が上がりはじめている。それほどまでにシャドウマスターの実力は圧倒的であった。
「あ、リスナーのみんな心配してくれてる? 俺は全然大丈夫だよ〜、心配してくれてありがとう」
「えっ」
呑気な声で、トオルがそんな報告をするまでは。
「な、何っ」
「シャドウマスターの攻撃は影の実体化とその操作です。ご覧の通りめちゃくちゃ速いので、見てから避けるのは困難でしょう。なので素直に防御を固めて耐えます」
ホムラが暗闇で目を凝らしてみれば、確かにトオルの体には傷一つついていない。
光速に達する刃を受け続けていたにも関わらず、だ。シャドウマスターも驚愕の声を漏らした。
「我が刃を受けて、無傷だと……一体何のカラクリだ、人間!」
「影の刃は速いだけで
嘘である。仮にホムラがこの攻撃を受ければ、一撃で全身が爆散していた。
「素の防御だけで凌いだというのか……面白い」
シャドウマスターが両手を広げる。
次の瞬間、トオルを取り囲むように複数体の
:分裂した!?
:取り巻き召喚か、やっぱボスなら持ってるよな
:単体でも強いのに手下まで出てくるのか!?
:やばいって!! 店長さん死んじゃう!!
:いくらなんでもこれは……
:渋谷ダンジョンってこんなに敵強いのかよ
:これが日本最難関ダンジョン…。
「影とは無限に、何処にでも潜むもの。この分身一体一体が、我と同等の力を持つ……果たしていつまd「あーそのネタもういいから」
トオルが羽虫を払うかのように手を振るう。
直後、全ての分身体が同時に掻き消えた。
「なん……だと……?」
「数が増えるだけでやってること同じじゃん。そんなんじゃリスナーさんも飽きちゃうよ。もっとバリエーション増やしてー」
:えっ
:えっ
:なんか死んだ
:取り巻きが瞬殺www
:戦いの最中でも撮れ高を意識する配信者の鑑
:あの、取り巻きも同一の力を持つとか言ってませんでした?
:偉そうにしてて瞬殺されるのダッサw
:つまり本体もあれくらい貧弱って事?
:本体がひ弱なのか逆川がおかしいのかまるでわからんな
:後者だと思うなぁ……
(配信者たるもの、戦闘でもリスナーが盛り上がるような展開を用意するべきだよな? もうちょっと敵の見せ場を作ってから倒した方が、盛り上がるだろうし)
トオルは内心このような事を考えるくらいには余裕があった。欠伸までする始末である。
「……こ、
「後悔させたいのかさせたくないのかどっちだよ」
シャドウマスターの周囲に魔力が集まっていく。
ダンジョン内に充満する未知のエネルギー、魔力。それを高密度で束ね操れば、物理法則すらも歪め、望んだ結果を出力することができる。
「我を怒らせたことを悔いるがいい! 貴様は
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