第12話 【放送事故】キノコ狩り事件


 問題が起きたのは、下層の5階に差し掛かった頃である。



(一人称視点)


「ん?」


 下層に入って半刻程経っただろうか。もうすぐ目的地という所で俺はそいつ・・・を見つけた。


:下層ももう5階か……早いな

:全部で7階だよな? もう半分過ぎてるってどういう事だよ

:まだ下層入って三十分しか経ってないんだけど

:ん?

:どした?

:なんか見つけた?




「キノコだ……」


「? トオルさん、どうしました?」


 ホムラちゃんの問い掛けも、リスナー達のコメントも今は後回しだ――


「狩るぞっ! キノコ狩りだ!!」


「わっ、いきなりどうしたんですか!?」


 ――下層には多種多様な魔物が生息しているが、その中には貴重な食材をドロップする奴もいる。

 その内の一つが今、目の前で群れなすキノコ……


「こいつはバッドトリップマッシュルーム! 低確率で下層に出現する魔物で、ごく稀に『マボロシキノコ』という食材をドロップする! こいつは珍味として有名なんだ。……欲しい!! 是非とも手に入れたい!」


:え? そうなの?

:知るかよwww

:ごめん聞いたことないんだけど……有名ってどこの界隈の話?

:なんか様子おかしくね?

:急にテンション上がった

:いきなり叫んでどうした

:珍味……?


 サイケデリックな色合いをした、足の生えた巨大なキノコ達。

そんな見た目のバッドトリップマッシュルームが、俺の存在に気付き幻惑効果のある胞子を撒き散らす。

 複数の個体が同時に胞子をばら撒いたせいで、あっという間に辺りに蔓延する。


 しかし無意味! 空間をドリルのように捻じり込むと、奴は土手っ腹に穴を開けて沈黙! 宝箱を置いてキノコは消滅!


「キノコ! キノコ! キノコ!」




 ……散らばった無数の宝箱を開けていくが、中身はどれもゴミばかり。

 マボロシキノコの獲得数、ゼロ。




「んおおおぉぉぉ……俺の、キノコがッ……!」


「え、えっと……落ち着いてくださいトオルさん。見てください、キノコはありませんでしたが、鍵付きの宝箱がドロップしてますよ! 開錠すればレアアイテムが入ってるかもしれません!」


「……いらない。ホムラちゃんにあげる」


「え!?!?」


 宝箱には普通、鍵はかかっていない。けどごく稀に鍵付きの宝箱が出てくる。

 解錠スキルや特殊な道具、方法で開ける事ができ、中には貴重なアイテムが入っている。


 だがあんなもんゴミだ。装備やポーションばかり優先されて食材が入っている確率は低い。装備にしても、下層程度・・で出る物なんてたかがしれてる。


:宝箱めっちゃ当たりなのにwww

:下層の宝箱って国宝クラスの装備とかマジックアイテム出てきてもおかしくないぞ

:さっきからキノコキノコうるさいぞどうした

:様子がおかしい

:調べたらこのモンスター幻覚作用のある胞子を撒き散らすって出てきたけど……

:主だいじょぶか??


「げ、幻覚作用!? トオルさん本当に大丈夫ですか!? 胞子吸ったりしてません?」


「幻覚であって欲しかった……」


 バッドトリップマッシュルームは、体感で半年に一度お目にかかれるかどうかの遭遇率なんだ……

 次はいつ会えるのか、俺にもわからない。ああ、俺のキノコ……


「そんなにキノコが欲しかったんですか……あ」



 何かを見つけた様子のホムラちゃん。

 指差した先を見ると、そこには別のバッドトリップマッシュルームの群れが――


「キノコ置いてけやああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 ホムラちゃんありがとう。君は最高の幸運の女神だ。


:えぇ……(ドン引き)

:きもい

:なんだこいつ

:確かホムラちゃん助けた時もこんな調子じゃなかったか?

:特異個体見つけて興奮してたんだっけ

:希少食材が絡むとおかしくなっちゃうの???

:なぁこの魔物ちょっと多すぎない? 実はモンスターハウスだったりしない?

:それ思った。レアモンスターなのに一箇所に沸きすぎ

:だとしても全部瞬殺されてるから全く危機感ないんだけど

:ホムラちゃんマジ幸運の女神

:あ、出た


「出た」


 黄金色に輝くキノコ。これこそ探し求めていたマボロシキノコ。

 数十というバッドトリップマッシュルームを倒した末、遂に俺は手に入れた……


「うへ、へへへ、ぐへへへへへ……」


:うわぁ

:頬擦りし始めたぞ

:きもい

:きもい

:こいつ絶頂してない??

:ヤバいよこいつ

:顔が完全にイっちゃってるよ……

:これやっぱりキノコキメてないか?

:胞子吸ってるだろこいつ

:ヘ ヴ ン 状 態

:もう放送禁止レベルだろこれwww



「ウヒョ、ヒョ、ヒョ」


「お、おめでとうございます……トオルさんってその、食材の事になるとだいぶ雰囲気変わるんですね……?」





 あぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜マボロシキノコの香りが脳髄に突き刺さるぅちょっと刺激臭が混じってるけどキノコらしい樹脂香もするもうこれだけでご飯三杯はいける品質も文句なし長生きしてくれたんだねきっと美味しい間違いない食べたい食べたいまずは味見をそうだホムラちゃんにも食べさせてあげようこの収穫はホムラちゃんの力あってのものだ彼女にも正当な報酬を得る権利があるホムラちゃんまじ幸運の女神いやまて今日の料理に添えるというのもありかいやしかし味の癖が強いから適当に合わせていい食材じゃないまずはホムラちゃんと一緒に味見してから考えようそうし





「にしてもラッキーでしたね、レアモンスターがあんなに沢山出てくるなんて、もしかしてリスナーさんの言った通り近くにモンスターハウスが――」


「――よし、ちょっと残りのキノコも探してくる」


「え」


:え

:え

:えぇ……?

:マジかよ

:わざわざモンスターハウスに突っ込むの……?

:そんな探索者聞いた事ないよ

:コイツ本来の目的忘れてるだろ

:俺たちは何を見せられているんだ

:放送事故です



「待ってろマボロシキノコ!! 今日の昼飯はお前だああぁぁ!!!」






「…………私、余計な事言っちゃったかなぁ」



 その後モンスターハウスを発見した俺は、思う存分キノコ狩りに勤しんだ。

 ……ちょっと夢中になり過ぎて、一時間くらい消費してしまった。反省はしてる。



「ふぅ……お待たせしました。何事もなく到着です」


「……ソウデスネ」


:そうだったか……?

:ホムラちゃんを置いてけぼりにしてキノコ狩りしてた件について

:予定時間オーバーです

:三十分で着くって話は何だったんだよ……

:配信開始から二時間経とうとしてるのに未だ料理が出てこない件

:タイトル詐欺じゃん。やはりこの男詐欺師では?


 ぐっ……言い訳できない。ホムラちゃんとリスナーさんには申し訳ないことをしてしまった。


「……あっ、もしかして、あれが?」


「うん、あれがうちの店。『止まり木亭』です」


 ホムラちゃんの指さす先にあるのは、丸太で組まれたログハウスのような建築物。

 『止まり木亭』と書かれた立て看板も置いてあるので、お客さんにもわかりやすい親切仕様だ。


:うわほんとにあった

:なんでこんなところに……

:道程まで生配信されたら、流石にフェイク扱いはできないよな……

:アンチコメもだいぶ減ってる様子

:俺は最初から信じてたよ


 よしよし、これで下層入り口から店に着くまでのルートを紹介することができた。道に迷うお客さんもこれで少なくなるだろう。

 それに最初の目的だったホムラちゃんへの誹謗中傷も、だいぶ少なくなっている。下層攻略生配信はそれなりに効果があった様だ。


とはいえ……あと一押し、欲しいな。


「あれ? トオルさん、店に向かうんじゃないんですか?」


「うん、お店は後で入ろうかなって。目的地はこっち」


 俺が目指すのは、店のすぐ脇にある洞穴、その奥にある大扉。

 あの大扉が何を意味しているのか、ホムラちゃんなら知っているだろう。


「あれは……まさか!?」


下層の最終ボス・・・・・・・。あれを倒さなきゃ、下層攻略したとは言えないでしょ?」


 そう、うちの店は下層7階の一番奥、最終ボスが居座るボス部屋の手前にある。

 ボスの影響か、この辺りは魔物が寄り付かないちょっとした安全地帯になっていて、店なんかを構えるのにうってつけの場所なのだ。


:は!?

:下層ラスボス!?

:まじ!? 戦闘配信してくれんの!?

:本邦初公開じゃね?

:どころか、公式に討伐された記録は無い筈

:マジで? もし倒せたら新記録じゃん

:もしかしたら、この男ならやってくれるかも

:いけえええええ


 リスナーも盛り上がってくれている様子。

 というわけで、さくっとラスボス倒しちゃいますか。


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