第5話 【悲報】配信用ドローン、紛失


(一人称視点)


「やっべ……配信用ドローン置いてきた」


 客の来ない料理店で、特異個体の肉でどんな料理を作ろうか頭を捻っていると、さっき忘れていた内容をようやく思い出した。


「全速力で特異個体のところに向かったから、配信用ドローン置いてけぼりにしてたわ、俺」


 ある程度離れても自動追尾してくれるって話だったけど、帰ってこないって事はそういう事なんだろうな……しかも帰りは転移テレポートしちゃったし。

 ダンジョン配信用のドローンはそれなりに耐久性もあるが、流石に下層モンスターの一撃に耐えられるとは思えない。今頃モンスターに見つかりスクラップにされている頃だろう。

 結構高かったんだけどな〜アレ。


「ん? そういえば」


 そこまで思考を巡らせた所で更に思い出す。

 俺、配信つけっぱなしじゃね?


「二度目の配信で撮影投げ出して放置とか……今日はやらかしまくりだな。凹むわー」


 ドローンが壊れても配信枠がなくなるわけではない。

 俺は投げっぱなしになっていたチャンネルを開き、配信を終了させようとしたのだが……





「えなにこれ」


チャンネル登録者数:85596

現在の視聴者数:12239


 意味不明な数字の羅列と、


:ここが例の男のチャンネルですか

:ホムラちゃんねるから来ました

:まじで本物なの??

:ほむらちゃんを助けてくれてありがとう!!!!!

:動画見たけどまじで同一人物じゃん!!!

:ありがとうありがとうありがとうありがとう

:主に感謝の言葉が届くまで全裸待機します

:推しを助けてくれて本当にありがとう。感謝しかない

:店の場所教えてくれ、探索者仲間連れて絶対行くから

:前に釣り動画だって笑われてたけど、実はガチだったとか!?

:ほむらちゃんがあなたのことを探しています

:チャンネルまだ閉じてなかったんだ

:主は何してるんだろう??

:早く気づいてー



かつてないほどの大量のコメントと、



『配信用ドローンが迷子になってたのでお預かりしています

XXペケペケDMダイレクトメールでご連絡ください

                             ホムラアカリ』


 予想に反して未だ映し出されていた画面に、そんなメッセージボードが表示されていたのだった。




 あれから俺はSNS――XXペケペケを使って、俺のチャンネルに何が起こったのかを把握した。


 さっき俺が助けた少女は、配信者として有名なダンジョン探索者だったらしい。

探索者はダンジョンに眠る資源目当てに、命懸けで突入する人達のことだ。

 その探索の様子を動画にして国に提出すると、査定にボーナスが出るらしい。なので多くの探索者達は、可能な限り自身の探索を録画している。


 そこから発展して、ダンジョン関連動画専門の動画配信サイトなるものも生まれた。その名もDディーチューブ。

 通常のダンジョンでの稼ぎに加え、配信者インフルエンサーとしての活動を両立させる事で、利益、知名度において大きな力を持った探索者が現れ始めたのだ。


 その中でも彼女――ホムラアカリは、期待の新星として人気急上昇中の配信者だった。

 その彼女がディープミノタウロスの特異個体に殺されそうになっていた所を、たまたま通りかかった俺が(結果的に)助けた事で、俺のチャンネルが話題になり大バズりしたという訳だ。


「いやなんつー偶然だよ」


 いやお陰様でチャンネル登録者数が激増してるし、文句はないんだけどね?

 にしては登録者数の増加具合が尋常じゃない気がするが……理由はよく分からない。


 そして件の彼女だが、回復ポーションのお陰か、幸い後遺症なども無く帰還できたようだ。

 そして俺を追いかけて迷子になった配信用ドローンを保護してくれて、気まずさのあまり逃げ去った俺に接触してきている、というのが現状だ。


『危ないところを助けていただき、本当に感謝しています。あの時は慌てていてお礼もちゃんと言えなかったので、改めてお礼をさせてください』


 要約するとこんな感じのDMダイレクトメールXXペケペケに届いていたので、とりあえず一度会って話すことにした。

 ドローンも返してもらいたいし……事態がここまで大きくなった以上、俺が何のアクションも起こさないというのはいささか不誠実だと思ったのだ。

 まあ、ちょっとした打算もあるんだが。


「そろそろ時間だな、向かいますか」


 身支度を整えた俺は転移テレポート。向かう先は、渋谷ダンジョンの上層3階のとある場所。

 待ち合わせ場所をここに指定したのは、お互いに余計な人目を集めないようにする為だ。


「あ」


 どうやら待ち人は先に来ていたらしい。待ち時間にはまだ十五分ほど早いが。


 白いベレー帽で紅色の髪を隠し、サングラスにマスクという徹底した変装ぶりだ。

 しかし彼女から溢れ出る気配、オーラとでも言うべきか? ともかく変装程度でそれは隠しきれておらず、一般人とは隔絶した気配を漂わせている。

 これが超人気配信者としての風格なんだろうか。


 こちらの姿を見つけると彼女は、満面の笑みを浮かべた。


「やっと会えた……! 逆川さんですよね? 私が焔朱莉ホムラアカリです!」


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