ダンジョンで魔物料理店を開いたけど客が来ないので、ダンジョン配信者になって宣伝しようと思う。
猫額とまり
第1章 開店! 止まり木亭
第1話 『カイザーコカトリスのチキン南蛮』
「――皆さんこんにちは。料理店『止まり木亭』店主の
:お?
:いちげと
:配信きた
:きたあああああ
:待ってました
:ホムラちゃんが出ると聞いて
カメラを回すと、配信を待ってくれていたリスナーのコメントが次々と流れてくる。
視聴者数はあっという間に五桁に達し、画面はコメントで埋め尽くされた。
「事前に告知していた通り、今日は探索者のホムラアカリちゃんをゲストにお迎えしています」
「はーい! 皆さんこんにちは、ホムラアカリです!!」
ゲスト紹介のタイミングに合わせて、赤い髪が特徴の少女、
配信者としても活動しているだけあって、流石に場慣れしている。声色に緊張は含まれていない。
:ホムラちゃーん!!!
:こん!
:こんこん
:今日も可愛いね
:あ゛あ゛〜声だけで癒される
:助かる
:お食事コラボは二回目かな?
「さて、今回は料理配信ですね。前回の動画で倒した“カイザーコカトリス"の食材を調理して、ホムラちゃんに食べてもらうという企画です」
「と言う訳で、本日もご馳走になります♪ えへへ、以前頂いた料理もすごく美味しかったので、今回も期待しちゃいますね〜!」
「お客さんが増えるような凄い食レポを期待してます。いやほんとに」
:お前がそれ言うのかよw
:素が出てるぞ
:俺だって行けるなら行きてえよあんたの店
:立地が悪いよ立地が
:カイザーコカトリスってあのでかいニワトリか
:なんか目からビーム出すニワトリだよね
:動画見たけど、相変わらず瞬殺で正直よくわからんかったw
:未視聴の方向けに伝えると、一応Aランクモンスターです さくっと倒せるもんじゃないです
:なんだAランクの魔物か、いつも通りだな()
:店主の強さが異次元過ぎるんだわ
:本来は最上位探索者が複数人で相手する強さなんだよなあ……この動画見てると感覚麻痺してくるけど
:ほんとなんで料理店やってるんだこの人
……コラボの効果か、今日は特に人が多い気がする。
やっぱり店の宣伝にコラボ企画は大正解だったな。
「ちなみにトオルさん、今日のメニューはどんなのですか?」
「チキン南蛮にしようと思います。つまり“カイザーコカトリスのチキン南蛮"ですね。では早速調理に移っていきましょう――よいしょ」
:!?
:でっか!!
:鶏肉ってサイズじゃねーぞ!
:これもも肉? 両手で抱えるくらいデカいんだけど
:探索者じゃないと食えない量だw
:流石に全部使うわけじゃないだろ……ないよな?
:てか何もないところから肉が出てきたんだけどw
:また意味不明なスキル使ってる
:この人いつもこんな感じだから……
:大丈夫だ、そのうち慣れる
「こちらが先日ドロップしたもも肉ですね。まずはこれをカットして、水と塩と砂糖を混ぜた液体に漬け込みます」
ダンジョン産の素材の場合、一部特殊な工程が必要な食材もあるが……今回のカイザーコカトリスの肉については問題ない。基本的な調理方法は同じだ。
食べやすい大きさに……いや、せっかくのデカい肉だし、見栄えも兼ねて大きめにカットするか。
カットしたもも肉を、液を浸したボウルに投入する。
「この工程には肉を柔らかくするのと、下味をつける役割がありますね。本来なら一時間くらい漬け込むんですが……その間特に動画映えするところも無いので、ばっさりカットしちゃいますね」
次の瞬間にはボウルの中に、十分に調味液が染み込んだもも肉ができあがっていた。
:は?
:は?
:は??????
:意味わからんのだがwww
:またやりやがったこいつ
:これスキルの効果??? なんのスキルだよコレ
:事前に用意してたやつじゃないの? 料理番組とかでよくあるでしょ
:相変わらず化け物じみてるなぁ
:明らかに料理で使っていい能力じゃないんだわ
:なんで料理店やってるのかマジでわからん
:今日は初見勢多いな? やっぱホムラちゃん居るからか
「次は甘酢だれとタルタルソースですね。やはりチキン南蛮にこの二つは欠かせない。
「――ええ、問題ないわ。ちょうど完成したところ」
カメラをキッチンの奥に向けると、そこには俺と同じく調理服に身を包んだ美少女が立っていた。うちの店唯一の店員、
いつもは綺麗な白髪をロングヘアにしているが、調理中の今はお団子にして上にまとめている。
普段と違う姿でも、彼女の常人離れした美しさは微塵も損なわれていない。
:白雪ちゃんだ
:キター!!
:白雪ちゃん今日も可愛いね
:まじで美少女過ぎる
:こんな可愛い娘が住み込みで働いてるとか羨ましすぎる
:白雪ちゃんが店員の店とか毎日通うわ。行けないけど
:立地さえ良ければなぁ……なんでダンジョンの中なんだよ
:ホムラちゃんとどっちのが可愛いと思う?
:その話題は荒れるのでNG
「という訳でこちらが、白雪ちゃんお手製の甘酢だれとタルタルソースです。タルタルソースの方は、カイザーコカトリスからドロップした卵で作りました。甘酢だれの方もカットしたもも肉に、よく馴染むと思います」
「わぁ、もうソースだけでも美味しそう……料理の完成が待ちきれないっ!」
「じゃあ、早速次の工程に進みましょうか。さっきのもも肉を卵、小麦粉、水と混ぜたものにくぐらせます。もちろんこの卵もドロップ品ですよ」
:うおでっか
:これ卵? ダチョウの卵くらいあるじゃん
:デカすぎwww
:やっぱダンジョン産はスケールが違うわ
卵にカメラを向ければ、予想通りリスナー達が良い反応を示してくれた。
色々な理由があって、ダンジョン産の食材は地上には殆ど出回らない。
故に、こうして卵一つでも新鮮な反応を返してくれる。
「肉が
:いい色してる
:油跳ねないように気をつけろよ〜
:油程度でダメージ受けない気もするけどw
:おお、いった
:揚げ物タイム!
:じゅわじゅわしてる
:ASMR班録音頼む
:この辺だけ見ると普通の揚げ物なんだよな……
:美味しそう
「〜〜♪」
「ホムラちゃん、もう少しでできるから待ってね。料理は逃げたりしないから」
「あっ、はい! えへへ……」
:可愛い
:かわいい
:椅子に座って足ばたばたさせてた
:子供みたい
:今日は切り抜きシーンが多いな?
:ホムラちゃん足バタバタ無限耐久動画来るな
「ちょっと聞こえてるよリスナーさん!? 恥ずかしいから今の切り抜きはなしにしてっ」
そろそろ頃合いかな。鍋から鶏肉をとりだして、バットに立てて置く。
「今回はもも肉を二度揚げします。本当は数分バットの上で休ませるんですが、今日のゲストさんが待ちきれないみたいなのでこれも早めちゃいますね」
マジシャンになった気分で鶏肉の上に手をかざすと、あら不思議。予熱で中まで火が通った、美味しい鶏肉の出来上がり。
「じゃ、揚げちゃいます。白雪ちゃん、そろそろ食器とドリンクお願い〜」
「……ホムラちゃん。緑茶と麦茶、どっちにする?」
「麦茶で! 白雪ちゃんが入れてくれた飲み物、キンキンに冷えてて美味しいんだよね〜!」
「ふふ、ありがとう」
:!?
:!?
:は?w
:わけわからん
:何かの手品?
:もうそんな時間経ったっけ
:こいつまた省略したぞ
:時間操作するスキルとか聞いたことねーわ
:三分クッキング(ガチ)
:物理的に真似できない料理配信は流石に草なんだ
:そもそも材料からして用意できねーからw
:ホムラちゃんかわいい
:美少女同士が絡むとやっぱ映えるな
:なんで俺はこの店に行けないんだよおおおお俺も混じりたいいいい
:店の場所がダンジョンの中でさえなければな……
:立地が悪いんだよ立地が
:紛うことなきクソ立地
「聞こえてるぞコラー」
美少女二人の絡みに沸き立つコメント欄を脇目に見つつ、揚げ終わった鶏肉を器に盛る。
後は甘酢だれとタルタルソースをかけて、野菜を盛り付ければ完成だ。
「お待たせしました。『カイザーコカトリスのチキン南蛮』になります」
「待ってました〜〜!!」
:お
:できたか
:きたあああ
:これは美味しそう
:絶対美味い奴じゃん
:綺麗なきつね色してやがる
:Aランクモンスターなんだぜ、これ
「見栄えもいいですね! しっかり厚みのあるきつね色の衣に、甘酢だれが染み込んで綺麗なグラデーションになってます! 豪快に卵を使ったおかげか、タルタルソースも
「いいよ」
:途中でやめちゃった
:草
:よっぽど早く食べたかったんやな……
:まあ食レポなら味の方が重要だろうし
「それではいざ実食――頂きます!」
ホムラちゃんがお箸で端の方の鶏肉を掴むと、そのままパクリ。
「――〜〜ッ!!」
ゆっくり咀嚼していたホムラちゃんが突如固まったかと思うと、感極まったかのように足をバタつかせ、至福の表情を浮かべた。
「んまっ、これ凄く美味しい!!! ふっくらしてて、さくさくしてて、ほかほかしててめちゃくちゃ旨い!!!」
:食レポになってないw
:めちゃくちゃ美味しかったんだろうなぁ
:擬音だらけで草
:かわいい
:やっぱり足パタパタさせてる
:本当に美味しいもの食べると咄嗟に感想なんて思い浮かばないよな
:分かる
「なんで!? 結構量があるのに、幾ら食べても食べ飽きない……! 食べるたびに味が違う! もぐっ……全然お箸止まんないよっ!」
「ホムラちゃん落ち着いてー、チキン南蛮は逃げたりしないから。そんなに急いで食べると喉に詰まらせちゃうよ?」
勢いが止まらなさそうだったので、次々と鶏肉を頬張るホムラちゃんを一旦落ち着かせる事にする。
それなりに量は作ったが、このままだとまともな食レポをしてもらう前に無くなってしまいそうだったからだ。
「んぐっ……ごめんなさい、私ったらつい夢中になっちゃって……リスナーさん達にもこの美味しさが伝わるように、ちゃんとレポートします!」
やはり探索者でもある彼女は、感情コントロールも流石というべきか。半分ほど平らげたところで彼女は落ち着きを取り戻した。
魔物料理の暴力的な旨さに慣れていない人だと、こうはいかなかっただろう。
「……カイザーコカトリスのお肉って初めて食べたんですけど、すっごく柔らかくて、それでいてたっぷり脂が乗っていてジューシー。噛むたびに脂の旨味が口の中で爆発して……まさにチキンの王様、鶏肉の旨さをガッツリ詰め込んだまさに王道の味! って感じです」
「鶏肉の良いところはそのままに、
「それに柔らかいだけじゃないんです。チキン南蛮の衣のザクザクとした食感が、上手く肉の柔らかさを引き立てていて……あと甘酢だれの染み込んだ所と、染み込んでない所で味が違うので、食感の違いも合わさって食べ飽きないんです! どんどん食べれちゃいます!」
:理性を取り戻したホムラちゃん
:そんなにうまいのか……
:超高級鶏肉みたいな感じ?
:食べてみたいなぁ……何万円くらいするんだろう
:下層の魔物食材とか基本出回らないからなぁ、相場自体が存在しないかも
:腹減ってきた
「あとはソースも最高ですね! カイザーコカトリスの卵を使ったお陰か、タルタルソースが濃厚で、けれど肉の味を邪魔せず引き立てていて……それと甘酢だれの生み出す甘酸っぱさが、上手にまとまってます。素材の味を最大限に引きだせてますね!」
まあ、ダンジョンの食材というのは、地上の食材と比べて
魔物が強力で、長生きしていればしているほど、倒してドロップする食材にはたくさんの情報が詰まっている。
カイザーコカトリスはこれでも下層で中ボス張ってる奴だからね。故に美味しい。
:ホムラちゃん食レポ上手いなぁ
:美味そう
:もう見てわかる絶対美味い
:ホムラちゃんの喜ぶ顔が見れて満足です
:やっぱ探索者となるとダンジョン食材も食べ慣れてるのかな
:まあ普通の人だと美味すぎてまともに食レポできなさそうだし、適切な人選とも言える
:今日の夕飯はチキン南蛮にするか……
「ん〜、野菜も美味しいですねっ、脂っこくなった口の中をスッキリさせてくれます!」
「ホムラちゃん、素敵な食レポをありがとう。以上、『カイザーコカトリスのチキン南蛮』の紹介動画でした」
「……店長、価格とか言わないでいいの?」
「あ、忘れてた。ありがと白雪ちゃん。価格は九百八十円です」
:やっす!!!???
:安すぎwww
:価格破壊が過ぎる
:おい下層の食材ってウン万円単位だぞwww
:白雪ちゃんが呆れた顔してる……
:まともに商売する気ある???
:あったらダンジョンの中に店なんか構えないんだよなぁ……
:正気じゃないな、色んな意味で
:この人いつもこんな感じだから
「とまぁこんな感じで、当店ではダンジョン食材の味を活かした料理を提供してます。気になった人は是非お店に来てくださいね!」
:だから行きたくても行けないんだよw
:渋谷ダンジョン下層は一般人が通える場所じゃないから
:探索者向けのお店じゃないのこれ?
:探索者でも下層まで行けるのはほとんどいねぇよw
:来て欲しけりゃ立地をなんとかしろ
:地上に店出してくれ
「前の動画でも言ったけど、地上でお店出せないんですー! お店の場所も変えられないし、だからこうやって動画で宣伝してんの! ちょっとでもお客さん来て欲しいから! いやマジで!!」
:逆ギレは草
:また店主さん発狂しちゃった……
:い つ も の
:煽り耐性低すぎだろwww
:まーた炎上しちゃう
:ほんと面白いよなコイツ
◆◆◆
新連載始めました。
現代モノ、料理モノいずれも執筆未経験ですが、なんとか形になっていれば幸いです。
少しでも気になる事がありましたら、コメントで教えてくださると幸いです。
よろしくお願いいたします。
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