第6話 助けた美少女配信者と再会してみた


「――この度は危ないところを助けていただき、本ッ当にありがとうございました!!」


 ホムラアカリ――もとい、ホムラさんと出会った俺が真っ先に言われたのは、深々と頭を下げての感謝の言葉だった。


「え、お礼なんていいですよ。困った時はお互い様って言うじゃないですか。それにお礼の言葉はDMダイレクトメールでもう貰ってますし」


「それでも、やっぱり面と向かってお礼を言うのと、言わないのとでは全然違うと思うので……改めてお礼を言いたかったんです。命の恩人の逆川さかがわさんには、いくら感謝してもしきれないくらいです」


 カメラが回っていない所でも、こんな風に他者に気を遣えるとは。

 彼女の動画を見ても思ったが、やはり実力だけでなく人柄も優れているようだ。

 そうでないと配信者としても一流にはなれない、という事か。同じ配信者として参考になるなぁ。


「わかりました。そういう事なら、素直に受け取ります。どういたしまして。……とはいえ、この話題はこれくらいにしておきましょうか。予定の時刻も迫ってますし、早速準備に取り掛かっちゃいましょう」


「あ、はい。そうですね!」


 そして俺はホムラさんから返してもらった配信用ドローンを立ち上げ、生配信・・・の準備を始めるのだった。



(三人称視点)


 ――ホムラアカリと逆川透サカガワトオルが再会する少し前。


(どうしよ……)


 ホムラは内心、戦々恐々としていた。

 逆川透さかがわとおるに危ないところを助けて貰った時は、もう一度彼に会いたいという気持ちが強かった。

 しかし時間が経つにつれ冷静になり、逆に再会するのが怖くなってきたのだ。

というのも。


(数十億分のお礼って何すればいいの……!?)


 彼女が渡された回復ポーションは、少なくとも数十億円分の価値がある超希少品だ。

 Aランク探索者のホムラといえど、すぐに払える額ではない。飲まなければ死んでいたので仕方がなかったが、ホムラはトオルに数十億の借金をした形になる。


(Aランク探索者として活動を続けられれば、返済不可能な額ではないけど……数年、或いは十数年は掛かる。それまで逆川さんが待ってくれるかどうか。もしくは、代わりに別の何かを要求される可能性も……?)


 十六歳という若さで莫大な額の借金を背負った気持ちになり、割と人生の崖っぷちに立っているのではないかと戦慄するホムラ。


(けれど……命の恩人に、恩を仇で返すような真似はしたくない。まだお礼の言葉もちゃんと伝えられてない)


 そんな混迷を極めた状態ではあったが、覚悟を決めてXXペケペケDMダイレクトメールを送ったのがつい先日の話。

 そして薬のお礼の件について、トオルからの回答は。


『あ、別にいいですよ。タダであげます』


(え、えええぇぇぇっ!!?)


 完全に予想外の回答で、ホムラは更なる混迷に突き落とされる。


(いやいやいや、数十億ですよ!? それくらいあったらほぼ何でもできるじゃないですか! それをタダであげるって言われても素直に『わ〜ありがとうございます☆』って流石に受け取れませんよ!? この人石油王か何かですか!??)


『回復ポーションなんて超高級品を頂いてしまって、感謝の言葉だけで済ませてしまうのはあまりにも申し訳ないです! 何か私にお礼をさせてください!』


『全然気にしなくて大丈夫ですよー。ポーションくらいなら腐る程余ってるので。』


(く、腐る程余ってるんだ……)


 内心ドン引きだった。この世界に一本数十億円のポーションを、腐る程余らせている存在がいるなんて思いもしなかった。

 しかしホムラもこのまま引き下がれない。金額も一つの理由だが、彼女の誠実性などの理由から、それを認められない。


『その、私が納得できないんです。助けられた身で失礼かもしれませんが、何か私にできることはありませんか……? 困っていることや、手伝えることがあれば仰ってください!』


『うーん、本当に気にしなくて大丈夫ですよ? こちらも配信用ドローンを回収してもらいましたし、それでおあいこ・・・・ということでどうでしょう?』


 欲のない人だな、とホムラは思う。

 回復ポーションはそれ一本で、大勢の人生を左右する程の代物だ。ホムラの人生だって歪められるだろう。

 それをせず、なんの見返りも求めず、その実力をひけらかすこともない。

 誠実な性格、というよりは単純に興味がないのだろう。よく考えれば当然なのかもしれない。彼ほどの力があれば、何だって手に入れられるだろうから。

 故に私から彼に与えらえるものなど何もない――ホムラがそこまで、トオルを分析したところで。


(……興味?)


 引っかかる単語、停止する思考。彼の行動を思い出す。

 彼は今、何に対して興味を抱いているのだろうか。

 助けてもらった時、真っ先に特異個体の肉を回収していなかったか?

 奇声を上げる程の執着。食材。彼はその食材をどうするつもりなのか。

 ……確か彼は、自分の経営する料理店の動画を配信していなかったか?


『……逆川さん。確か、料理店を経営していらっしゃいましたよね』


『え? はい、そうですけど』


『私が逆川さんのお店を宣伝する、というのはどうでしょう』

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