第2話 ダンジョンで料理店を開いてみた


 ――料理店『止まり木亭』店主、逆川透さかがわとおるが、『カイザーコカトリスのチキン南蛮』の動画を配信する、少し前の話。



(一人称視点)


「客が、来ないっ……!」


 念願の料理店をオープンしてから早三日。

 その間に訪れた客の人数は、なんとゼロ。


「やっぱりダンジョンに俺一人で料理店を開くのは無謀だったか……? いずれにせよ、このままじゃマズいよなぁ」


 一人も客がこないとなると、やっぱり知名度が原因だろう。

 どんな良い店でも、存在を知られなければ客がくる事は無いのだから。


「広告もダンジョンの入り口あたりに貼っといたんだけど、全然効果なかったな……地上に出てビラ配りするか?」


 何か良い方法ないかなー、とネットで色々検索をしていた時であった。


「ん?」


 目を留めたのは、少し前のニュース記事。

 同じように客足に悩む料理店が、店内の様子や料理を動画サイトで配信してみた所、来店する客が激増したのだという。

 今ではメディアに引っ張りだこの超人気店にまで成り上がったという、サクセスストーリーを取材した記事だった。


「これだっ!!」


 見つけたぞ! チラシを貼るより効果的な、店の知名度を上げる方法を!




「俺は動画配信者になる……! そしてこの店を宣伝しまくって、超人気料理店にまで押し上げてやる!」




 そうと決まれば善は急げだ。

 早速俺は配信用の機材を取り揃える準備に取り掛かった。



【初回配信!】私の料理店を紹介します【お客様歓迎!】


「よし……動画タイトルはこんなもんでいいか」


 あれから数日後、配信用の機材を揃え終わった俺は、早速動画配信をスタートしようとしていた。

 チャンネルも開設済で、撮影用ドローンのテストもバッチリ。あとは配信開始ボタンを押すだけだ。


「フー……流石に緊張するな。動画配信なんて初めてだし、というか最近全然人と会ってないし。うまく会話できるか心配だ」


 料理店を始めると決めてからは、迷宮に籠りっぱなしだったからな……

 とはいえ、ビビっててもしょうがない。俺の行動次第で、この料理店の命運が決まるのだ。

 ならば、俺はあらゆる手段を尽くしてでも客を呼びよせてみせよう。


 よし……配信、スタート。



「――えー、こんにちは、初めまして。まずはこの動画を見てくださり、ありがとうございます」


 ……大手動画配信サイトを通したお陰か、始まって数秒で数人の視聴者が現れた。



「俺の名前は逆川透さかがわ とおるです。先日オープンした、『止まり木亭』って名前の料理店をやってます」


 視聴者の数は少しずつ増えている。

 まだコメントは来てないが、この機会を逃してはいけない。


「ちょっと辺鄙へんぴな所にある店ですけど、料理の味は保証します。そこで今回はうちの店の魅力を伝えるために、こうやって生配信をすることにしました」


現在の視聴者数:15


:1げと

:聞いた事ない店だな

:どこにあるの?


 おおっ、早速コメントが!!


「あ、コメントありがとうございます! ウチは渋谷ダンジョンの下層7階です!」


:え

:は?

:は?


 おっと、初コメントについ舞い上がってしまった。

 こんなに早くコメントが貰えるなんて思ってなかったからな〜。


「では早速、当店一番の強み……モンスターの素材を使った料理を紹介したいと思います! 他の店では味わえない料理ばかりですので、どうぞ見ていってください!」



「客来ないんだけど……」


 配信者デビューして三日が経った。

 最初の頃は同時視聴者数は二桁を維持していたが、終盤には一桁にまで下がっていた。

 そして実際に来店してくれた人はゼロ。


「まさか配信失敗ってやつ……? いやいやまだ諦めるには早い」


 とはいえ数値は嘘をつかない。正直動画のウケが良くなかったのは認めよう。

 思い返せば初配信の時、最初はうまくいっていたと思うのだが、次第にコメント欄が、


『ダンジョンで店とかありえねーからw』

『しかも下層とか流石に盛りすぎ』

『これCGだろ?』

『もうちょっとマシな釣り動画作れよwww』


 みたいなものばかりになってしまった。

 配信が終わる頃には殆ど人も残っていなかったと思う。


「何がいけなかったのかまるでわからん。料理のチョイスが駄目だったのか?」


 もちろん、CGやフェイク等は一切使っていない。

 にも関わらず、何故俺の動画は偽物扱いされたのだろうか?。

 ……料理の見た目がチープに見えたとか? それで合成画像か何かと勘違いされたのかもしれない。

 もっと見た目重視で、映えやすい料理にするべきだったか。


「なら、もっと見栄えに気を遣った新料理を考えなきゃな……食材残ってたっけ?」


 新たな料理を生み出すには、様々な試行錯誤が必要だ。

 その過程で大量の食材を消費する事になるだろう。多めに食材を用意しておかなければならない。


「んー、ちょっと心許ないかな。食材調達にいくか」


 亜空間の食材貯蔵庫を確認した俺は、調達する食材を脳内でピックアップ。最短移動ルートを描き出す。


 と、その時。脳裏に走る電撃。

 ある閃きが急速に実像を結んで、思考回路に浮かび上がる。




「もしや、魔物との戦闘シーンを配信すればバズるのでは……?」




 ダンジョン専門配信サイトでは、魔物との戦闘場面を撮影したものが数多く話題になっている。人気ランキングでも戦闘系の動画の割合は圧倒的に多い。

 それにあやかって俺も戦闘動画を配信すれば、


俺の戦闘動画がランクイン

チャンネルの知名度上昇

店の知名度上昇

客が増える


という勝利の方程式が見えてくるのだ!

 そうか……料理店の宣伝動画だからって、料理しか配信してはいけないという決まりは無い。もっと早く気づくべきだった。


「善は急げだ。早速一狩り行くとしようか!」

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