第73話 美少女に降りかかる災難(3)

 「も~~、何なのよ今日は!(全然、デートじゃないじゃない!)」


 大蛇の太い胴体に、ワイバーンの爪から作られた槍を突き刺し。

 クラリッサがオレンジ色に染まり始めた空に向かって怨嗟の声を放っている。


 「まぁまぁ、でも良かったじゃないか。こんなに大きな大蛇に立ち向かえたんだ。これなら、ゴブリンぐらい簡単に倒せるだろう」


 あの後、大蛇は頭部を失ったというのに、何故か蘇生して動き始めたのである。

 ただ目と脳を失っていたからか、まるでトカゲの切れた尻尾のような出鱈目な動きをしていた。


 それでも胴回りが電信柱よりも太いので、人間にとっては脅威であった。

 しかも側に居たのが、華奢な身体つきをした美少女ならば尚更であろう。


 しかし血まみれになったクラリッサは違った。

 何かが吹っ切れたように、闇雲に体当たりしてきた蛇の攻撃をひらりと躱すと。


 そのまま地面に縫い付けるようにして、大蛇の胴体を槍で串刺しにしたのだ。


 それでも動き続ける大蛇の胴体を、遅れて駆けつけたヴァイスがバスタード・ソードで輪切りにした事で。

 ようやく戦闘が終了したのである。


 「えっ、本当?」

 「ああ、立派だったよ」


 「やった~♪」


 ヴァイスが掛けた誉め言葉に嬉しそうに飛び跳ねているが、綺麗に編み込んだはずの金髪がほずれ。

 白い玉のような肌を大量の血で汚していては、美少女が台無しである。


 「あっ、そうだ。綺麗にしてあげるよ。え~~っと確か、レミラ・クローアー……」


 そこでヴァイスは、ナタリアから教わったばかりの魔法を唱えてみた。


 何もない空中から透明な液体が湧き出し。

 美少女の全身を覆ったかと思えば、次の瞬間には宙に浮かんだ。


 「むーーーー!!!!ブクブクブク……」


 大きな水の球体の中。

 美少女が金髪を振り乱し、両手で口を塞いで何か喚いているが、一度発動した魔法を止める術をヴァイスは知らない。


 ゆっくりと反時計回りに回転を初めた水に流され、美少女が水球の中でぐるぐると回転を始める。


 「す、すまない。これ、洋服だけを洗う魔法だったみたいだ……」


 ナタリアから教わったのは、俗に言う洗浄魔法であった。

 しかし効果を口伝てで教わった事もあり、彼は服を着たまま綺麗にしてくれる魔法だと勘違いしていた。


 と言ってもそこは魔法、1分も経たないうちに大きな水球が割れ。

 ずぶ濡れになった美少女が地面の上に降り立った。


 「も~~魔法を使うなら使う……とッ!今度はなに!イヤ~~ちょっと止めてよ~~~!!!」


 しかし彼が使った魔法の効果はそれだけではなかった。

 今度は生暖かな風が美少女を包んだかと思うと、先程と同じように球体状に集まり。

 空中で華奢な身体を翻弄し始めたのである。


 「あっ、自動乾燥も付いているのか……。なんか、色々とゴメン。先に謝っとく……」


 先程の激しい水流により、綺麗に編み込んだ金髪が完全に解けてしまっているが。


 今度は外套だけでなく、その下に着ていたへそ出しシャツまでが、大きく捲れてしまっている。

 あと露わになった伸びやかな白い生足もそうだが、ホットパンツのボタンまでもが、もうすぐ外れそうであった。

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